ポップインサイト創業期(4)〜日本版ユーザーテストの開発

研究会を数回開催する中で、参加者から「自分達でユーザーテストをしたいものの、テストしている様子を人に見られるのは恥ずかしい」「時間がかかりそうだし、分析を自分でするのも大変そう」といった感じの声がありました。 

日本初のリモート・ユーザテストの開発へ

私は当時既にユーザーテストが海外でとても高いニーズがあることを知っていましたし、日本でもこれを拡めたいと思っていましたので、研究会のアンケートで「海外で人気が高いユーザーテストを数千円からしてもらえるような日本版サービスがあればやりたいですか」とヒアリングしてみました。 その結果、多くの「やってみたい」という回答が返ってきました。そこで、私は喜多君と一緒に日本版サービスを作ることにしたのです

当時海外で行われていたユーザーテストはどのようなサービスだったか。それは、自宅で調査に協力してくれるモニター候補が何千人何万人といて、その中から、その対象サイトに適した属性のモニターを選び、その人達にクライアントのサイトを使用してもらい、その使用する様子を録画し、分析し、そのデータをクライアントにフィードバックするというものでした。

▼一番最初のリモートユーザテストサービス
https://www.usertesting.com/
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例えば、ペット用品の通販サイトであれば、動物用の通販サイトを使ったことがある人とか、ペットを飼っていてこれからネット通販で買いたい人をモニターのリストから選択。 そして、そのモニターがそのサイトを使っている様子を録画します。 その上で、録画したデータを運営側に送ってもらい、分析を加え、それらのデータをクライアントの元にフィードバックするという流れです。

リモートユーザーテストの利点

それでは、このサービスは一般的なユーザーテストと比べて、何故そんなに海外で人気を博しているのでしょうか。

一般的なユーザーテストは、まずテストを行う場所を用意する必要があります。次に、横に座ってもらわなくてはテストができませんので、モニターとなる人を調査の場に呼んで来なくてはいけません。そして、テストしている時には、横に座って『モデレート』をする必要があります。『モデレート』とは司会進行みたいな感じの担当者が横について、「こんな感じで使ってみてください」とか、使い終わったら「どうでしたか?」といった感じで進行することです。この『モデレート』をしなくてはいけません。つまり、『場所』『人』『当日の進行』という3つの大きな手間が発生する訳です。

私が取り入れようとしていた海外のユーザーテストは、この3点の課題を完全に解消する、『リモート・ユーザーテスト』と呼ばれる形式のものでした。

これまで研究会で行っていたユーザーテストは、人が横についてモデレートをする『モデレート式』のユーザーテストです。
今回導入しようとしているのは『アンモデレート式』と呼ばれる、横に人がつかずにモニターが一人ひとりで各自のタイミングで画面のタスクを読み上げながら進行するという調査方法なのです。

『リモート・ユーザーテスト』は、モニターが自宅などで自由にやってもらう手法なので、運営側は場所を用意しなくても大丈夫です。 モニターに現場に来てもらう必要もありません。『タスク』と呼ばれるPCに表示させる手順説明の画面を事前に作り、自宅などで自由に好きな時間にしてもらって良いので、同じ時間に居る必要がありません。横でモデレートする必要もありません。

ということで、リモート・ユーザーテストでは場所と人と時間の3つの問題が全て解消されます。故に場所代、モデレーターの人件費や交通費などの諸費用が不要になるため、安価にできるというメリットもあります。

最小コストでMVP(最小限のプロダクト)を作る

この様なリモート・ユーザーテストの『日本版』を作成しよう、というのが私達の意図でしたが、当時の私達には、モニターの人達のPC画面に『タスク』という動作の進行画面を見てもらう手法の知見がありません。テストの様子を録画する方法の知識もありませんし、さらにはモニターを集める方法や仕組みもありませんでした。

そういう中において、いきなり全部これを作るのはすごい大変だと。その段階では、システムを作った結果ニーズが得られるかどうかもわからないし、壮大なシステムを用意するお金も潤沢にあるわけではありません。人に至っては、私と喜多君の2人しかいないという所からのスタートでした。

そこで、 なるべく最小のコストで、 シンプルでもスタートを切れる最小限のプロダクト“MVP”を作ろうと。そんな感じで仕組み作りをスタートしたのが、2012年のゴールデンウィークでした。

最初はなるべく既存の仕組みを組み合わせ、お金をかけずに作る(なんとかなる)

「こう操作してください」という『タスク』画面をPCに表示させ、操作している画面と音声を録画し、録画したデータをこちらに送ってもらう、という最小の仕組み。

この最小の仕組みさえできれば、それに付帯するテスト環境のセッティングとかモニターへの手順の説明の様なものは、口頭やメールや電話で頑張って伝えればできます。そこでまずはこの最少の仕組みを作ろうということになり、まずは『画面にタスクを表示する』こと、次に『操作する様子を録画する』という仕組み作りから着手しました。

画面にタスクを表示するのはHTMLページを出すだけですので、そんなに難しくありません。

シンプルに、まずはページ1に行ってこれをしてください、 次にページ2に行ってこれをしてください、次にページ3・・・と続き、最後に、使い易かったですか? 使い易くなかったですか?と表示して聞いて行けば良いだけなので、特に難しくはありませんでした。

しかし、次のステップの、『録画をする仕組み作り』というのが、かなり大変だったのです。

まず、このシステムをゼロから作るのは非効率だと、外部のツールを活用することにしました。 この頃既にそういう録画ツールは、世の中にいくつかあったので、その中で商用利用出来てユーザーに無料配布しても問題なく、Macとかwindowsで動作がちゃんとできる物を片っ端から調査していきました。

ソフトを新たにインストールしてもらうと、モニターの手順が増えて実施のハードルが高くなるので、なるべくWEBブラウザだけで出来るようなツールを探しました。

その結果、海外に、ブラウザ上で使用できて、ボタンをクリックしたらデスクトップ全体が録画でき、音声も録音できるというツールを発見しました。

これならば、ソフトをインストールしなくても良いし、 手軽に録画ができるので、このツールが使えればモニターが使用するのが簡単です。最初は既存の仕組みを組み合わせてお金をかけずに作ることを目指しましたが、試行錯誤の末に何とかなりそうなツールの目処を付けることができました

そこで、次はこのツールを実際に試してみることにしました。

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