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デビュー作家が「小説講座」で学んだ、受賞のために必要なこと

小説の書き方を教えてください! と言われると、僕なんかはうーむと困ってしまう。
でも、それを体系的に教えてくれる場所がある。

それが、小説講座だ。

小説を書きたい人に小説の書き方を教えてくれる「小説講座」。
デビューに向けて切磋琢磨するピリピリした場もあれば、趣味としての創作を楽しむゆったりとした場まで、いろんな小説講座が各地に存在する。
ゲストにプロ作家や編集者を招いて、創作について実践的な話をしてくれることもあるそうな。

小説をただ書きたいだけでなく、少しでも「上手くなりたい」「デビューしたい」と思っている人にとっては、とても心強いサポートを受けられる場所の一つである。

そんな小説講座で実力をつけてデビューに至った一人が、『隠れ町飛脚 三十日屋』で第九回ポプラ社小説新人賞・奨励賞を受賞した鷹山悠さん
鷹山さんが学んでいたのは鈴木輝一郎さん主宰の小説講座で、たくさんのデビュー作家を産み出している人気の教室だ。

それにしても、小説講座って、どんなことを学べるの?
そもそも初歩的なところ? それともデビューするためのテクニック的なところ?

そんなことを聞いてみたいと思ったので、小説講座のカリキュラムや学んでいたことなどを鷹山悠さんに伺ってみることにした。

※前述の通り、小説講座は様々な形があります。
今回は鷹山さんが受講されていた講座の話になりますので、あくまで一例としてご参考にしてください。いろんな小説講座を調べたうえで、ご自身のスタイルにあった教室を受講することをおすすめいたします。

(聞き手:文芸編集部 森潤也)


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<鷹山悠さんプロフィール>
第9回ポプラ社小説新人賞・奨励賞を受賞し、『隠れ町飛脚 三十日屋』でデビュー。


独学の限界を感じた


 鷹山さんは鈴木輝一郎さんの小説講座に通われてデビューされましたが、小説講座に通おうと思ったきっかけは何だったんですか?

鷹山 中高生の頃からずっと投稿を続けていて、運良く最終候補に残ったこともあったんですが、出産などで生活が変わり、何年かブランクが空いてしまったんです。でも書きたい思いはずっと消えなかったので投稿を再開したんですが、一次であっさり落選。このまま独学でやっていても受賞は無理だな……と思ったのがきっかけです。

 独学では無理……というのは、どういうところに限界を感じられたんですか?

鷹山 投稿再開時に書いた原稿を知り合いの作家さんが読んでくれて、「構成をもっと客観的に見れるようになった方がいい」とアドバイスをくださったんです。私は構成がすごく苦手だったので、良くなっているのか悪くなっているのか自分一人では分からないまま書き続けてしまうのではないかという不安があって、客観的な目線がほしいなと。

 小説講座もいろんな講座があると思いますが、鈴木輝一郎先生(以下・鈴木先生)の講座を選ばれた理由はありますか?

鷹山 当時は鹿児島に住んでいたので、地方在住で子供がいても受けられて、ネット受講で完結できるところにひかれました。金額的にも高額ではないですし、受講生同士の交流がない教室だという説明を受けてマイペースにやれそうだなと思って決めました。


小説講座のカリキュラムとは

 鈴木先生の小説講座は、どのようなカリキュラムになるんですか?

鷹山 「受講生が自分自身で書くことを鈴木先生がサポートする」というのが基本スタイルです。メールで鈴木先生とやりとりができるので、こういうところに投稿したいと思ってます……などいろいろ相談に乗ってもらえます。
ほかにも毎月オンラインの講座があって、ゲストの作家さんのお話を伺えます。
講座ごとに課題図書が決まっているので、その本について作家さんに質問ができたりしますね。

 小説の書き方って作家さんごとに違うと思いますけど、色んな人のやり方をどのように吸収できましたか?

鷹山 新人賞を受賞したくて書いてる人が多いので、受講者みなさんの質問一つ一つがリアルで、その答えも実践的なものが多くてすごく参考になりました。
鈴木先生がゲストの作家さんに「受賞するためになにが必要か」という質問を毎回されるんですけど、その答えはみなさん共通していて勉強になりました。
自分のオリジナリティを突き詰める……みたいな話はあまりなくて、「最後まで書く」とか、「書き続ける」とか、「書くための体力をつける」といったポイントを皆さんあげられていて、プロ作家さんたちの共通点が見えるという意味でも、色んな人の話を伺えるのはすごく面白かったです。

 聞く講座だけでなく、執筆について具体的な課題や宿題が出たりするんですか?

鷹山 月ごとの課題はありません。完成させた原稿に対しては、改善点や次に取り組む課題などを指摘してもらえます。なので、それぞれの書く意志が問われますね。
そのぶん、書いたことがない人も受けやすい講座だと思いますし、小説を書いたことのない人に対しては、こういうとこからはじめて……みたいなサポートもしてくれます。

 なるほど……。じゃあ、鈴木先生が受講者それぞれのレベルに応じたサポートをしてくれる感じなんですね。

鷹山 そうですね。やはり小説は自分が書かないといけないものなので、本人に無理がなく自力で書けるように、というスタンスでした。

 基本的には鈴木先生と一対一のメールのやりとりがメインだと思いますが、受講生同士で原稿を読み合うということはなかったんですか?

鷹山 まったくなかったです。でも、私は他の人の感想を聞きたいとあんまり思わなかったので、合っていたと思います。小説を書いている仲間と知り合えないことだけは少し残念でしたけど。

 具体的に指導や講座を受けて、一人で書いていたときから変化や学びはありましたか?

