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POOL SIDE TALK vol.1(1)

POOL SIDE TALK

すでにあるモノゴトを広告するだけではなく、事業の根幹や、社会の仕組みづくりからイノベーションに参加するPOOLinc.代表「コニタン」こと小西利行があらゆる領域で活躍する「越境クリエーター」をゲストにお迎えし、22世紀型クリエイティブとその可能性についておしゃべりします。進行はPOOLinc.副社長、且つコミュニケーションデザイナーの是永聡。第一回のゲストは博報堂ケトル取締役の嶋浩一郎さんです。


初回は「広告」という企業コミュニケーションに対する嶋さんと小西さんの考え方について。「PR」と「広告」の発想の違いを比べながら、互いの魅力と関係性をお話しました。時代の流れとともにPRと広告の移り変わりが見えてきます。


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是永
ファシリテーターを務めさせていただきます是永です。実は三人は93年に入社した博報堂の同期で。当時、嶋はPR局、小西は制作に配属されていました。今の二人の関係性をまずは簡単に。

小西
よく一緒に仕事をしています。職業的には僕も嶋くんもクリエイティブディレクターをしていて。僕は広告側面のクリエイティブディレクター、嶋くんはPR側面のクリエイティブディレクター。
僕らが作った企画やコピーを一度全部嶋くんに投げる。彼が「これはこうじゃない?」と打ち返してきた提案を基に「なるほど」と再度調整していく。PR上にうまく乗らないものはつくり直す。逆に嶋くんがつくったPRは僕たちの方へ流れてくる。僕が「これっておかしくない?」というものを嶋くん側で調整する。


「どのようにコミュニケーションするか」の相対を見るということだよね。

小西
そうね。それぞれ強い側から見て「これはPRでは使わないから、この言葉を仕込んでおいて、広告側で使おう」というようなことをやっています。



博報堂時代

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当時、企業にとって広告における最も効率的なコミュニケーションはテレビCMと新聞広告でした。日本というのはある意味特殊な国で、新聞とテレビの影響力が異常に大きかった。企業がコミュニケーションをする時に、海外ではPRにも力を入れるのだけど、日本ではアドバタイジングという手段が効率的だった。だって、読売新聞に載せたら1000万人見るし、視聴率20%の月9ドラマにCMを15秒の枠を買って出したら2000万人が見る。そういう意味では日本はとてもPRインダストリーが成長しづらい国で。マスメディアが本当に「マスのメディア」だった。

92、3年のバブル崩壊後、マスメディアが徐々に崩壊していくことになる。でも雑誌の売上は98年がピーク。だから、アドが中心になるのは当然のことで。「広告費用はテレビCMと新聞広告に集中する」という考えが一般的だったわけです。

その背景の中、PR(パブリックリレーションズ)局に配属されました。記者会見の仕切り、その原稿作成、タレントの芸能記者会見の囲み取材のところに入って行き「質問は以上でお願いします」と言うようなこともやっていた。その当時は誰も注目しない局だった。

でも、実際に人間がモノを購入・消費する時というのは、広告だけがきっかけではないよね。テレビ番組や雑誌を見て、行きたいレストランを決めたり。今だと食べログで決めるかもしれない。詳しい人に情報を教えてもらい、口コミによって行くことだってある。

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「どうしてモノを買う判断基準であるPRを広告会社は使わないのだろう?」と思っていました。実際にモノを買う時はメディアの評価や口コミを気にするのに、「広告」という企業のコミュニケーションがテレビCMとグラフィック広告でほぼ完結している。だから「広告をつくる人」がコミュニケーション産業のヒエラルキーのトップにいた。

当時のプレゼンはストラテジスト、かつてマーケッターと呼ばれる人たちが戦略を20分話して、その後クリエイティブディレクターが「それに基づいたCMはこういうものです」ということを20分で話す。最後に「それにも基づくSPイベントとPRはこうです」と5分ほどのおまけのようなプレゼンがある。

だけど、だいたいクリエイティブディレクターの話がつまらない上に長い。小西くんはおもしろいよ。でも、とにかく話が長い人が多いんだよね。彼らのせいで時間が押して、自分が話す時間がどんどんなくなっていく。そうなると5分でプレゼンするために練ってきた企画を、2、3分で話さなきゃいけなくなる。もう困っちゃうわけ。で、結局時間がなくなっちゃうの。だから、20代の時に最も多かった台詞が「この企画書、後で読んでおいてください」。プレゼンでは毎回のように言っていました。

当時のPR局の上司たちはむちゃくちゃカッコイイことを言うわけ。「PRってさ、アメリカでは大統領選挙の参謀になって、対抗する党に対して情報戦略を立てて戦うんだよ」って。アメリカのPR業界はキラキラのインダストリーだから、世論形成がコミュニケーションで重要だって話をするわけ。でも、そういう「PRはすごいんだぜ」と言っている上司の人たちが、社内のオールスタッフミーティングに行くと、SPやPRのことをよくわかっていないクリエイティブディレクターにけちょんけちょんに言われている。それを見ていて「いつかこの状況を駆逐しなきゃいけない」というルサンチマンを抱いていました。


ケトルは「どうして人はモノを買うか」や「どうして人はモノを好きになるか」ということに対してニュートラルな気持ちが形になったもの。広告もあっていいけれど、他のものだってあっていい。


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小西
嶋くんがそうやって戦っていた時に、僕はコピーライターとして配属された。もともとマーケティング志望だったんだけどね。


