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愛されキャラの自転車おじさん     【エッセイ:カフェ物語5】

『笑門来福』
を絵に描いたような
見るからに"愛されキャラ"のおじさんが
自転車にまたがり
ヒョッコ ヒョッコ 
体を前後に揺らして
私の方に向かってきました

おじいちゃんと呼んでも失礼にはならないであろう年配のおじさんが
満面の笑みを私に向けて
ヒョッコヒョッコ向かってきます

顔に見覚えはなかったのですが
あまりに親しみのこもった笑顔だったので
きっと ご近所のおじさんに違いないと
お店の前を掃いていた手を止めて
私も精一杯の笑顔をおじさんに向けました


私のすぐ前で止まったおじさんは

「すごいやろー」
「ここまで一回も漕がずに来たんやで」
「新記録達成やー」

何のことやら全く分からなかったのですが
おじさんの圧倒的な明るさが
一瞬にして私を包み込み
訳も分からないまま
テンションはMAXに
気分は最高にハッピーになって

「えー 凄ーい おめでとうございますぅ」
って叫んでしまいました

どうもお店の前のゆるーい下り坂を
一度も漕がずどこまで進めるかに挑戦していたようなのですが

初対面の私に事情を説明することなく
溢れる喜びを真っすぐに伝えてくれるおじさんが
あまりにもお茶目すぎて
ついつい調子を合わせてしまいました

「いつもあのあたりで足ついてしまってたやんか」

「あっ、あの電信柱のとこらへんでしたよねぇ」

・・・いや しらんし(笑)・・・


「今日は 体使こて漕いだろう 思てん」

「あぁ、それで ここまで来れたんですね」
・・・それでヒョッコヒョッコしてたんや(笑)・・・


「めっちゃ嬉しいわぁ 新記録やでぇ」

「すごーい 私まで嬉しいです」
・・・ほんと 嬉しいぃ・・・



おじさんの調子に合わせているうちに
なんだかすごい瞬間に立ち会うことができたように思え
幸せいっぱいになりました

おじさんは言いたいことだけ言ったら
サヨナラも言わずに
サーッと行ってしまいましたが
私の中に"お茶目な自転車おじさん"の余韻はいつまでも残り
おじさんの笑顔を思い出しては 
ほっこり ニヤニヤする一日でした

あの日以来
"愛されキャラの自転車おじさん"を
見かけることはありません

とっても残念
どこか違う場所に 
挑戦し甲斐のある坂を見つけたのかなぁ

またあの笑顔に会いたいです


"愛されキャラの自転車おじさん"
『あんな お茶目で素敵な笑顔していたら
 幸せが 次から次へとやってきて
 おじさんも おじさんの周りも
 みんな 幸せいっぱいになるだろうな』

『私も周りを一瞬にして包み込むような
 素敵な笑顔でいたいな』
と思える出会いでした


~カフェ物語6 につづく~



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