【ショートショート】どうにでもなぁれ【伝説の安心感】

　　　どうにでもなぁれ

　ストレス社会を生き抜く現代人を救うため、伝説の安心感が開発された。見た目は普通のソファーだが、座ると母の腕に抱かれた赤子のような気分を味わえる。
　N氏も伝説の安心感を購入した。上司に怒鳴られ、部下からはあしらわれ……そんなストレスが全て消えていく。
「これがあれば、ストレスなんてどうってことないや……」

　翌朝。会社に向かうと例の上司がN氏に話しかけてきた。
「お前、伝説の安心感を買ったんだって？」
「は、はい」
「なら、もっと厳しく指導しても良さそうだなあ」
　上司はそう言って、N氏の頭を書類で叩いた。
　N氏は悲しくて、つらくて、トイレに立つフリをして家に戻った。伝説の安心感に腰掛けて、ストレスをやり過ごす。しばらくすると外から声がする。上司の声だ。なんでも「クビになるぞ」とか聞こえてきたが、N氏は反応しなかった。そうか、クビになるのか、よかったなぁ……という感情が、伝説の安心感によるものなのかは分からない。

　毎週ショートショートnote
　お題「伝説の安心感」
　文字数401字