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「GREEN SPRINGS」vol.5 コミュニケーションを生むデザイン

2020年、立川のみどり地区に未来型の文化都市空間『GREEN SPRINGS』がオープンしました。街区には多摩地区最大規模の多機能ホール「TACHIKAWA STAGE GARDEN」や、最上階には全長60mのインフィニティプール、全客室52㎡以上/バルコニー付きのホテル「SORANO HOTEL」の他、オフィス、ショップ、レストラン、広場が。心にもからだにも健康的なライフスタイルをテーマにした「ウェルビーイングタウン」です。

その『GREEN SPRINGS』のコンセプト開発からロゴやツール類のデザイン開発、PRまで一連のプロジェクトを運営してきたPOOL inc。

前回は、コンセプトと連動するPRの重要性についてお話しました。最終回となるvol.5はデザインについてお話します。今回POOL inc.は、『GREEN SPRINGS』、「TACHIKAWA STAGE GARDEN」、「SORANO HOTEL」のロゴ、関連アイテムのデザイン、フォント・ピクトグラムデザインを担当しています。言葉で伝わるデザイン、そして、コミュニケーションを生むデザインとは。

このプロジェクトに関わったメンバー

丹野英之/アートディレクター(POOL inc.)
宮内賢治/アートディレクター/デザイナー(POOL inc.)
内島来/プロジェクトマネージャー(POOL inc.)
信多一慶/プロジェクトマネージャーアシスタント(POOL inc.)


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コンセプトからデザインへ落とし込む

丹野
デザインに関しても、全体のコンセプトと全く同じです。デザインのコンセプトを決めて、それに則ってつくると、その空間を訪れた時に全てが一貫している気持ち良さを感じる。

意味性に関しては、「ウェルビーイング」に則っているので、素材は金属や人工的なものではなく、自然物でできないか、など。そのような発想が自然と湧き出てくるデザイン行為をしています。言い回しなどを含めて一貫性のある施設になっています。

そのような工程を踏んでいるので、僕と宮内くんが作業していても全く迷いがない。「こういうストーリーだから、こんなデザインじゃない?」ということが次々と生まれていく。

内島
ロゴマークに関しては一般的に好き嫌いが出がちなのですが、その辺りもコンセプトの中で説明していくと、伝わりやすいものになっていきます。「コンセプトがこうだから、このロゴマークなんだよ」というように。POOL incは徹底して、コンセプトをベースに全てを考えていますね。

丹野
僕の中で「デザインは言葉で握る」というポリシーがあります。感覚やニュアンスで説明しない、ということです。結局、感覚は人それぞれで、「このデザインが正しい」ということは一切ありません。デザインというフォルムやコンセプトをつくって、「このような理由でこういったデザインになっている」ということを言葉で説明して、みんなに納得してもらう。
そのような方針のもと、各施設のデザインを進めていきました。

GREEN SPRINGS

丹野
僕は常々、ロゴマークはインナーの人に愛されてからユーザーに届くものだと思っています。インナーの人が自信を持って、そのロゴマークを身につけて、いろんなシーンで使ってくれて、それが世の中に出て行く。それが理想的な順序です。

ロゴマークをつくる時の答えは「DNA」にあります。その会社や組織、そのスタッフ自体が持っているもの。今回もそのような立ち位置から提案をして、X軸と呼ばれていたGREEN SPRINGSの街区を上から見た形をそのままロゴマークにしています。

色に関しては「空と大地が出会う」という大きなコンセプトがあったので、〝出会う場所〟という意味を含め、水色と黄緑色が三角形になって出会いを表現しています。そのようなロジカルな説明があると、誰もが共感しやすい。

内島
ロゴマークについてPOOL incとして意識していることは、トンマナやルールを徹底させることです。色の使い方など、細かいレギュレーションをつくる。今回のように大規模のプロジェクトでは、僕たちの目の届かないようなところも出てきたりします。そのような時に、意図しないものが伝わると困ってしまう。

それらを徹底して管理するということが、POOL incのデザインにおける一つの特徴なのではないかと思っています。コンセプトブックにおけるグリーンとブルーを使用した表現など、このような一つひとつに、デザインのトンマナを統一させていくことは、街区においては重要だと考えていました。

フォント・ピクトグラムデザイン

宮内
今回、街区とホテルとホール、それぞれでフォント・ピクトグラムデザインを行いました。一般的に商業施設には「進入禁止」のマークが出てきます。自由な空間でありたいので、なるべくそのようなものを見せたくない。コンセプトである「ウェルビーイング」という前提からで、フォント・ピクトグラムデザインもその辺りのコミュニケーションで進めていきました。

