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安保法案に孕む可能性と非非実在人間

写真:陸上自衛隊フォトギャラリー

<おおざっぱな目次>

・イントロダクション
・安保法案は戦争法案なのか
・人によって違う安保法案の解釈
・安保法案は日本の人々の命を救うのか
・実質よりも重大な法案の「見た目」
・「非武力」は甘い戯言の幻想なのか
・日本は自らの力で国を守らず、国際貢献をしない国か
・実在する命

 この時期なので、安保法案について今個人的に思う事を書いてみます。

 8月は時期的に、どうしてもテレビで戦争ドラマや特集が多くなります。このような取り組みがあるおかげで、戦後70年の月日が経ち、戦争を知らない世代でも反戦意識を持つ事ができる。実際に日本に住んで生活してみないとピンと来ないかもしれないですが、日本ほど平和にこだわる国は(別に世界で1番だとまでは思わないとしても)それほど多くはないような印象があります。それはかつての戦争で日本が体験した事例などの影響ももちろんありますが、自衛隊の存在も影響としてあるのではないでしょうか。

 その自衛隊の運用が大きく変わる可能性があるのが現在参院で審議されている安全保障関連法案(以下、安保法案)であり、これによって「戦争をしない国」から「戦争ができる国」に変わるかもしれない、として日本国民の大部分から反対を受けて安倍政権の支持率が緊急事態と言われるほど低迷しています。
 野党も訴える「戦争法案反対!」というプラカードを掲げてデモ行進もあり、先日、学生団体によるデモ活動もありました。与党側からは失言が相次ぎ、政権は身内から出た火消しに追われながら野党と論戦を繰り広げています。

 ところで、支持率低迷が話題になった衆院審議の時から安倍さんや与党は「残念ながら国民の理解が得られていない」と言っています。そしていよいよ本格的にマズイと考えたのか、安倍さん自らテレビの特番などに出演してフリップや模型を使って説明する展開にまで至りました。(この辺の説明法は側近を介して周りが考えたのだと思いますが……。)
 しかしこれが却って「余計分かりにくい!」と大批判を受ける事に。説明している事は前から同じなのですが、確かに一層分かりにくくなった気がします;
 しかし実際、安保法案に反対している人が、みんな内容を分かって反対しているのかという懸念はあります。ただ、「分からないから、分かるように説明してもらえるまでは反対だ!」という意見もあると思います。それも1つの意見としてありかな、と僕は思うのです。
 僕も全部が全部分かっているなどとは自信を持って言えなかったので、ちょうどいいので今回改めて調べてみました。細かいレベルまで詳しくというわけではないですが、内容がまとめられた割と古くないウェブページがあったので紹介。

安保法案とは、そもそも何? わかりやすく解説【今さら聞けない】

 安保法案は1つの法律の呼称ではなく、既存法の改正を含めた約10の関連法案をまとめた総称です。
 なぜ安保法案がここまで異常に長く審議され、「このままじゃ会期内に可決に踏み切れない!」として与党側が「今国会はもうちょっと延長して審議しよう!」と会期を延ばして、「よし、こんだけ審議すれば審議は尽くされたって言えるだろう」として強行採決に至るほど時間をかける事になったかと言うと、単純に約10法案あったからです。与党はこれで「審議は尽くされた」と主張しています。(ちなみに野党側の「1つ1つ時間を割いて審議すべきだ」との声には、「それぞれが密接に絡んだ法案なので、まとめて審議するのが妥当」と答弁を返しています。)

 安保法案は上記のとおり「審議は尽くされた」とし、強行採決となり、与党のみの支持により可決、現在は参院へ議論の場が移行し、参院で60日以内に決まらない場合は「否決」とみなされ、その場合は衆院で「再議決」=ほぼ同じ結果になるので、安保法案正式可決となります。
 ただ、そうなると衆院と参院に分かれている意味がなくなるのでは? という事になりかねないので、与党はできるだけその流れを避けたい考えがあると見られています。だから再び伝家の宝刀を抜かなくて済むよう、支持率の回復にも勤しんでいるようです。(この辺は報道などから得た事をまとめています。)

 ここで、僕自身の個人的なスタンスはどっちなのか書いておきたいと思います。
 僕は安保法案は「非支持」で、「反対の度合いがやや薄れてきた」という感じです。

 意味が分からないという方、これから説明していきます。なお、個人的に考える事を説明するだけなので、読んでどう思うかはあなた次第です。

安保法案は戦争法案なのか

 安倍さんは国会で「戦争法案などというレッテル貼りはやめていただきたい!」と、ややキレ気味に仰っていました。巷では「徴兵制の復活」などと囁かれていて、それを真に受けて「戦争反対!」と叫んでいる人もいると思います。
 でもまあ、現実的に考えて徴兵制は今の日本という国から考えてありえないと普通は思いそうなものですが……(^^;)
 安倍さんも「徴兵制はない」とはっきり明言しています。そしてこういう発言が出るからこそ、僕の中の「反対の度合いは徐々に薄まって」きているのです。これについては後述します。

