無くなったものを探すこと

昨晩、急遽父親に誘われて飲みに行ってきた。あまり親子二人で飲むこともないので新鮮な気持ちがした。

色々話していると、僕の小さい頃のまだ聞かされたことのないエピソードを知らされて面白かった。あー、自分ってそんなことしてたんだ(笑)と滑稽に思ったりもした。忘れられていた記憶を蘇らせてくれた。

そんな時にふと、小川洋子さんの『物語の役割』という本で僕にとって大変大きな学びになった一節を思い出した。ユダヤ人であったドラという女の子はナチスによる迫害を受け、アウシュビッツに送還されて殺された。全くの無名の彼女の名前がある日新聞に掲載され、それを見たフランス人作家のモディアノはなぜかその記事が忘れられず、10年もの歳月をかけてその人生を調査し、『1941年 パリの尋ね人』という本に記した。そこで小川洋子さんはこう言っている。

この作品を書くことによってモディアノは、死者からこぼれ落ち、誰からも見捨てられた記憶を大事に両手ですくい上げ、そうすることで死者と言葉を交わしたのだと思います。(中略)モディアノは寄せられた批評の中で最も心打たれた一文として、次のような言葉を挙げています。
「もはや名前もわからなくなった人々を死者の世界に探しに行くこと、文学とはこれにつきるかもしれない」

話を戻すと、父親は僕の小さい頃の失われた記憶をすくい上げ、もはや忘れ去った記憶を忘却の世界に探すお手伝いをしてくれたんだなと思った。

今この瞬間瞬間もすぐ忘れてしまう記憶を、時に蘇らせてくれる存在があればそれは至極尊いものだと実感した、というお話。

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