「卍」〜その一〜

僕は今までメモをとりながら読書したことが無い。なんなら本を「熟読」することも滅多にない。暇を潰したり疲れを癒したりするのに頭使ってどうすんだ。みたいな考えでここまで生きている。

最近ものを読まなくなってきたので、リハビリ感覚で短い作品を読んでいたところ、ふと「これをがっつりメモをとってネタバレ解説文でも書けば誰かの目にとまるのでは」と思った。なので今文章を投下しようとせっせと読んでは書き読んでは書きしてポンコツ携帯から打ち込んでいます。前置きが長くなりましたが読んでねみなさん。

物語は「先生」と呼ばれる人物と主人公である「私」が話す場面から始まる。
といっても、先生は一切喋らず「私」が一方的にまくし立てている状態。文中に括弧で作者註が入っているあたり、「先生」とは谷崎潤一郎自身のことではないかとも思われる。

主人公である「私」は、どうやら以前にある男と不倫関係にあったらしい。関係を絶った直後は未練でヒステリックにもなったが、のちのち考えてみると「ええことない男やった」と思うようになったという。
ちなみにその男性とは肉体上の関係が無かったらしい(「先生」の台詞より)

また、夫が弁護士事務所を開業して毎日そこに通うので一日中家にいることになった「私」は、することが無いとろくな事を考えないからと「女子技芸学校」で日本画を習い出している。

夫は快く賛成し毎朝家を出るのも一緒、帰る時も待ち合わせて、という調子で時々松竹座に寄って行ったりもするほど夫婦仲は良好だった。

また、これは僕の個人的な感想だが、主人公は

・不倫相手と肉体関係を持っていない→精神的な繋がりを求めていた
→寂しがり屋、心に隙がある

・別れた後も未練があり、ヒステリック
→神経質、繊細で感情的、不倫相手に精神的に依存していた?

・何もすることがないとろくな事を考えない(おそらく昔のことを思い出す、また間違いを起こしそうになる)
→考え込むくせがある、心が脆い

といった性質だったのではないかと思った。

しかし、学校に通いだしてからしばらくして「私」は校長ととある「ほんの詰まらん事」で揉めることになる。

その「詰まらん事」というのは、「私」が日本画の授業でモデルに観音様の姿をとらせて写生していたときに校長がやって来て
「あんたの絵エはちょっともモデルに似ておらんようですな、あんたは誰ぞ、外にモデルあるのんではありませんか」
と意味ありげに笑ったことがきっかけだった。

校長だけでなく他の生徒たちも忍び笑いをしていた、とあるので何らかの噂が広まっていたものと推測できる。

生徒の年齢は違えど「私」が通うのは女学校。いつの時代も女子校というのは噂が飛び交う所である。
作者は男性なのではたしてこれが本当の当時の女生徒たちの姿なのかという疑問はあるが(実際現代では作家の描く「女子校」はキラキラした理想の女子校かいじめや陰謀渦巻く地獄の女子校の二つに大きく分かれがちである)。

「外にモデルがある」と言われ、自分では意識していなかったが何か心当たりのようなものがある主人公。

主人公が無意識のうちにモデルにしていたのが、このあと深い関係となる「徳光光子」という女性である。
彼女は日本画の「私」とは違い洋画の教室に通っていたので話す機会もなく、おそらく主人公が一方的に知っていただけだという。

主人公はその後もいろいろと考え、確かに絵は光子に似ているがそれの何がいけないのか、たとえ彼女をモデルに思い浮かべて描写生はそこにいるモデルの顔を写すという目的ではなく観音様の雰囲気を出すものなのだから、光子の方が雰囲気に合っていると思ったなら彼女をモデルにしても差し支えないという結論を出した。

一見屁理屈のようにも聞こえるが、何度も読み返し考えても反論できそうになかった。

強引な意見というのはよくないものと思われがちだし実際そうであることが多い。
が、この時の主人公の意見のように筋が通った強引な意見というのは「正論」といって時には暴力にもなりうるくらい強力である。

いつでもどこでも正論を振りかざすのは暴力と同じなので控えようね、というのは僕自身に対する教訓であり今する話じゃないので割愛。

それはともかく、主人公は感情的で繊細なだけの人物かと思いきやわりと論理的な部分も持ち合わせていた。さらに自分の意見を主張できる。

……後々面倒なことになる人だと分かっていても「なんだ、思ってたよりまともな感じじゃん」と思ってしまいそうになる。実際ここだけ見たらそれなりに魅力的な人物に見える……少なくとも僕はこういう人にとっ捕まってお友達になった挙句揉めます。僕も「私」チックな人なので。


これで「その一」が終わったので今回はここまで!読んでくださった方はどうもありがとうございました。また続きを書くと思うので読んでもらえると嬉しいです。

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