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【短編小説】いいね詐欺罪の囚人

 新しい囚人がやってきた。
 見た目だけなら、本当にどこにでもいそうな中年オヤジといったところだ。
「おたくは何をやったんだ?」
 先輩囚人が早速そんなことを聞いてきた。新入りは反笑いで応えた。
「ここに来るってことは、ろくなことをしてねぇってことぐらいは分かるだろ」
「ああ」先輩囚人も似たような表情をした。そして、当てずっぽうに新入りの罪状を当てようとした。
「あんたは……、そうだな……強盗?」
 新入りは「ははは」と笑った。
「大当たりだ。さすが、よくお分かりで」
 正確には強盗殺人だ。四人グループのリーダー格だったこの男は、某月某日にX市の高級ジュエリー店で貴金属類およそ二千万円相当を強盗し、その際に鉢合わせになった店員四人をめった刺しにして殺していた。メンバーが次々逮捕されていく中で、こいつだけは最後の最後まで警察から逃げ続けていたが、うどん屋で飯を食っていたところを通報されて御用になったのだ。
「先輩は何をしでかしたんだ?」
「なんだと思う?」
「そうだな……」新入りは少し考えてから、「詐欺とか」と言った。
 先輩囚人は「ははは」と笑った。
「まぁ当たりだ。正確には『いいね詐欺』だ」
「いいね詐欺」
 なんだそれは、と思ったのが顔に出ていた。先輩囚人は丁寧に教えてくれた。
「SNSのいいね機能……まぁ、スキとか名前はいろいろあるが、そのボタンを押して少しした後、そのいいねを外すんだ」
「何でそんなことを?」
 この新入り、世の動きには疎かった。SNSもあまり使いこなせていない。強盗計画に必要なメッセージツールは活用できるようになったが、ツイッターだのフェイスブックだの、そういう類のものは名前しか知らない。
 先輩囚人は、やはり顔によく出る新入りの疑問を察知して、先回りして問いに答えてくれた。
「承認欲求こじらせた連中が、後でその数字が減ってるのを見て落ち込むのが面白いからだよ。あんまり好き勝手やっていたら、このザマだ」
「はぁ……そういうものなのか」
「そういうもんだよ」
 囚人たちは沈黙した。新入りは長いため息をついてから、意を決して口を開いた。
「ところで、一応確認しときたいんだが」
「なんだ?」
「……俺は強盗殺人で見事に死刑判決を食らった死刑囚なんだが、ここにいるってことはあんたも死刑囚なんだよな?」
「そうだよ」
「おかしくないか?」
 先輩囚人は静かにため息をつきながら、吐き捨てた。
「立法府がみんなSNSのヘビーユーザーで構成されてるんだからしかたねぇよ」
 看守の足音が、近づいてくる。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)