街区のピクトグラムは、ベタで強いデザインというよりは、罫線で仕上がっているような、主張のやさしいデザインを発案しました。直線、曲線、斜め45度というスタイルを定めることで、ピクトグラムの規則性を重視する。見る人に共通の世界観で映り、一目で施設のピクトグラムだということがわかる設計です。美術展ができるくらいの数があります。

エレベーターやエスカレーターなどの禁止マークははっきりと伝えなければいけませんが、ペットの進入禁止などの言い回しは丁寧に表現しました。看板を立てて禁止を主張するのではなく、例えば石の一部にピクトマークが印刷されていたり。そのような心遣いが随所にある(有)井原理安デザイン事務所によるサイン計画でした。

内島
伝え方の部分ですね。街のコンセプトに紐づいて、「ウェルビーイング」の中には人の自主性を重んじるという一面があります。例えば、「芝生に入るな」ではなく、「芝生が育っているので外側で楽しんでください」というような言い回しを変えるだけで同じことを伝えることができます。

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SORANO HOTEL

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丹野
安直な表現は良くないと思い、あえて空を想像してもらうために色はつけていません。「O」の動きによって太陽や月の動きを表現しました。当然、地平線があるので、空と大地の出会う場所ということも表現できています。時間の流れを感じながら、インフィニティプールに浸かってもらって、ゆっくり過ごしてもらいたい。そのような意味を込めています。

宮内
「SORANO HOTEL」のロゴデザインの世界観をホテル内施設のロゴデザインにも踏襲しました。例えば「SORANO ROOF TOP BAR」も「O」を太陽に見立てて、日の出から日の入りまでを時間が流れているような気分を表現できたり。「SORANO SPA」では「O」の形で気泡を表現して、ふわっと気持ち良くなれるようなイメージを。説明をするわけではないのですが、感じてもらえるように。

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偶然ではあるのですが、全ての施設に「O」が入っているということもおもしろかった。ラウンジでは、人が集まってくる場所なので「O」が少し弾んでいる。大地のレストランでは、「O」を地面に埋めることで大地を現わし、そこで採れる野菜に見立てた。

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全てのコミュニケーションをホテルに合わせつつも、しっかりと「それぞれのアイデンティティをつくることができる」ということを提案しました。

内島
ソラノホテルのロゴマークや太陽が出ているなど、全体を通して丹野さんが言っている「言葉で伝わるデザイン」を僕たち側がプレゼンテーションする時もそうですし、実際に使う側がお客さんに説明できる。そのようなコミュニケーションツールという意味でもロゴマークやデザインが機能しているのはPOOL incのデザインの特徴だと思います。

丹野
このようなアプローチは結構喜んでもらえるんです。名刺一つを渡すにしても会話がはじまる。コンセプトが落とし込まれている形が最も良いと思っています。コミュニケーションのきっかけが生まれます。

信多
ホテルのメニューにも工夫があります。段差をつけて折ることで、目次のようなものが下にできる。これは大地の地層のような考え方で、メニューを見やすくしています。機能とデザインを一緒にしたアイデアです。これをじゃばらにすることで4ページほど目次ができて、開くとすぐにメニューになります。

丹野
これはそこで働く方々が自分たちで印刷してもらえるようにしていて。本人たちが折りやすい形でデザインしています。複雑な構造ではなく、現地のスタッフで回せるような仕組みにしています。機能と遊び心の両方を兼ね備えています。

インナーの人が気持ち良くブランディングを自分たちでやれる。ユーザーに向けて自分たちがストーリーを説明できる。コミュニケーションツールです。

SORANO ROOFTOP BAR

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宮内
これもさっきのじゃばらと同じ考えで、こちらは地層ではなく、空の時間軸の経過を表現しています。最初のページを開くとまだ夕方くらい、下に進むにつれて深い時間の空へと移ろっていく。お酒も最初は軽いビールなどから、夜が更けるにつれてお酒も強くなっていきます。最後はソフトドリンクで酔い覚ましのイメージです。

丹野
空の写真を背景に使っているのですが、これもキービジュアルとして考えています。実際の立川の空です。地元のカメラマンに依頼して、空がきれいな時に撮影してもらいました。メニューはその写真で構成されています。

