見出し画像

「GREEN SPRINGS」vol.4街の価値を育てるPR

2020年、立川のみどり地区に未来型の文化都市空間『GREEN SPRINGS』がオープンしました。街区には多摩地区最大規模の多機能ホール「TACHIKAWA STAGE GARDEN」や、最上階には全長60mのインフィニティプール、全客室52㎡以上/バルコニー付きのホテル「SORANO HOTEL」の他、オフィス、ショップ、レストラン、広場が。心にもからだにも健康的なライフスタイルをテーマにした「ウェルビーイングタウン」です。

その『GREEN SPRINGS』のコンセプト開発からロゴやツール類のデザイン開発、PRまで一連のプロジェクトを運営してきたPOOL inc。前回は、コンセプトを浸透させるためのコミュニケーションデザインについて話しました。vol.4ではコンセプト開発と連動するPRについてお話します。


このプロジェクトに関わったメンバー

小西利行/クリエイティブディレクター(POOL inc.)
丹野英之/アートディレクター(POOL inc.)
内島来/プロジェクトマネージャー(POOL inc.)
高橋慶/プロジェクトマネージャー(POOL inc.)
信多一慶/プロジェクトマネージャーアシスタント(POOL inc.)
明山淳也/プロジェクトディレクター&マネージャー(株式会社GOODTIME代表取締役/POOLエグゼクティブアドバイザー)


育てるPR

内島
プロジェクトに関わり始めた2017年当時、既に東京オリンピックの開催は決定していて、世の中的にいろいろな開発が動いていました。オリンピックへ向けて情報が洪水のようにあふれることが予想できました。そこで、キーワードとして置いたのが「育てるPR」でした。

一般的な商業施設は、開業の一ヵ月前から広告を打ち、PRのピークを開業時に合わせて、一気に動き出すケースが多い。しかし、そうすると一過性のものになってしまいます。結局のところ「街ができてから」が大事で、十年後、二十年後を見据えなければいけない。そこで、早い段階から情報を出していき、徐々に価値を上げていくPR方針に決めました。

高橋
「育てるPR」の概念を元に具体的に何をやったのか。最初のフェーズでは日経新聞に村山社長にプロジェクトにかける意気込みを語っていただきました。

内島
ウェブサイトやティザーサイトができたのが開業の二年前。他の街区開発を見ていても、これほど前から情報を出すケースはあまり類を見ません。その一年後に立川の近隣の人たちに向けて「ウェルビーイング・フォーラム」が開催され、POOLも登壇しました。「ウェルビーイング」を街に根付かせるという目的が大きかったのですが、開発の過程をみなさんに伝えることが重要だと思いました。また、プロジェクト開発者たちによる「ウェルビーイング」をテーマにしたトークセッションが行われました。それらをコンテンツとして上げていった。


小西
POOL incはもともと広告を生業にしているので、コンセプト開発からデザインワークもやりますが、当時からPRもコンセプトと連動して開発しています。ポイントは二つ。

「育てるPR」は良いキーワードだと思うのですが、それがプロモーション的なものなのか、ブランディング的なものなのかを明確にする必要があります。プロモーション的なものであれば、人をたくさん呼んで一気に情報を流布して販売促進するという方法になります。ブランディング的なものであれば、プロモーション(一気にやることの正しさ)は一先ず置いておいて、その後の街の価値を引き上げていくということを進めていくことになります。

2020年にオリンピックが東京へ来て、人と情報があふれることにより混乱が起きることを想定した時に、「何万人が来ました!」という瞬間風速を上げるためのプロモーションよりも、「100年つづく街」に重心を置いて長い時間をかけて愛される街をていねいにつくり込んでいった方がいい。その愛着を抱いてもらうためにブランディングを進めていきました。

ブランディングのためにPRをする。根源にあるコンセプトからブレイクダウンして最後まで進めていくことが重要だと思っています。これが一つ目。

二つ目は広報PRについてのプロジェクトマネジメントについて。外部からのプロジェクトディレクターである明山さんがいるおかげで、僕たちの広告的なスタンスが地上から離れていこうとするのを、ロジカルな視点から地に足をつけさせてくれています。

ホテル開発と商業施設の開発だけでもプロジェクトの数はすごい量になります。さらに街の開発となるととんでもない数の人たちが登場することになる。〝〇〇部会〟という名称が毎日のように増えていき、一つひとつを把握することが困難になってきます。そうすると、人のコンセンサスの流れやコミュニケーションをマネジメントしていくことが要となります。それができなければ空中分解してしまいます。そこをしっかりとバインドすることが課題となってくる。それを全体としては山下設計の岸川さんとFrameworksの久保さんがコントロールしてくれていました。

高橋
短期間で形にする広告とは違い、今回のプロジェクトは長距離マラソンのようなイメージです。関わる人も増えていくので、情報が混雑してしまうことがこのプロジェクトの大きな課題だと思いました。心掛けていたことは二つ。

広告の仕事の場合は、ブランドマネージャーのようにマーケティングに長けている人たちとのコミュニケーションが多いので、専門的な話の導入ができます。ただ、今回は複数の専門分野の方々が集まるプロジェクトなので、マーケティングをできるだけわかりやすく噛み砕いて説明することを心掛けていました。それが一つ。

