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【超短編小説】マユちゃん

 マユちゃんは、わたしと同じ、二年三組の女の子。
 そんなマユちゃんは冷たいコだって、みんなから言われてる。
 例えば、誰かが給食のスープを派手にこぼしてしまったとき、みんなが雑巾を持ってきたりなんだりしても、マユちゃんはじっとその様子を見ているだけで動かない。
 例えば、誰かが筆箱をなくしてしまったとき、みんなが一生懸命探してあげても、マユちゃんはじっとその様子を見ているだけで動かない。
「マユちゃんは冷たいね」
 最初に言いだしたのはリエちゃんだったけど、誰もマユちゃんをかばわなかった。
 マユちゃんはいつも、困ってる誰かのことをじっと見ていた。どうしてじっと見ているの? と聞いても教えてくれなかった。

 ある日。わたしはリレーの練習中に、転んで足をくじいちゃった。みんなが心配して、わたしに消毒液を持ってきたり、包帯を持ってきてくれたけど、マユちゃんはじっとこちらを見ているだけだった。
 当然、次の日の体育の授業は見学。
 みんなが体操服にお着替えして、体育館まで移動する。わたしも一緒に移動する。
 でも、みんなはスタスタ歩いて行ってしまう。わたしは必死についていこうとしたけれど、ケガした足が邪魔をした。
 ついていくのに精一杯で、「待って」の一言が言えなかった。そのとき、わたしは気がついた。
 マユちゃんが立ち止まって、こちらをじっと見つめていることに。

 そういえば、給食をこぼしちゃった子がなかなか食べ終わらなくて、その子の友達がみんな外遊びに行っちゃったとき、マユちゃんはその子のそばで一緒にパンを食べてたっけ。
 そういえば、筆箱をなくしちゃった子が落ち込んでいて、上手く動けない中、傍でその子にずっと寄り添っていたっけ。

 みんなはわたしのことを置いて行っちゃったけど、マユちゃんはじっとわたしのことを待っていた。わたしが追いつくと、ゆっくり、ゆっくり、歩き始めた。
 わたしは、「マユちゃんは優しいね」と言った。
 マユちゃんはなにも言わなかったけれど、耳が真っ赤になってることに、わたしはキチンと気がついていた。
 だから、もう一回言ってあげた。「マユちゃんは優しいね!」って。
 マユちゃんは「ヘンなの」って言ってたけど……。

 その後にちゃんと「ありがと」って言った。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)