40歳を過ぎてからだけど小西と一緒にプレゼンをよくするじゃん。やっぱりね、うまいんだよ。チャームとしてまず、掴みの雑談がいい。「この市場をどう捉えて、いかに戦うか」という戦略の話もうまい。それはいつも思うね。僕はまず結論を喋るタイプだから。

小西
昔からそういうことが好きだった。当時は「ヘンテコな人」と言われていて。
僕はコピーらしいコピーが嫌いでね。「○○ってなんとかよね」というニュアンスのおしゃれコピーがあるじゃない。「なんじゃこりゃ?」といつも思っていてね。「わかりやすく〝安い〟と書け」と。例えば当時CDショップに置いてあるポップ。あれを見ると「買いたい!」と感じる。あの表現がコピーライティングの最高峰だと思っていた。僕自身もそうやって書いてきた。だから完全に亜流でした。
「マーケティングのプロセスから生まれたキーワードが世の中的に効く」ということをいくら説明しても「そんな愚直なキーワードを言われてもね…」って。


戦っていたんだね、小西も。



PR脳と広告脳

是永
同じ事象を扱うにしても、PR的なアプローチと広告的なアプローチでは違いがあると思うんだけど。その辺りについて二人はどう考えている?

小西
嶋くんは10年以上前から───世の中がまだ「PR、PR」と言っていなかった頃から「PRは企業が書きたいことではなく、メディアが書きたいことだ」ということを一貫して言っていて。広告脳だとそこ、間違うよね。


広告脳の人って基本的に商品の方に行っちゃうんですよ。例えばある自動車メーカーのSUVを売りたい人は「うちのSUVはここがすごい」ってことだけ言うわけ。でも、それってメディアの人から見たら「知らんがな」ということですよね。朝日新聞の人も、日経新聞の人も、「ワールドビジネスサテライト」の人も基本的には「うちらの使命はSUVのスペックを伝えるために働いている」と思っているわけではない。

メディアが伝えたいのは「世の中で今何が起きているか」という現象の方です。状況を伝えたい。つまり、「あるSUVがすごい」というよりも、「SUVは今ラグジュアリー化している」という現象に対してニュース性を感じている。にも関わらず、広告脳の人は「うちのSUVはココがすごい」と言ってしまう。

自分が担当するブランドの話だけでなく「今年ベントレーもSUVを出す。2ドアしか出さないと言っていたフェラーリもついにSUVのモデルの研究を始めたらしい。ジャーマン3であるアウディ、メルセデス、BMWも高級SUVの市場を伸ばしている」という話の中で担当するブランドの話をするのが大事。

つまり、自分の担当するブランドの話をするだけだと興味はもたれないけど、「ベントレーやランボルギーニもSUVを出す」という話から入ることで、メディアは「世界的にラグジュアリーSUVがブーム」というような記事が書きたくなる。それがPRの考え方です。

広告脳の人たちは横並びになることをやたらと嫌うわけです。でも、普通の人の感覚からしてみれば「ベントレーがSUV出すんだ」とか「ランボルギーニがSUV出すんだ」とかそういう情報を読んだ方がおもしろい。その中に担当ブランドが登場した方がよっぽどいい。しかも、新しいトレンドである「ラグジュアリーSUV」を牽引するブランドとして印象付けができる。

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自分の担当している商品を「スペックでしか語れない広告脳」と「現象で一つの部品として語れるPR脳」の行き来ができるとすごくいい。

広告は極論すると「言いたいことを一つに絞らないとダメ」ということ。広告脳がつくる技術は「この商品のUS(ユニークセールス)ポイントはこれです」と一点にどんどん削ぎ落としていくことです。PR脳の場合は何でもいい。多面体でいい。それぞれの雑誌で全然違うことを言ってもいいわけです。

例えば、ガムを『FRaU』に説明しに行ったら「美ジョガーがランニングする時にガムを噛むのがいい」という話をするかもしれない。『日経ヘルス』の人には「ミントは安眠効果があって、睡眠の効果があるんですよ」と。『SPA!』の人には「SNSのストレスを軽減させるためにガムを噛むのはいいんじゃないですか?」と。相手の都合に合わせて、ガムの話をどれだけ使い分けることができるのかという力が求められる。それぞれの媒体ごとに別人格になれる訓練が重要なんだよね。

小西
今、嶋くんが言っていることはすごく納得できる。僕の概念として、砂時計のイメージなんですよね。広告やコピーライターの人間は真ん中から下をやるイメージ。一つの言葉やビジュアルに集約したところからだんだん広がっていく感覚をコミュニケーションで作る。一点を突くとパンっと流行る感じ。一つ言葉に対して「Aの局面ではこう捉えられるし、Bの局面では別の感覚で捉えられる」みたいに、いろんな人の広がって、それぞれの人の心に共感を生むのが最も良いコピーライターの意識で。

PRの人は真ん中から上をつくってる。世の中の事象を幅広いところから攻めて、一つの事象(その商品の良さ)にする力がある。だからPRと広告は対なんだよね。

だから多分一緒にやった方がいいのですが、逆転した方がおもしろいかなと思っていて。僕たちが世の中の事象を集めてきて一点に凝縮するPR的な視点でコミュニケーションをつくったらどうなるか。嶋くんは後者、一点から広げてつくるとどうなるのか。


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POOL SIDE TALK vol.1(2)へ続く 

文:嶋津亮太



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