 はっきりしているのは、自衛隊が戦闘が行われている地域に派遣される事はない事。これは現在のPKOなどでも同じです。
 では何が変わるのかと言うと、今までのような「戦闘が確実に行われない地域」だけではなく、「もしかしたら突発的に戦闘が発生する可能性のある地域」も派遣の対象となる事。
 「じゃあ、戦争になるかもしれないじゃん!」と言うと、それはそのとおりでしょう。ただし、命の危険があるのは自衛隊員です。海の向こうの自衛隊員に危険があるだけで、日本にいる日本国民たちには危険が及ぶ訳ではない、つまり安直に戦争と結び付けられる訳ではない……という事になるのではないでしょうか。
 野党の追及に、「自衛隊の方たちには、今まで以上にリスクを背負っていただく事になる」と、安倍さんも明言しています。
 個人的には、もしそのようなケースが発生した場合は、自衛隊員だけで済む状況ではなくなる可能性もあると思いますが、それについては後述します。

 他にもよく聞く集団的自衛権、日本と密接な関係のある国(主にアメリカ)が武力攻撃を受けかねない場合(ミサイル攻撃など)に、日本がそれを迎撃するなど。(よく例に使われるのは北○○がアメリカに向けてミサイルを発射した場合、中間にいる日本が地対空ミサイルで撃ち落とすというケース。)
 他に、「直接戦闘には加わらないが、弾薬の提供をする」なども。武器提供は禁止されているが「ミサイルは武器ではなく火薬を使った消耗品として数えられる」などが議論になったり。

 結構ギリギリなグレーなものも多いです。

 そして、それこそが安保法案の持つ本当の危うさとも言えます。

人によって違う安保法案の解釈

 憲法学者が安保法案は「違憲」だと判断しました。与党推薦の憲法学者まで「違憲」であるとしました。(秘密保護法の時に支持した学者なので今回も頼んだら、中立的に見て違憲と判断されたそうです。)
 憲法は法律と違って国を縛るためのものであり、国が暴走しないように国民に権利が委ねられているもの。憲法を変えるには国民投票が必要です。
 しかし安倍政権を含めて、平和憲法である憲法9条に反する法案を「解釈の変更」という形で少しずつ新法を作ってきています。だから憲法学者は「違憲」であると判断しています。
 憲法9条の内容とはどんなものでしょうか? Wikipediaより引用します。

日本国憲法 第9条(にほんこくけんぽう だい9じょう)は、日本国憲法の条文の一つで、憲法前文とともに三大原則の1つである平和主義を規定しており、この条文だけで憲法の第2章(章名「戦争の放棄」)を構成する。 この条文は、憲法第9条第1項の内容である「戦争の放棄」、憲法第9条第2項前段の内容である「戦力の不保持」、憲法第9条第2項後段の内容である「交戦権の否認」の3つの規範的要素から構成されている。 日本国憲法を「平和憲法」と呼ぶのは憲法前文の記述およびこの第9条の存在に由来している。

 前述のように憲法は国の暴走を止めるためのもの。という事は、安倍政権は今、信念を以って暴走している状態という事になります。現状、国民のほとんどが武力拡大について拒否反応があり、国民投票をすれば否決されるであろうことが予測される。だから「解釈の変更」という手段を取っている――という事は皆が分かっていて、目的達成のために堂々とルール違反をしているのだろうと思われます。
 ただ、「違憲」「合憲」問題について言えば、「これが違憲というならば自衛隊そのものが違憲だ」という声もあります。確かに、9条が示しているのは完全なる非武装です。自衛隊そのものも違憲なのです。
 だから個人的には「自衛隊の存在の是非も国民投票すれば良いのでは?」とも思います。(ただまあ、国防の観点で言えば「是」に投票する方が圧倒的に多いと思いますが……。)

 そして安倍さんがよく用いるのが「積極的平和主義」という造語。
 安保法案の賛否にあるのは、(全部が全部ではないだろうけど、)この「平和」の解釈の違いによる衝突でもあるのではないでしょうか? 
 例えば「戦争とは何か?」という問いに対する答えの代表例の1つに「正義vs正義」というものもあります。争っているどちらにも、自らが信じる「正義」があり、その「正義」の価値観が違う為に、己の「正義」を貫くために、守るために、戦争に発展する場合もあります。宗教戦争などはそういう度合いが強いのではないでしょうか。(資源が目的の戦争もありますが、戦争とは何かが今回の主題ではないので、この場では割愛。)

