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【短編小説】人の見た目がこの世の全て なんて言葉があるけど悪いやつがそれを逆手に取るので中身もなんやかんや重要 プロローグ

 玄関のドアがコンコン、と音を立てた。控えめな音だった。ノアがドアを引くと、そこには見慣れた姿があった。
「コガラシマル! 久しぶりだね」
「約束なしの来訪、失礼する」
「大丈夫。よかったら上がって上がって」
 ノアはそこにきて、ふとあることに気が付いた。
「ヒョウガはどうしたの?」
「……そのことに関して、相談があるのだ」
 神妙な面持ちの精霊に、ノアはただならぬ気配を感じた。
 この季節の来客に対してもノアは基本的に温かい紅茶を出すのだが、コガラシマルについては数少ない例外である。冬の精霊である彼は熱というものにめっぽう弱く、温かい食べ物を口にしても結局魔力で冷えてしまう。
「それで……相談って、何?」
 コガラシマルの傍にアイスティーを、自分の傍にホットティーを置きながら、ノアは話題を切り出した。
「その、前提として……恥ずかしながら某は色恋には疎い」
 ノアは思わずカップを落としそうになった。
「ヒョウガに恋人?」
「え!? ヒョウガに恋人!?」
 噂大好きラスターが二階から颯爽と飛び降りてきた。若干の埃が舞う。コガラシマルは眉間にしわを寄せながら、ラスターを見なかったことにして話を続けた。
「そもそも恋愛関係かどうかも分からぬのだが……。物資の調達のため商業都市アルシュに立ち寄った際に、絡まれていた女子おなごを助けたのがきっかけで……」
「仲良くなったの? ウソぉー。だってヒョウガにはフロルちゃんがいるのに? ひどい! 浮気! サイテー!」
 そもそもヒョウガとフロルは恋人関係ではない。だがなぜかラスターはヒョウガとフロルがくっつくのを期待している節がある。ノアとしては本人たちの意思次第であって外野がとやかく言うことではないと思っているのだが、ラスターはそうではないらしい。
「ラスター殿」
「なに?」
 一瞬おとなしくなったラスターに対し、コガラシマルが魔力を動かす。冬の強烈な風が部屋に踊り、ラスターが結構な勢いで吹っ飛んで行った。
 咳ばらいをしてから、コガラシマルは更に話を続ける。
「その女子おなごというのが某の目からするとどうもきな臭いのだ」
「どう、きな臭いの?」
「そもそも絡まれていたのも、借金取りに追われていたのが原因だという」
 ノアはちょっと嫌な予感がした。
「つまり、その子には借金があるんだ」
「それだけならまだよいのだが」
 ラスターから「よくはないだろ」とツッコミが飛んでくるが、コガラシマルは再び強烈な風でラスターを黙らせた。
「その借金の返済を、ヒョウガ殿が代わりにやっているような気がするのだ」
「…………」
「いや、某も別に……ヒョウガ殿に生涯を共にする女子おなごができること自体は構わぬのだが、その女子おなごの借金返済を担うというのはいささか度が過ぎているのでは、と」
「ヒョウガくんがお金に困っている様子はある?」
「路銀に手を付けるほどではない故、今のところは問題ない。だが困ったことに……危険性が高く、報酬のいい仕事を受注するようになってしまったのだ」
 ノアは考え込んでしまった。あの人間不信が過ぎていたヒョウガがそこまで入れ込んでいるというのも信じがたい話ではあるが、これも成長の一種として考えていいのだろうか。
「で、実際の本音は? ヒョウガくん盗られてさみしくないの?」
 いつの間にか部屋に戻ってきていたラスターが、コガラシマルの耳元で問いを投げる。
「正直、凄まじくさみしい」
 その問いに本音百パーセントで答えたコガラシマルは、今度こそラスターを部屋の外めがけて吹き飛ばしてしまった。
「このような頼みをするのは某としても正直どうなのかと思わなくはないのだが、ヒョウガ殿の思い人の素行調査を頼みたい。正直、そなたたち以外に頼れる者がおらぬのだ」
 ノアは部屋の外を見た。ラスターが匍匐ほふく前進でこちらに向かってくるのが見える。こりないなぁ、と思った。その一方で、コガラシマルの魔力がやや不安定になっている。これはヒョウガのせい、ではなく精霊本人の精神状態の影響だ。
 ……どのみち、早急に解決する方がいいらしい。
「わかった、調べてみるよ」
「恩に着る」
「大丈夫。さ、ラスター。行ってらっしゃい」
「俺が行くの?」
 床にはいつくばっているラスターがノアを見上げる。ノアはにっこりと笑いながら答えた。
「君の得意分野だろ?」
 ラスターは観念して首を縦に振った。
「じゃあ、ヒョウガのガールフレンドの情報を教えてくれる?」
「……まだ恋人と決まったわけではない」
 ラスターは思った。
 コガラシマルって結構めんどくさいな、と。


人の見た目がこの世の全て

なんて言葉があるけど
悪いやつがそれを逆手に取るので
中身もなんやかんや重要


 7/7 21時以降 更新予定



気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)