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バントとバスターの組み合わせによる得点期待値を考えてみた

近年の野球界では、バントは得点期待値を下げる行動だからやらない方がいいというのが広く知れ渡り、バントというものがひどく避けられています。親の顔より見た得点期待値の表にもそれが現れているのでそれは事実なのでしょう。下の画像は2013~2015年のNPBにおける得点期待値のデータになります。画像はEssence of Baseballから引用しました。

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これを見てもアウト一つ与えて進塁をとるメリットは得点期待値の観点からは全くありません。その上、バントが失敗することもあるのです。まあバントはセンスがない作戦だと思われてしょうがないなというのが自身も抱く感想です。

そんな中行われたのが11/12のオリックス対ロッテ戦。9回にバントの構えからの2連続バスター。今年の野球界で見られた最も美しい采配の一つだったのは間違いないでしょう。そこで考えたのが、バントとバスターを組み合わせれば、得点期待値があがるのではないかということです。というわけで色々計算をしていきたいと思います。計算は先程の画像を使って行っていきます。

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バスターの成功率がどの程度あれば得点期待値が上がるのかを考えてみる

まず第一に、バスターをした際に得点期待値が上がらなければ話にならないわけです。そこで「バスターをした時に得点期待値が上がるにはどの程度の確率で成功することが求められるのか」を考えてみます。ちなみに、バスターの成功率なんていうデータはネットで調べても出てこなかったので、確率を仮定して求めていきます。

ノーアウト1塁からバスターをした後に考えられる状況は、下記の4パターンです。ノーアウト1.2塁、ワンナウト1塁、ワンナウト2塁、ツーアウトランナーなし。仮にこの4パターンがそれぞれ25パーセントの確率で起きる場合、得点期待値は、

(1.412+0.478+0.682+0.087)÷4=0.66475

になってしまいます。ノーアウト1塁時の得点期待値は0.807なわけですから、この確率だと作戦を取る意味はなくなってしまいます。

では確率を上げてみて、バスターの成功率(=ノーアウト1.2塁になる確率)が4割だった時を考えてみます。その他3パターンの確率はそれぞれ均等に2割だとします。すると得点期待値は、

1.412×0.4+(0.478+0.682+0.087)×0.2=0.8142

となり、バスターを行った方が良いということになります。以上から、バスターは成功率が4割が一つの損得分岐点だと考えられそうです。ちなみに正確に計算をすると39.3%の時点で0.8072…となり損得分岐点を迎えます。

ちなみに、バスターの成功率ごとの得点期待値は以下の通りになります。それぞれ、ワンナウト1塁、ワンナウト2塁、ツーアウトランナーなしになる確率は余事象の1/3ずつだとして計算をしています。また、それぞれ小数点第4位を四捨五入してます。

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バントによる得点期待値の損失はどの程度あるのか求めてみる。

バントは得点効率が下がる、下がると言いますが、どれくらい下がるのかは意外と知られていないと感じます。少なくとも自分は知らないです。というわけで簡単に計算をしてみます。

数年間のバントの企画数と成功数をみてみるとバントの成功率は80%程度です。残りの20%が、ノーアウト1.2塁、ワンナウト1塁、ツーアウトランナーなしになる可能性です。ワンナウト1塁になる可能性が一番高いのは感覚的に明らかなので、それぞれの確率を、ノーアウト1.2塁→5%、ワンナウト1塁→10%、ツーアウトランナーなし→5%で考えてみます。するとバントをした時の得点期待値は、

0.682×0.8+1.412×0.05+0.478×0.1+0.087×0.05=0.66835

です。ノーアウト1塁の時が0.807ですから、約0.14点、得点期待値が下がるということがわかりました。

バントとバスターを組み合わせれば得点期待値をあげることができるかを考えてみる

ではバントとバスターを組み合わせれば得点期待値が上がるのかということを考えてみましょう。バントとバスターの比率はバスターの確率をどれだけ多くみても4:1程度でしょうから、その時バスターの成功率がどの程度であれば、得点期待値が上がるのかを計算してみました。例えば成功率4割の時は、

0.668×0.8+0.814×0.2=0.6972

となります。それでは0.807を超えるためにはバスターの成功率が何%必要か計算してみます。バスターによる得点期待値は、確率をaとすると、       1.412×a+(0.478+0.682+0.087)×(1-a)÷3=0.996a+0.416 で求めることができるので、バント80%、バスター20%の時の得点期待値は       0.668×0.8+(0.996a+0.416)×0.2 で求めることができます。

これがノーアウト1塁の得点期待値0.807をこえるaを計算すると、a=0.96…となります。つまり、バントとバスターの比率が4:1の時バスターの成功率が96%以上であれば、得点期待値に基づき効果的な戦略であると言える。ということですね。軽く無理です。

バントとバスターの比率とバスターの成功率ごとの得点期待値の表を作ってみました。よかったら見ていってください。横軸がバスターの成功率、縦軸がバスターのバントとバスターの合計に対する割合です。青くなってる部分がノーアウト1塁の時よりも期待値が高くなっています。

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この表を全体的に見ても現実的に得点期待値を高めることができる場合は存在しないように感じられます。つまり結論はバントとバスターを組み合わせても得点期待値を現実的に上げることはできないよ。ということです。冷静になるとバスターがそんな万能な戦術だったらもっと世の中で行われているよなと思いました。とても悲しいです。

野球は確率のスポーツだとよく言われます。そして、確率でシビアに考えていくとバスターは奇策の領域を出ないのでしょう。しかし、その奇策を用いてCS優勝を強く手繰り寄せたチームがあることは確率のスポーツである野球の中に存在する妙を感じざるを得ません。

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