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父の介護あるある #1 ケアマネさんの前では、たとえ立てなくても、そんなそぶりを見せず、見栄を張る

「ぽっぷごーず」のあらたです。
今日は父の祥月命日なので、供養ということで、ちょっと思い出したことをつれづれに。

父はいわゆる「プライド高い小心者の田舎のおっちゃん」でした。

自分が得意なこと、好きなことはめっちゃ張り切るけど、苦手なこと、嫌いなことは無視。
家族の失敗はめっちゃ怒るが、自分の失敗はひたすら隠して、なかったことにする。

医者とか病気とか死ぬとかいうワードが大嫌い。私が子どもの頃に、正月のお笑い番組で「餅喉に詰めて死んだらあかんで〜」と言ってる漫才師に「なんやこいつらは、正月早々縁起悪い!!!消せっ!!」とブチ切れた(爆笑)

大人になってから冷静に考えると、あれは「嫌い」じゃなくて「怖い」やってんなーと納得できるが、当時はそんな口ごたえできないから、黙ってテレビ消しましたけど。
そのレベルのエピソードは山ほどあるが、今回はそういうテーマじゃないので、そこは置いといて。

そんな父が、80歳の時、腰の具合が悪くなった。
ベッドから起き上がれない。時間をかけてようやく起き上がってもそろそろしか前に進めない。なんならトイレ間に合わない時もある。その時はこっそり母にバレないようにお着替え(バレてるけど)

前からそんな兆候があったけど、ある日決定的に悪くなり、なんと車椅子を使わないといけなくなった。

そのあたりのことは、こちらにまとめてみた⬇️

ここで書いていた「せん妄」については、担当医のお言葉どおり少しずつ解消されたのだが、腰は回復しないので、生活にかなり支障が出る。
本人も、うまく動かない自分の体が歯がゆいらしい。ただ、小心者のビビりなので、転ぶのが、そしてケガして痛いのが怖いから、無茶せずそろそろ慎重に歩いてくれるので、それは助かった。

すぐに整形外科に行ってみたけど「レントゲンは特に異常ないです。運動不足ですね。筋肉全然ないですから。リハビリがんばりましょう。」のコメントのみ。え?それだけ??
もっと何かないんかい??すぐに治らないんかい??突然動けなくなってんけど…こんなことある??

母も持病があり、とてもじゃないが父の世話を1人で見ることができない。
車椅子に乗る父を見て、母はすでにぷちパニックを起こしている。

なんで?なんでこの人歩けないん?
私がこれ押すの??もう一生歩かれへんの?
これからどうやって生活するん?いや無理無理ムリ!!私、自分のことで精一杯やねんけど…

…だよねー。そのショックはわかる。誰かのサポートいるよね。でも私もあれこれ予定があり、はい明日から来ますね、とも言えない。
とにかく福祉の受けられるサービスあるかどうか調べるわ。
ってことで、運良く取れた平日の休みに市役所に駆け込んで事情を説明した私。

幸い、すぐに地域包括支援センターの人が様子を見にきてくれた。
父の様子を見て、母から事情を聞き、私が補足して、事情を把握するとテキパキと手続きを進めてくれた。
心地よいスピードだが、父も母も、全くそのスピードについていけてない。
かろうじて私が、全身耳にして、初めて聞く言葉を必死で聞き取り、返事をする。

これ、私も今後どうなるんだろうか。家族と離れて両親と同居?ここから通勤?いや、こんな状況で仕事無理か。介護休暇取らないとあかんのか?何日間?いや何ヶ月?一年以上かかる??
頭の中はターボエンジンついてフル回転。
その横で、両親は今の自分たちの状況を受け入れきれず、すでにぼんやり飽和状態。

そんな時に、神の言葉を聞いた。
さきほどからテキパキ手続きしてくださってる、地域包括支援センターの担当さんだ。

「あらたさんもいろいろ大変だと思いますが、お仕事辞めずにできるやり方を考えましょうね。がんばりましょう」
その一言に涙が出た。
ありがたや。サポートサイドの方からそんな風に言っていただけるんだ〜。はい!がんばります!!

とりあえず、生活にすぐ必要な、リクライニング機能のついた介護ベッドと、家の中で立ち上がって移動するための手すりをすぐにレンタルした。ベッドのリクライニング機能はすぐ必要ではないので、父が嬉しがって勝手に操作しないよう、コントローラーをベッドの下に隠しておいた。弟と私、先見の明があるやん。ファインプレーよね、と自画自賛した(爆笑)

介護ベッドはすごい。
きっとマットレスがいいから、腰への負担が少ないのだろう。
使い始めてすぐ、父は寝返りが打てるようになり、ゆっくりながら自分で起き上がれるようになった。え?それだけでそんなに違うものなの??
さすがは餅は餅屋。介護用品は専門のメーカーのものがよいのね。母もその違いにびっくりしていた。
新しいもの好きな父は、思いがけず快適なベッドになりご機嫌。寝心地もよいのか爆睡していた。

それまで使っていたベッドは、年季が入っていてきっとどこか歪んでると思ったけど、父が気に入ってて、ずっと替える気ゼロ。
だったのに、新しい快適なハイテクベッドに有頂天になったので、前のベッドの処分にあっさり同意してくれた。なんのこっちゃ。

地域包括支援センターの方から紹介されたケアマネージャーさんが両親の家に面接に来た時には、父はプチリフォームした家で快適に暮らすドヤ顔のじいちゃん状態だった。介護の面接というより、ビフォーアフターの取材みたいな得意げな顔。なんか間違ってないかい??

