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【超短編小説】禍福はあざにゃえる縄のごとし

 一人のサラリーマンが、野良猫に餌をやった。いや、サラリーマンというのは正しくなかった。彼は元・サラリーマンだ。リストラに遭って自暴自棄になっていた。自分の心の傷を埋めるために誰かに優しくしたかったのかもしれない。これからどうしようか、と彼が考えていると、猫の前脚がスーツに伸びた。おかわりをよこせと言っているようだった。
「わかった、わかった。明日も来るから」
 どうせ仕事がないんだから、別に問題ないだろう。彼は毎日野良猫に餌をやった。
「うまいか?」
「にゃー」
「そりゃよかった」
「にゃー」
 そんなやりとりが続いたある日のこと。いつもの野良猫が、男を「にゃー」と呼んだ。男はおやおや、と思いながら猫の後を追った。
「にゃーん」
 そこには四匹の猫が居た。男はいつも猫缶を多めに持っていたので、急遽増えた四匹といつもの一匹に猫缶をやった。
「うみゃうみゃ」
「みゃむみゃむ」
「……にゃっにゃっ」
「がつがつ」
「ちゃむちゃむ」
 五匹が思い思いにメシを食う様子を、男はぼんやり眺めていた。
 ――こいつらにも餌を与えるとしたら……無職じゃいられないよなぁ、バイトでも何でも始めて、餌代を稼がないと。
「なーん」
 ――いや、そもそもこんな寒い中で暮らすより、あったかいおうちに引き取ってやった方が……。
「にゃぁん」
 そのためには……。


「ただいまー!」
 猫たちにエサをやるために残業はしない優良社員は、顔をデレデレさせながら幸せな時間を過ごす。
 もともとそこそこのキャリアがあった男は転職活動に成功。なんせやる気のある実力者は採用担当の目にも止まる。その勢いのまま男はペット可の物件に引っ越し、五匹の猫と一緒にそりゃもうとっても幸せな生活をスタート。
「ほぉら、ごはんの時間だぞぉ」
 五匹の猫はそれぞれ特徴的な音を立てながら、今日もおいしいご飯を食べるのであった。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)