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本を読むということ

カツセマサヒコさんの最新作である「ブルーマリッジ」を読みました。一気読みでした。気づけば夜が明けていましたが、そんなことはどうでも良かったのです。

かつて本の虫であった私が、この7〜8年の間、一切本を読むことをしませんでした。どれも最初の2頁ぐらいは頑張れば読めるものの、その先は怖くて恐ろしくて、どうにも読めませんでした。

小学生の頃から高校2年の春まで、本が好きで本のために生きる、そんなような学生時代でした。海外の未だ和訳されていない文献も、流行りの小説も、全てを愛していました。私を見たことのない世界へ連れていってくれるものでした。

どうにも本に対して恐怖心を抱いてしまったのは、高校2年の春、定期テストの最中でした。ちょうど現代文の問題を解いていて、設問に対して読んだ文章を思い返そうとしたのです。

問題として用意された文献は、たしか現代医学のことを語っていたと思います。小難しい呪文のような横文字の羅列と意味のわからない数字たちだけ、鮮明に覚えています。

設問の内容は「○○について、筆者はどのような見解か」というような内容でした。

瞬間、「誰が殺されたんだったか?」と思考する私がいました。現代医学を説いている文章に、サスペンス要素など微塵もなかったのに。脳内を邪魔するように這い出た黒い渦は、当時1番あたらしく読んだ本の内容に引っ張られて出来上がったものでした。

とても恐ろしく、手足が冷えきり、めまいがしました。思考が止まりませんでした。自身由来の思考は全くなく、全てなにかから抜粋して出来上がったものたちでした。

それ以来、本を読むという行為が、というより人の手で創作された長い文章を手で確かめながら頭に入れるということが、到底できなくなったのです。それが今日までの空白の8年間でした。

私が今回「ブルーマリッジ」を読むことを決意したのには、訳がありました。好きな人が読みたいと言っていたからです。あまりにも浅はかで嘲笑われてしまいそうですが、そんなものです。人生の転機はそんなものばかりです。

最初だけでも読まないと。使命感のようなものと振り絞った欠片ほどの勇気で表紙を捲りました。活字が目に飛び込んできて、いや、それ以前に表紙がとても良くて、最近の本はここまで気を遣うのかと、まあそんな感じのことを思いました。

あまり内容については言及しませんが、読んだ感想としては「覚えていない」が正しいかなと思います。とにかく本を読むのが怖いと思いながらも、もう1頁だけ、もう1頁だけ、をひたすら繰り返していました。

芯に刺さる面白い本という紹介はできません。ただ、なんとなく読み進めたくなるような本でした。それが功を奏したのか、頁を捲るだけの一夜でした。途中で煙草が吸いたくなり、3本ほど挟みましたが、吸いながら読んでいました。それほど?

読後は、なんとなく本を閉じたくなくて膝の上に開けたまま置き、思考を止めました。しばらくして、8年振りに本を読んだから結構疲れたなあ、ボリューミーだったなあ、と俗っぽいことを思っていたかな。多分。

堪らずこうして私の長い長いブランクが幕を閉じたことをここに記しているのですが、改めて思うのです。本を読むことは思考を放棄することだと。自分で考える、ということを本質から棄てさせるような、そんな行為だと思うのです。

他者が創り出したなにかに重ね、引っ張られ、自分がそれになっていく。自分でも気づけないくらい自然に。

なぜか雨が好きな主人公が多すぎると思いませんか?それらしい理由とともに「でも僕/私は雨が好きなんだ」と。みんなは違うらしいが、という枕詞が着くのもよく見かけますね。

そんな主人公が多すぎて、もはや"みんな"が君たち側になっているかもしれない皮肉まで感じられますよね。そんなわけはないのに。

それらに重ねて自分も雨が好きだと思い込んでいる時期がありました。全然晴れの方が好きだったのですが。そういった小さなことから、私たちの思考はそれらに奪われていると思うのです。奪われに行っているのか。

でも、悪ではないと思います。自分が届き得ない想像力の外側、別の想像の世界に自分を連れていってくれるものでもあるので。大変素敵な人間的文化遺産です。

読書は、のめり込みすぎると毒になります。これは断言できます。昔の私がそう叫んでいるので、多分そうです。ただ、本当に趣味程度に、息抜きで本を読むのは素晴らしく良いことだ、とも思います。これはカツセマサヒコ氏が、図らずも私に教えてくれました。

本を生きがいにしてはいけないよ、と。けれど本を読んでね、と。なんとなく頁を捲ってみている、それだけで良いのだ、と。

ブルーマリッジ。良い本でした。良い出会いがありました。それだけで良いのです。

それでは良い読書人生を。

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