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【短編小説】はなれられないの

 少年は、お母さんに頼まれて、となりのコツコツタウンにパンとたまごを買いに行きました。少年は家でニワトリを飼っているのですが、最近調子が悪いのか、たまごを産んでくれなくなってしまったのです。
 少年は元気よく「いってきます!」と言って、コツコツタウン目指して歩き始めました。

 少年の住んでいるモコモコ村からコツコツタウンまでは歩いて十分ほどかかります。コツコツタウンまでの道は、とても安全で穏やかな道です。
 その途中、少年は変な声を聞きました。
「あー、ここは住み心地が悪いし、移動するにも不便だなぁ。本当に、ゴミみたいな場所だ!」
 その声は、ガタガタ村があった場所から聞こえてきました。
 ガタガタ村は、少し前に村人が全員出て行ってしまって、もう誰一人として住んでいないのです。
 少年は少し気になって、ガタガタ村の方へと歩き始めました。

 ガタガタ村は、少年の想像以上に荒れていました。
 これでは、声の主が住みにくいとか移動が不便とか、文句を言うのも分かります。
 声の主は、一番大きな建物の中にいました。髭を生やしたおじさんが、お酒を飲みながら叫んでいます。
 少年はこっそりとおじさんの様子を窺いました。
 声の主は、変わらずガタガタ村の事を悪く言っています。しかし、その後にこう続けました。
「でもボロボロ村よりはマシだ! ボロボロ村よりはマシだ!」

 少年はおどろきました。ボロボロ村も、少し前になくなってしまった村です。悪い人たちがたくさんやってきて、村のものをみんな根こそぎ奪っていってしまったのです。
 少年はボロボロ村のことが大好きだったので、少し悲しくなりました。

 おじさんは少年に気がつかず、ボロボロ村よりはいい、と言ってガタガタ村の真ん中でお酒を飲んでいます。
 少年は無言で、ガタガタ村だった場所を去りました。

 少年は少し遅れて、コツコツタウンまでやってきました。お店のおばちゃんが、少年にパンとたまごを売ってくれました。
 少年は思いきって、お店のおばちゃんにガタガタ村のおじさんの話をしました。
「ああ、あの人……まだいるのね」と、おばちゃんは嫌な顔をしました。
「あの人ね、ずっとガタガタ村にいるのよ。ガタガタ村からひっこせば、もっと楽しい暮らしができるのに、ずっとボロボロ村よりはいいって自分に言い聞かせて、あそこに住んでるの」
「どうしておじさんはひっこさないの?」
「あの村に、あいちゃく・・・・・があるからね」とおばちゃんは答えました。
「ガタガタ村が好きだったから、また前みたいに、みんなといっしょに暮らしていたガタガタ村のことをあきめたくないの。だからああして、ほかのものを悪く言って自分のことをごまかしているのよ」
 おばちゃんはそう言うと、少年のバスケットのなかにパンをひとつおまけしてくれました。

 コツコツタウンから帰るときも、ガタガタ村からはおじさんの声が聞こえてきました。少年はおじさんに声をかけようかとも考えました。しかし、ボロボロ村に対してあんなにひどいことをいうおじさんから、同じような言葉をむけられたとしたら、少年はとても傷つくだろうなと思いました。
 少年は「ああいう風にはなりたくないな」と思いながら、お母さんの待っている家へと帰っていきました。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)