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【ショートショート】生者のための幸福【失恋墓地】

   生者のための幸福

 この墓地は失恋を埋葬する場所だ。心の傷を持つ人たちがやってきては、ここに失恋を埋めていく。借りたままの文房具、思い出の指輪、書き損じのラブレター……。
「ずーっと好きだった人がいたんです。手紙を書いて、バレンタインにはチョコも渡しました。けれど、あの人、他に好きな人がいたんです」
 女性の頬に涙が伝う。気の利く男ならハンカチを一枚差し出す等するだろう。しかし墓守はそういった道具を持っていなかった。
「彼はちゃんと、私に返事をくれました。見ないフリをすることだってできたのに。でも律儀な人なんです。『申し訳ありませんが、あなたの気持ちに応えることはできません』ですって」
 彼女はそっと、何かを置いた。
「でも、これで諦めがつきます。どうあがいても結ばれない状況になったのであれば、私はやっと前に進めると思うんです」
 暗い土の上に、成人男性の骨が横たわっている。
 墓守は女の顔を見た。女は晴れ晴れとした顔で、曇天の向こうを見つめていた。


 毎週ショートショートnote
 お題「失恋墓地」
 文字数410字

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)