ケアマネさんを招き入れ、ソファーにどっかり座り、質問に答える父。腰に力が入らないので、ソファに座るとふんぞり返ってしまうのです。悪意や敵意はありません。
いやもしかしたら、これで全ての問題は解決したで、もうあんたに用事はない、でもせっかく来たから話はしたる、と思っていたかも。
どっちにしても、ケアマネさん、本当にごめんなさい。

若いケアマネさんは、穏やかな笑みを浮かべつつ、爽やかに質問を続けていく。

お元気そうですね。
ベッドの使い心地はいかがですか。
寝返り打てますか?ベッドから起きあがれましたか?
じゃあ、ちょっと今ここで立ってもらってもいいですか?

そう言われて、「ああ、いいですよ」と軽く返事をして、父は立って見せようとした。

…いや、ムリでしょ。あなた、そこから介助なしで立てないでしょ…

腰に力が入らなくなった父は、立ち上がる時に重心移動にコツがいる。まず体を前傾させ、手すりをつかみ、重心を前に移してからゆっくり立ち上がる。手すりを取り付ける時に教えてもらった。
だが、殿様のようにソファーにふんぞり返った父はそんなめんどくさいことはせず、今まで通り、手すりなんか持たずすっくと立つところを見てもらおうとしていた。

もちろん、立てない。

「絶対ムリやん。どう見ても立てるわけないやん、これ」と私は心の中副音声で呟いていた。

ケアマネさんは、変わらず笑顔で見守っている。

若者にええカッコ見せたい父は、ソファーにふんぞり返ったままもう一度「ふんっ!」ときばってみた。

もちろん立てない。
だろうね。

ケアマネさんは変わらず笑顔。
なんてイケメンなんだ!!この状況にこんな穏やかな笑顔だなんて。

父はもう一度「ふんっ!」ときばった。

…まだ諦めてないんかい…

顔が真っ赤になるまできばった後、ついに父は諦めた。
ソファーにふんぞったまま

「んー、今日は、やめとくわ」

マジか?!
私の目がまんまるになった。
立てないのではなく、強い意志を持って立たないのだとおっしゃるんで???
これが吉本新喜劇なら、父は池乃めだか。
周り全員椅子持って転けてまう〜、のお約束のシーンだ!!!

父さん、なぜそんなに堂々とできる???
もはや潔くてかっこよさすらあるわ。
娘歴50年近くなるが、この威厳ある態度?につい感心してしまった。
まだまだ修行足りないわ、私。

そして、ケアマネさんは、笑顔のまま「そうですか。じゃあまた見せてくださいね。」と話を終えた。

プロってすごいなぁ。

絶対父が立てないのはわかる。
でもそれを指摘しない。
本人が「今日はやめとく」なら、今日はご本人の意思で立たないだけなのだ。
もちろん、ケアマネさんは父が「立てるか立てないか」を判定したいだけなので、深追いする必要はない。
それでも、家族ならここで「父さん、そら無理やろ、そんなかっこうで立てるわけないやん。手すり使わな〜」とか余計なひと言を言ってしまい、地雷を踏むのだ。
キジも鳴かずば撃たれまい。いらんこと言わなかったら父もブチ切れない。平和が保たれる。

はぁー、勉強になります。

お願いです。
このイケメンなケアマネさんが、気持ちよくお仕事続けられるように、辞めたいと思わないように、
お給料をはずんであげてください〜!!!
ボーナスも出してあげてくださーい!

心の中副音声で呟く私。ケアマネさんから後光がさしてます✨✨

母はと言えば
とっくの昔に
「このオッサン何言ってんねん、アホとちゃうか」とそっぽを向いている。

…ですよね〜😅
音声にしていない母の声が、ダイレクトに聞こえてきた気がした🤣🤣🤣🤣

父は、相変わらずソファーでふんぞり返っている。
母は怒りを通り越して呆れている。
私は、穴があったら、というより、穴掘ってでも入りたいくらい恐縮している。

「これが親の介護かぁ〜」

しみじみと思った瞬間だった。

もちろん、私はケアマネさんお見送りするフリをして、マンションのロビーで父の実情を全力で語りましたけど😆😆😆
ケアマネさん、冷静に全部聞いてくれましたわ。
ほんっと、イケメン❤️

そんなこんなで、父の介護が始まったのでありました。

我らアラカン世代。
友だちと話していても、子育てネタはほぼ終了。
親の介護話になってきた。

何年も大変な介護をしたわけでもない私から、たいしたアドバイスはできないけど、
介護あるある話なら披露できる。

ささやかなエピソードやけど、「なーんや、うちだけじゃないんや。みんなそうなのね」って、ちょっぴり気が楽になってもらえたら嬉しいかな。


7年前の3月1日
母が逝って2週間経っていた。
持病があったけど在宅での生活を強く望んだ父は、弟や私とその家族、ヘルパーさんやデイサービスの助けを借りながら、とりあえずは元気に生活していた。
この日も父の家に行き、「じゃあまた来るからね」と挨拶してドアを開けて出た時
マンションの廊下から不思議な雲を見た。

真っ暗などんよりした黒い雲に
ナイフをスーッと当てて裂いたような
ぱっくり割れ目から濃い夕焼け空が見えた。

あまりに不思議な色の空で
思わず慌てて携帯で写真を撮った。
なんだか妙な落ち着かない、ザワザワした気持ちになった。

翌日、出勤してすぐケアマネさんから電話があった。
朝、父の家に行ったヘルパーさんが
すでに息をしていない父を発見したのだった。

マンションの廊下から見た空は、何かの予兆だったのか。

父の腰が悪くなってから、母が逝き、父がまた逝くまでのあの半年のドタバタを、
7年経って心穏やかに振り返ることができるかどうかわからないが、
備忘録として、介護あるあるをぼちぼち書いてみようと思う。

【つづきは また いつか】

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