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鳩の子育てから学ぶ、親離れ子離れ

(過去の「親離れ子離れ」鳩の育児に関する3記事をまとめて整えた記事です。内容は同じです。記事を読んでくださった方々、誠にありがとうございました。とても嬉しいです🙇‍♀️)

〜以下、本文です。〜

もう10年近く前のお話です。環状8号線沿いの我が家の玄関前の木に、鳩が巣を作って卵を孵しました。街でよく見る、普通の土鳩です。

初めて間近で見る鳩の子育てが、あまりに魅力的で、ヒナが巣立つまでジロジロ観察してしまいました。親鳩は、私がカメラを向けると必ず静止状態になりますが、逃げはしません。真面目な横顔で気配を消して、いないふり。
もし、ストレスを与えていたなら、申し訳なかったです。ハト、ごめんね。

巣作りから卵が孵ってヒナが巣立つまで、子育ての過程は、丁寧に滞りなく行われていました。一つ一つ無駄のない行動を見ながら、自然界の力にただただ圧倒され感動しました。その中でも、特に巣立ちの様子には感銘を受けました。

初めに、卵時代。
ある時、気がつくと、家の前の木に小枝が集められて鳥の巣が作られていました。しばらくすると、常に、一羽の鳩がその中に座っていたのです。脅かさないように、静かに玄関を出入りしながら、毎日楽しみに観察しました。家の前に鳥が住んでいるだけで、生命の温もりが伝わってきて嬉しいものです。
鳩が留守の時にちょっと覗いてみたら、可愛らしい卵が見えました。卵は、鳩の夫婦が交代交代で温めていました。鳩の顔の違いはわからないのですが、明らかに丸々した大きい鳩と細くて小さい鳩の2羽が、代わる代わる巣の中にいることは認識できました。どっちがどっちかは謎のままですが、ママ鳩とパパ鳩です。
2羽は交代の時、スパイが尾行を巻くように何度もあちこちの雑居ビルを経由しながら、敵に巣が見つからないようにやってきてチェンジしていました。特に声を出すこともなく澄まし顔の2羽が、粛々と仕事をこなす姿は、職人技。圧巻でした。

次に、ヒナ時代。
卵を産んだ頃は、巣の中に卵が4−5個あったと思うのですが、最終的に生まれたヒナは2羽でした。鳩に悪いのであまり覗かないようにしていると、しばらくして、ヒナたちが親鳩からエサをもらっている様子が見えました。親鳩は、エサを運んでくる時もあちこちのビルから様子を見ながら、だいたい決まった時間にやってきました。卵から孵ったばかりでヒナがまだ華奢で弱々しい間は、常時、片親がいっしょに巣の中に住んでました。
日中、私が買い物やら運動やらで家を出入りしていると、見るたびに違うサイズの親鳩が巣の中にいるので、子育ても共に行なっていることがわかりました。この鳩の夫婦の連携体制は、終始スマートで素晴らしいものでした。

こうして卵を孵しヒナを育てる様子が、とても丁寧で驚きましたが、動物番組などで見る動物の育児の様子と重なって、ある程度は想像の範囲内の光景でした。「なるほど、そうだよね。」と確認しながら観察する感じでした。
しかし、この後の巣立ちまでの様子は、私の想像を超えていました。

いよいよ、巣立ちへ。
数週間が経ち2羽が大きくなると、細い小枝で作られた直径20CM程度の巣は、ヒナだけでいっぱいになりました。親鳩より一回り小さい体にフワフワの産毛が生えた赤ちゃん2羽だけで、巣の中はぴちぴちに。他に誰も入る余地はありません。あどけない様子は、ぬいぐるみみたいで、とてもかわいかったです。
この頃から親が巣にいない時間が少しずつ増えていきました。親鳩は餌を持ってきたり、他の枝に止まって見守ったりしていましたが、基本的には、ヒナだけの生活でした。でも、何かあればすぐに飛んで来られる場所から必ず見守っていました。

