ちょう、笑う。
仄暗い大腸検査室。
肩をヒクつかせて必死に笑いを堪えてる看護師と医者を肉眼で確認しプチパニックになる。
帰る
▶︎逆に歌う
…悪魔の囁きが聴こえる…そうだ…逆に歌う…規格外な陽キングを装い、もう旧知の友のように人懐っこくいっちゃえば…
迷わなかった。顎を気持ち上げ、陽気にニャンニャン歌い出す!
「!!!!」
医師と看護師、目をひん剥いて一斉に顔をあげる。
見よ!振り切るとはこういう事をいうのだ!!!!!
ダムは決壊した。
こぼれ出した笑いは波になって増幅してゆく。
横隔膜は容赦なく二人の腹を揺らす!!
勇ましく謳いながら入室する狂気な陽気は、場を完全に制圧した。
「ごっっきげんですね!」
「にゃん⁈、おぬし、先程、扉の奥から何か歌がキコエテコナカッタカ‼︎」
「きいてませんwなにもきいてませんwww」
「♬にゃんにゃ…」
「きいてませんwきいてませんwww」
こんなやり取りをしてくれる医師と看護師…なんて素敵な二人!!
こうなったらいくとこまで行く。狂気スレスレの満点陽気を終始貫くまでよ!
狂気な陽気は検査室を支配している。
調子に乗ってウケを頂戴しようとあの手この手で貪欲にいく。医師も看護師も一緒にノってボケたおす。
笑う検査室。
3人のひき笑いが響き渡る大腸検査室。
首尾よし!…てかあれっ…ただの普段のワタシじゃん…よそ行きをやめただけの…えっ、…おれ…ってこんなバ…
改めて自分を見つめ直す時がこんなタイミングで訪れようとは思いもしなかった。
そんな中、検査の準備が整い、
笑う準備も整う。
だが、なんとなく笑ってはいけない空気になる。
笑ってはいけない。
ニタニタソワソワしながら医師と看護師、そして私。
「じゃあ横んにぃなってください」ソワソワ
「でぇわはっ…じめますね。」ニタニタ
「ふうぁい。」あっぶねぇ…
笑いの空気は完全に飽和状態。
あと一滴で溢れ出す…笑っては…いけない!!
内視鏡が体の中をスルスル進んでゆく。曲がり角を曲がる時と奥にグッといくときの鈍痛がけっこうキツイ。
だが、狂気な陽気は支配する。笑ってはいけない。
目の前には腸内を映す大きなモニター。
「これがすんどめさんの腸内です。」
「へーうまそうッスね。」
「ふうえっ?」
素っ頓狂な先生の反応に畳み掛けるように被せる。笑っては…いけない。
「ふぅうまそうッス。ホルモン。」
均衡が、
崩
れ
る。
「はあうぅんっ…。」
看護師の方はもう完全にゾーンに入っていたようでこんなしょうもないやり取りで呼吸を乱し、肩をヒクつかせていた。やがて、
かんごし は へんなわらい を かましてきた。
ふあはぁあんっ…くっふぅううはぁあん…はぁあん…
あんた、なんちゅう笑い方をっっ!!!!
か ん ご し め…医師も私も必死に耐える。
なおも、狂気な陽気が支配する。笑ってはいけない。
かんごしのえげつないわらい声が、医師と私のHPをぐんぐん削る。
50…40…20…くっふぅうううんんんん!
すんどめ砦陥落。
医師砦も陥落。
腹をヒクつかせて笑う私に
「腸をゆらして笑わないでくださいwwww」
医師の放ったパワーワードでよけいツボる魔の空間。
「腸壁に穴あきますよwww」
「先生、黙っててくださいwwww」
かんごしは私の背中をさすりながら笑っている。
医師と看護師とわたし。
三人の笑い声は仄暗い検査室を延々走り廻る。
狂気な陽気が支配する。笑い声は止まらない。
つづく。
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