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プラトニックラブ

幼少期、毎晩のように眠くなるまでベランダから月を眺めていた。ベランダは月を見るには格好の場所だった。遠くの月が綺麗で見惚れていた。近くから見てみたいとずっと願っていたけれどそれが叶わないことは知っていた。手を伸ばしても全く届かないから悲しかった。
車窓から見る月は特に僕を夢中にさせた。どんなに速く走っても月は付いてくる。虹の麓はいくら追いかけてもたどり着けないのに、どこまで行っても月は決まって空高くにいる。それが本当に嬉しかった。
新月の夜は淋しかった。そんな夜はずっと月を思っていた。夜の底で何をしているのだろう、と気になり眠れなかった。
ある時、雨などにより月の見えない晩が続いた後に満月に近い月を見た。大きな丸い月で力強い月光が滴っていた。それは頭の中一杯に満たされ、ぽろぽろと涙となり零れてきた。衝動的にベランダから遠くの月に目掛けて飛び込みたくなった。
きっと幼少期の僕は月に恋していたのだろう。

「月に恋した少年」は幼年期の僕のプラトニックな恋愛と最も愛する作家宮沢賢治のイーハトーブの世界なるものを稚拙ながら自分なりに創り描くことを試みた小説である。自分の中の少年ゆえの純粋性はいつしか砕け散ってしまった。しかしあの夜に浴びた美しい月光はまだ僕の中のどこかで強かに流れているだろう。

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