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※メニュー内容はイメージです

宮内
ソラノホテルのカードキーにも遊び心があり、最初に泊まりに来た時の空と次に泊まる時の空は別の空。そのような遊び心を取り入れたアイデアです。

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同じカメラマンに撮影してもらった立川の空です。ベースになるデザインはとてもシンプルなのですが、人とのコミュニケーションが生まれそうな部分に関しては空のイメージを入れることで、ブランドの深みを出しています。

大地のレストランやルーフトップバーで使用するコースターは、大地を現わすモチーフを選んでいます。ソムリエとして現場で働いている堀内さんという方が、絵が好きで「その絵を活かせないか?」という提案がありました。絵のタッチも繊細で魅力的な絵だったので、積極的に取り入れたデザインにしました。コースターもコミュニケーションのきっかけになる。次に来た時に違うモチーフになっていたり、そのような楽しみが生まれそうだと思いました。

絵の題材や配置はセンスが問われる部分ですので、その辺りをしっかりとディレクションしました。例えば、「大地」と言ってもお花ばかりになってしまうとメルヘンになってしまいます。大地を感じられるものや季節感を探りながらつくりました。

丹野
コースターの真ん中にグラスを置いた時に、草が生えているような感覚になるように螺旋の配置を計算してつくっています。

宮内
シンプルな中にもちょっとした遊び心を。そこは入れどころが大事で、全体にやってしまうとすごくチープなブランディングになってしまうので、その辺りは慎重に進めていきました。

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これもレストランに置かれるものです。特別メニューのセットで置かれるというオペレーションで、実際に食事中に膝にかけてもらってそのまま持って帰ることができます。食事と季節は結びつきがあるので、四季を感じられるようなモチーフを選びました。隣が昭和記念公園ですので、そこで見られる植物を選んでいます。

春 菜の花 夏 桔梗 秋 秋桜 冬 山茶花


丹野
イラストレーターの話は僕たちにとっては大いにウェルカムでした。僕たちが選んだプロというよりは、中で働いている人が関わってくれた方が現場のモチベーションも上がるし、お客さんへの話し方も変わってくる。「うちの社員がね…」という話のきっかけにしてもらえたらなって。

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「SORANO HOTEL」というロゴマークを見ていただければわかるのですが、明朝体のシンプルなデザインです。そのためピクトもロゴの世界観を踏襲して明朝系の細いイメージで検討していたのですが、ピクトというのは、ぱっと見て伝わらなければ意味がありません。下の部分が明朝体の特徴である「セリフ」の繊細な部分を、直線的なアイコンにニュアンスとして加えることで、アイデンティティのあるアイコンに仕上げています。

あとは、使いどころやサイズ感にはかなり気をつけて、実際の設置などもディレクションしています。線の幅や白と黒の隙間にできる部分も、同じサイズ、同じ太さに見えるように計算して、全て統一しています。

丹野
POOL incの考え方としてロゴマークとピクトは一心同体だと思っています。その建物や空間に入った時に、「一貫性のあるコンセプトが感じられる体験ができる」ということをモットーにしているので、あくまでロゴマークをベースにして、ピクトも全て展開させていく。

TACHIKAWA STAGE GARDEN

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宮内
特徴として、「中と外がつながる」という新しいコンセプトの建物なので、ステージが広がっていくようなイメージで作りました。

丹野
音楽以外にも、いろいろな催し物が行われる場所ですので、「音」ということではなく、エンタメ感ということが全面的に出てくるようなロゴマークを目指しました。

宮内
ホールのピクトグラムも、自分たちでは画期的なアイコンができたと思っています。ホールなので、みんなが手を挙げたり、音楽に乗っているノリノリなピクト。そのようなルール決めをすることで世界観、建物の中の空間として見え方も統一していく。

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内島
コンセプトからはじまり、象徴するロゴマークをつくる。それが上流だと仮定すると、その下流ではコースターや手拭いまで全てPOOL incでつくっている。そのような会社は珍しいのではないでしょうか。全てコンセプトを体現するために1~100まで全てやっている。

丹野
インナーもユーザーも含めて一貫性のあるストーリーを体験できることがPOOL incの強みですね。

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いかがでしたか?『GREEN SPRINGS』をテーマに、コンセプト開発からロゴやツールのデザイン開発、PRの一連の流れを通してPOOL incの仕事がどのようなものかを紹介してきました。次回のサイドストーリーもお楽しみに!

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文:嶋津亮太


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