鷹山 鈴木先生やいろんな作家さんの話を聞いて、プロの作家さんの努力のレベルの高さを学べましたし、厳しい世界なんだなあと心構えができたのはすごくよかったです。
また、もともと少女向けを書いていたんですけど、年齢的に一般向けジャンルを書いてみてはと勧められたんです。自分が一般向けを書けるなんて思ってもいなかったので、そうしたアドバイスをいただけたのは大きな学びでした。

 noteの過去記事でも書きましたが、ジャンルと書き手のマッチングってすごく大事で、でも自分一人だと気づきにくいところがあると思います。それを外からアドバイスを貰えるのは、すごく貴重ですね。

資料を読むということ

 講座では他にどんなことをされるんですか?

鷹山 基本的には、必ず文法のテキストをやるように言われますね。

 文法?

鷹山 中学生の国語文法です。これをやって、最低限の文章力がチェックされます。

文法問題集


 うわー、文法なんて久しくやってないので、僕ぜったい無理です(笑)

鷹山 自分も、解けるかかなりドキドキしました(笑)
あとは登場人物の作り込み方や、資料の読み方も教えてもらいました。
それまでは齧る程度にしか資料を読んでいなくて、自分の書けそうなものだけを書いていたところがありました。だから一人で書いていたら、資料をしっかり読むことについて意識もしなかったと思います。
資料を読んで落とし込めばこんなものを書けるんだな、と感じたのが昨年応募した作品で、それで最終選考まで残れたので、すごく手応えの実感がありました。

※鷹山さんは第8回ポプラ社小説新人賞に『天使たちの夜明け』という作品で最終候補に残っています。

編集者の指摘による、原稿の向き合い方の変化

 小説講座では、鈴木先生が編集者的な立ち位置で小説のレベルアップのサポートをしてくださっていたのだと思います。
今回デビューにあたって、実際の編集者が付いて改稿をしていったわけですが、そこでの発見や違いなどありましたか?

鷹山 どちらからも学びしかなかったです。でも、編集さんに付いてもらって、原稿に対する意識は変わった気がします
講座では基本的に「新人賞を受賞できるレベルにすること」を目標として教えていただきましたけど、編集さんからは「これを読むであろう読者がどこを見るのか、何を求めているのか」ということを指摘いただいた印象があります。
商業としての小説は、受賞するためのものではなく人に読んでもらうためのものなんだな、ということをあらためて感じました。

 「読者に読んでもらうためのもの」という意識はすごく大事だと個人的に思うのですが、その意識を原稿やゲラに落とし込むのはすごく難しい気がします。改稿ではどう手を入れていったんですか。

鷹山 私は文章が下手だという自覚があるので、いろんな時代小説を読んで研究して、読者の読みやすさと、時代小説としての描写を意識して直しました。
あと、私は構成を手書きで書くんですけど、初校のゲラをやりながら二回くらい書き直して整理しましたね。

 え、手書きなんですか!? 

鷹山 やはり話の全体像を一枚の紙で見たいんです。どこで何が起きるかを確認して、どこを変えればどこと繋がるか……を整理するために、手書きで書いてます。
ラフな構成を書いたら、最終的には再度ノートにまとめ直します。なんだか話が行き詰まるな……と感じたら構成をやり直しますね。

ノート(四話)

(これは、何度か整理したあとの状態です)


実際に本ができるということ

 小説講座での学びを経て、いよいよデビュー作が刊行になります。デビュー前に思い浮かべていた作業イメージと、実際の違いはありましたか?

鷹山 脱稿するまでの期間はもっと急かされるのかなと思ってましたけど、思っていたより急かされなくて安心半分、不安半分でした(笑)
あとは校正ゲラや表紙デザインなどが出てくると、すごくたくさんの人が関わってくれてるんだなあと……としみじみ感じました。

 特にデザインやイラストは、デビューするまで関わりがないですものね。

鷹山 そうなんですよ。人にもよると思いますが、自分の小説のイラストイメージがあまりなかったので、イラストを拝見して「おお、こんな感じなんだ!」と感動しました。主人公、こんなに素敵な人だったのね、と。

 作品の顔であるカバーができると、我々も「こういう作品だったんだね」と発見と感動があります。
そんな鷹山さんのデビュー作、多くの人に読んでもらいたいですね。

鷹山 はじめて一般の読者さんに読んでもらうのでどきどきです(笑)
連作短編形式で、時代小説を読み慣れていない方にも読みやすいのではないかと思いますし、読み終わってほっと本を閉じてもらえるような読後感になっていると思うので、多くの方に興味を持っていただけたらと思います。
次の作品も読みたいと思ってもらえると嬉しいですし、さらにもっと楽しんでもらえる作品を書けるように頑張りたいです。

 たくさんの人に届けていきます! 鷹山さん、本日はありがとうございました。

鷹山 ありがとうございました!


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<内容紹介>
長屋の腰高障子に書かれた細い月。それは「三十日屋」の印だ。
三十日屋は隠れ町飛脚。お上の許しを得ずに、こっそり営んでいる飛脚屋である。後ろ暗い商いはしてないが、扱う品は変わっている。
「普通の飛脚屋では扱えない『曰くつき』の品であること」
「お代はお客自身が決めること」
そんな二つの条件に見合った品だけを届けてくれるというのだ。
三十日屋を営むのは年増の女性・お静。とある過去を抱えているようで――。


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