 安保法案は「軍拡」ではなく「抑止力」であると与党、支持層は主張しています。法案によって、自衛隊の活動範囲が広がり、武器使用のケースが柔軟になります。(詳しくは先に紹介したリンク記事を参照してください。)
 今まで自衛隊は「攻撃を受けた場合に反撃する」=「攻撃を受けるまでは絶対に手を出さない」という姿勢を守ってきました。何故なら先に手を出してしまえば、それは「防衛」ではない。つまりその時点で「自衛隊」ではなくなってしまう。日本と領土を争う中国の海軍が日本の海自護衛艦に射撃の照準を合わせたという一触即発の事件もありましたが、「専守防衛」が理念である自衛隊は先制が絶対にできないので、「攻撃してこない」事を祈る他ありませんでした。それほど自衛隊は「軍隊ではなく防衛組織」という点にこだわっています。
 だから攻撃には許可も必要であり、国会で承認するなど手続きに時間がかかります。緊急事態時、それが命取りとなるケースもありえる。そういう部分を安保法案で補強し、国防力(軍隊ではないので軍事力とは言わない)を強める事で「舐められない」ようにするという事が安保法案の意義としても謳われています。

 では「舐められない」とは、どこに対してなのか? ニュースでも散々言われています。前述にも出た、海洋進出をしている中国です。
 中国は領海を主張して、笑ってしまうほど国土から遠く離れた南洋海域まで自国の領海であると主張し、そして実際に埋め立てを始めたので笑っている場合ではなくなり、早急に対処する必要があると判断されました。安保法案がなぜ急がれているのかというと、そのためでしょう。

 中国は日本も領土主張で衝突しており、領海領空侵犯を繰り返し、自衛隊のスクランブル発信の回数は激増しました。安保法案はこういう現状を解消する意義も含まれています。

安保法案は日本の人々の命を救うのか

 安倍さんが強く主張するのは「日本人の命を守るための法」という事。安倍さん自身は建前ではなく、本気でそう考えているでしょう。2回目の就任から、正しさを通すには清濁併せてどんな手を使ってでも貫くしかないという信念を持っているのが感じられます。それが良い方に向かえばまだ良いですが、外野の聞く耳は持たないので、危うさも怖さも秘めています。
 はたして安保法案は本当に平和に導く法案なのでしょうか。

 反対派の声には、「日本が他の国の戦争に巻き込まれる可能性がある」というものもあります。
 中国の脅威も一応あるにはあります。しかし僕自身は、なぜ中国ばかりが想定されるのか、他の危険性がなぜあまり注目されないのかが不思議であったりします。
 急速に変化する世界情勢への対応が早急に必要、というのは十中八九、中国の事でしょう。(というか、参院審議で糾弾された安倍さんは衆院審議では遠回しに言っていた「ある国」の事を切羽詰って「中国」と明言していました。)
 中国がなぜ何度も頻繁に領海領空侵犯して挑発してくるのかといえば、それは「開戦の大義名分」が欲しいからと推測されます。
 先に手を出せばそれを口実に攻撃ができる。反撃が来れば自国も反撃ができる。それが繰り返され、戦闘の規模は拡大し、日本の南西の空や海で戦争状態が展開される。そうすれば尖閣を制圧し、周辺の海まで実効支配できる……との狙いがある事は多くで考えられている事でしょう。中国は来るその時の為に国費を投入して軍事力を拡大しています。

 ただ一つ疑問なのは、安保法案が成立したとして、対中の現状にどういう変化がもたらされるのか。
 安保法案が可決されたからといって、自衛隊が先制攻撃できるわけでもなし、仮に攻撃できたとしても日中戦争が勃発するだけ。安倍さんは戦争をするための法案ではないと明言しているし、法案自体もそうはなっていない。
 そして安保法案施行によって中国が自粛するかというと、中国共産党の思考にそんな傾向があるとは思えない。世界中(の人々)からバッシングを受けても意に介さず、いくつかの国から注意勧告されても「主権(国家に認められた正当な権利)の範囲内である」という理屈の一辺倒です。日本が軍事力ではなく国防力を高めたところで何か現状変更があるのか疑問に感じています。

