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春風と花

先日、大学の講義を抜け出して目黒川の桜並木を散歩した。完全に満開を逃してほとんどの木は葉桜になっていた。春も終り際になっていた。川面に目を向けると無数の花いかだが流れていてしばらくそれに見惚れていた。木の下に立ってみると、風が吹き花びらが何枚かがひらりと落ちてきた。「桜花 散りぬる風の なごりには 水なき空に 波ぞ立ちける」と紀貫之は歌ったが、桜の花びらを乗せた風には本当に花の波が寄せていた。

散ってしまった花びらにも目を向けてやれるような人間になりたい。散った花にも確かな価値はきっとある。踏みつけられて薄汚れた色になっても、その花は木に咲いてた頃と変わらずに美しい。僕たち人間はそんな簡単なことにさえ気づくことができない。変わっているのは桜の価値ではなくて、僕らの捉え方なのに。頭上ばかり見上げて、足元には目もくれない。僕はこれから先もそんな人間に失望したまま生きていくんだろう。誰にも期待してはいけない。

春の夜の中は花の匂いが香る。気温は心地よく、どこまでも歩いていきたくなる。夜半の帰り道、風に吹かれてきた甘美な香りに釣られ顔を上げると、とある花が月光に照らされていた。それがとても綺麗だった。


春を感じたくて旬の食材を使って和食の料理をした。筍、浅利、鰆を丁寧に下処理してそれぞれ代表的な調理をした。筍はアク抜きから手間をかけてやれば、とても甘くなることに気づいた。浅利の酒蒸し、鰆の西京焼き、けんちん汁、筍ご飯である。

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