二つ目は、とにかく僕(あるいは僕のチーム)に質問をすれば、広報PRについての各部署の現状を答えられるようにしようと思っていました。「広報PRのことはあの人に聞けばわかる」という状況をつくれば、僕のところに全ての情報が集まってくるし、僕からも正確な答えを返していくことができるので、齟齬が生まれる確率が減ります。

内島
例えば、名前やロゴマークを考える中で、それぞれのキーパーソンが複数名いるので、そのような方と連携する必要があります。提案に対して意見を汲み取ったり、反対に意見したり、そのようにして「提案」自体の質を高めて、より良いものをつくっていく。関係者が多いと大変ではありますが、結果的に様々な意見を聴くことでより良いものが最終的に形になりました。


小西
これだけプロジェクトが多いと、ずっとそこで働いている人だけでなく、一時的にやってきて途中で抜けていく人が出てくる。プロジェクトに関わる人の情報の深度がランダムで、混沌とした状況になっています。

それぞれが分断せずに情報が交流する「流れ」のようなものをつくる必要があります。非常に難易度の高い課題ですが、それができると情報は潤滑に流れ、コンセプトは明確になっていきます。だから、単純にコンセプトワークをやって「はい、終わり」ということではなく、一生懸命ブレイクダウンしていく。

コミュニケーション上の話と同時に、広報PRのアドバイザーとして、相手の情報の深度を把握し、人の流れを見ながらそれを動かしていくテクニック。その両方がなければ、広報PRのプロジェクトをマネジメントすることはできません。POOL incにはそれを形にできるメンバーが揃っている。今回、それができたことはありがたかったし、今後もそのような集合体でありたいと思っています。

〝情報〟という血液を循環させる

高橋
このプロジェクトにはホテルがあり、街があり、ホールがあり、街の中で開催するイベントがあり、様々なプロジェクトが同時進行で動いていて。毎週アップデートするステータスシートはものすごい量になります。それを頭の中で並行に繋げて、「最初にこの話を誰に伝えればうまく回るのか」ということはかなり考えました。

小西
そういう情報の順序と入れ方は難しいよね。加えて、関係者のモチベーションを高めることも重要です。プロジェクトに関わる一人ひとりが「オレ、関係ないしな」ということにならないように設計する。そのために、情報という血液をちゃんと流して、栄養をしっかりと吸い取った上で心臓に戻すということが強烈に重要です。それができればプロジェクトは生き物として機能するのですが、できていないと知らないうちに「体の一部がもげていた」というようなことが起こる。

そういったことが起きないように、コミュニケイティブに周りから形にできるということはPOOL incの強みですね。

内島
広報PRのアドバイザーとして、僕たちは外部の人間なのですが、クライアントに寄り添って仕事を進めるという中で、高橋さんはすっと入り込んでいきますよね。

高橋
そうですね。半分が立飛ホールディングス様側の人間で、半分がPOOL incの人間という感覚でした。

小西
実際に建築や不動産をされている方はそこに常駐するというスタイルもあるのですが、ことコミュニケーションの領域でそこまでやることはほとんどありません。その場合、外部にPRチームがいたりするので、中にいる情報の取り方も、外にいる情報の取り方も必要になるから。ただ、そのようなことをやっていかなければあらゆる情報が滞るということは間違いありません。情報が届かないと壊死するんです。

明山
広報PRのプロジェクトマネジメントについて特に印象的だったことは、コロナウィルスの影響で開業前日までばたばたしていた時でも、高橋さんの元へ情報が集まり、それを事前に可視化していただいたことで、チーム内でコンセンサスが取れていたこと。

加えて、極めて当事者意識が高いこと。当たり前といえば、当たり前なのかもしれませんが、それを当たり前にやってしまうPOOL incのみなさんがすごい。自分たちがどう評価されたいのかということではなく、クライアントの立場を含めたコミュニケーションのプロとして「いかに伝えるべきか」ということを、高い当事者意識を持って進めていました。

コロナウィルスの局面で重要な決定事項が執り行われる際に、僕はそれを強く感じた。クライアント側の立場から考えると、そのようなパートナーは理想的だと思います。POOL incの良さはそういうところにあるような気がします。

アフターコロナ

小西
コロナウィルスによって密な環境をクリアするということに対して、商業施設は厳しい状況にあります。しかし、この場所は「空と大地と人がつながる」ということをベースにしていることもあり、空間が広い。ホテルは全室ベランダがついてオープンだし、屋上にはプールがある。オフィスも開けっ放しにできるし、ホールも2階客席後方を解放できるので、屋内と屋外がつながる。つまり「オープン」というキーワードがある。いろいろな施設がどうやっても密閉状態になるということに対して、GREEN SPRINGSはオープンなものとして提案できる。

コロナウィルスの問題が起きて、それがより際立った。世の中の既存の施設に対してもカウンターになるのではないかと思っています。これから何十年、何百年と続いていく時に、今回のようなウィルスのことを考えずに生きていくことは不可能だと思います。その一つのターニングポイントとして、GREEN SPRINGSが活用され、祖としての存在に。そもそも考えていたことは、ウェルビーイングのためにはそれらの要素が必要だった。結局、コンセプトに立ち戻るという感覚ですね。

***

最終回となる次回は、デザインについてのお話です。

***


vol.5へと続く

文:嶋津亮太


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?