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【ショートショート】宇宙旅行の成果【謹製金星菌性】

   宇宙旅行の成果

 宇宙旅行が身近になった頃のことである。細菌学者の権威N博士は今日も悩んでいた。
「どうか私に感染して頂けないでしょうか?」
 そう語る細菌は遠路はるばる金星からやってきたという。地球環境を「寒い」と語る彼は運良くN博士のシャーレにたどり着き、こうして会話をしている。
「感染したらどうなるんだ?」
 助手の一人が問いかけると、細菌は丁寧に答えた。
「特に何も。強いて言うなら頭から触角が生えます」
「害は?」
「ありません、神に誓って」
「そこまで言うなら試してみよう」
 結果は見事にパンデミック。死にはしないが頭に二本の触覚を生やした人々が散見された。
 感染者と共に様々な体験をした細菌たちは、あるとき一斉に金星へと旅立っていった。
「触覚は取りません。あの子との思い出ですから」
 と、かつての感染者は語った。
 地球で仲間を増やした細菌たちは母星で文明を発展させた。安全になった金星に真っ先に招待されたのは、地球で苦楽を共にした人々だったという。


毎週ショートショートnote
裏お題「謹製金星菌性」
文字数409字

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)