飛ぶ練習も始まりました。親が下の枝で待っていて、ヒナは親に向かって下に落ちる。その落下を利用して、飛ぶ感覚を身につけていました。鳥にとって当たり前のことなのでしょうが、その光景を目の当たりにして自然界の力を肌で感じ、感動しました。

鳩だから当たり前とはいえ、親は、褒めもしなければ叱りもしないで、子どものペースに合わせて必要なことだけ伝えていました。表情一つ変えずに、根気よく。アメも鞭も必要ないのです。

やがて雛のフワフワの産毛が減っていき、ある日、巣は空っぽになっていました。何度見ても、ヒナたちは帰ってきませんでした。無事に巣立った嬉しさと、いなくなった寂しさで、涙が出そうでした。いや、出たかも。今でも、思い出すと、鼻の奥がジーンとします。

親鳩は、その後も時折、空っぽの巣を見に来ていました。任務完了後も最後まで確認を怠らない責任感を勝手に感じてしまいました。その横顔は、凛々しかった。産毛が少し残った空っぽの巣をみて、感傷的になっていたのは私だけだったようです。

ヒナたちの体が、成長して巣に入らなくなる。そのタイミングで巣立ちの準備を整える。産毛が抜けて、巣立っていく。成長とともに子どもは親からどんどん離れていき、親も淡々と必要最小限のお世話とお手伝いをする。すべてのタイミングを逃すことなく、理にかなった自然の摂理。なんて、スマートなのでしょう。どの場面を切り取っても、思い出すと胸が熱くなります。環八の土鳩から、美しく素晴らしい野生の力と育児を学ぶことができました。

親鳩の見守り方と絶妙な子離れは、私にとってたいへん参考になりました。子離れとは、子どもが持つ能力を発揮できるように彼らの邪魔をしない距離で見守り、必要とされた時だけ必要な協力をして、子どものタイミングに合わせながら離れていくことだとつくづく感じました。
ついつい先手を打って何かを与えようとしたり、いらないお世話をしてしまいがちな私は反省しました。人間なので感情に影響されて、鳩のように子育てするのは難しいですが、どうしたら適切な距離で見守れるか、スムーズな子離れができるか、自分の中で葛藤し、考え、成長するのが、親の役割だと思いました。

子どもに何かを敢えて教える必要はなく、未熟でダメダメな大人でも、一緒に学んでいく姿勢が大切なのではないかと思います。親だって、初めて親になったのだから、一緒に育つしかない。
大人には成長する努力をする責任があると思います。そして、成長し進化しながら人生を送る親の姿は、きっと子どもに希望を与えます。
レベルアップしていく親をみたら「大人も楽しいかもっ。」て思うかもしれないし、ダメダメな親でも「なんか、あの人未熟だけど、ぼちぼちがんばってるし、少しずつは進化してるかな。それもありかもしれない。」と思ってくれるかもしれません。何を感じるかは、彼ら次第。

何れにせよ、私たち大人は自分の人生を一生懸命生きること以外、何もできないと実感しています。人間は、鳩と違って、親離れ子離れに関して様々な感情が湧いてしまうものですが、そんな感情の波に向き合い乗り越えた暁には、自分自身も成長できるのではないかと思います。
この鳩の親子から学んだことは、親子関係に限らず、夫婦、パートナー、同僚、いろんな関係に当てはまると思いました。客観的に人と人の関係について学ぶことができて、鳩の家族には感謝の気持ちでいっぱいです。

あれから、10年近く経った今も鳩のつがいが、巣があった場所をチェックしにきたり、我が家のベランダで休んだりしています。「きっと同じ鳩だよね。もしかしたら、あの時産まれた子どもかな。」と近所の人と愛しい気持ちで見守っています。

卵を温めている”鳩田さん”
ヒナたちにご飯を食べさせる”鳩田さん”