 さらにもう一つの懸念。これが中国などよりもはるかに警戒すべき事だと思いますが、テロリズムを誘発する可能性です。
 前述のように「日本が他国の戦争に巻き込まれる可能性がある」という声があります。主にアメリカの事を指しています。アメリカは警察的目的で他国に軍を派遣し、治安戦闘を行っています。これにより敵意を向けられやすい立場でもあります。9.11の事は説明するまでもないほど世界の大抵の人は知っています。
 日本はアメリカと密接な関係にありながら、なぜ国家の攻撃やテロの対象とならないのかといえば、単純に戦闘に参加していないからであり、これまで敵意を向けてこられなかったに過ぎません。陸続きの土地もないので軍事侵攻も受けないのも幸いしています。しかし安保法案が「日本が戦闘可能な準備に入った」と捉えられれば、状況は変わってきます。
 さらに言えば、テロリズムは軍を率いて来るものとは違って極端な話、1人でも行えます。今まで怪しい兆候のある人間は各国の諜報組織にマークされているでしょうから、そういう人物は日本に向けて出国が確認された場合、入国の時点で公安が止めてくれるかもしれない。しかし、職場やネットでも全く怪しい言動もなかったノーマークの人間が日本に観光客として入国し、日本でパーツを揃えて爆弾製造し、どこかのビルを爆破するという事だってありえない訳ではない。
 日本が世界でトップクラスに治安がいいのは銃規制や警察システムのせいもありますが、今までテロの対象にならなかった事も挙げられます。
 安保法案が可決された場合、その現状を変えてしまう恐れは可能性として残ります。

 飛躍しすぎと思いますか? 可能性の話だから、確かにそうはならない可能性もあります。しかし同じくそうなってしまう可能性だってあります。

実質よりも重大な法案の「見た目」

 僕がずっと懸念しているのは、世界で日本が「右傾化」と捉えられている点です。
 あまり知らない人も多いですが、自衛隊を「自衛隊」として見ているのは日本人だけです。世界では自衛隊の事を「日本軍」として見ています。何故かというと考えてみれば当たり前の話ですが、世界では「自衛隊」という組織がないからです。
 各国にあるのは軍隊であり、自衛隊との違いもピンと来ない。「呼び方変えているけど、結局やっている事は同じだろ」と言われています。自衛隊の理念である「専守防衛」のマインドは日本独自のものだったりします。だから安保法案の話題が国際ニュースになった時、欧米の人々の間では「やっと普通になったか」と言われ、中韓の人々の間では「日本が軍拡を始めた」と恐れられています。

 安保法案が「戦争法案」かどうかは問題じゃない。いや大問題ですが、それはともかくとして、国民の中で理解が進んでいないのだとすれば、海外ではもっと理解が進んでいない可能性は高いのではないでしょうか?
 与党は国内の対応に追われて世界の目を忘れている節が見えます。軍拡と誤解され、テロの対象に据えられた時、日本国内の治安は徐々にレベルを下げていく可能性がある。テロが起き、日本の強みだった「治安」を失えば、訪日在日外国人も激減し、経済も下降していく。日本経済の衰退は少しずつ世界経済にも及ぼしていく。悪い連鎖が続いていく。そういうシミュレーションだって全くありえない事はないでしょう。
 中国はまだ「国際社会の中の先進国家」という体裁を維持して世界で幅を広げる考えが透けて見えるので、まだ抑制が効きます。「主権の範囲」という理屈を超える行動は取れない。

 しかしテロリズムにはそういう理屈はない。国際社会とかどうでもよくて、己の「正義」を成す為に「悪」を蹂躙するのが理念なので、日本が「悪」だと思い込まれた場合は、ここまで築き上げてきた治安が失われる事になりかねません。
 もう忘れてしまった人も多いのかもしれないですが、日本はシリアでISISに国民を人質に取られ、2人殺害されています。もっともこの事件は初めからヨルダンが目的であったのかもしれないし、たまたまシリアで日本人2人捕えたので、2人を使う事であわよくば日本から金を引き出し財力危機状況を打破できるかもと考えたという、本来の敵意ではなかった可能性もあります。(ISISは「日本に恥をかかせる目的だった」とISIS内で伝えているようですが、これは失敗の言い訳だろうと思われます。)
 ただ実際の思惑はどうあれ、日本はISISの「敵」としてはっきりと明言されています。アメリカやその他の国の後方支援だとしても、安保法案の施行で「日本への見方」が変わる可能性はゼロとは言えないでしょう。

 与党の主張は「国際社会に貢献し、日本を守るための法」。しかしそれが災厄を招く「起爆剤」となりうる可能性を孕んでいる事は視野に入れておくべきです。そして国会議員がそこまで視野に含んでいるかは不安なところでもあります。

 ですが、序盤で書いた僕のスタンス「反対の度合いがやや薄まってきた」は、与党が反対派に糾弾される事で安保法案のフワッとした曖昧な部分などが明確になったり、明言を引き出したりして浮き彫りになり、それが報道され、誤解を受ける可能性が以前より少しだけマシになったように感じたからです。
 とはいえ、日本が戦闘状態に巻き込まれる可能性がゼロではないし、テロなどを誘発しかねない部分もあります。
 中国は国際社会の先進国家の体裁を保っていると言っても、刺激すれば、何をするか分からない危うさも持っています。

 本当に抑止力が抑止になるのかという事を、今一度見つめてみるのも悪くないです。

「非武力」は甘い戯言の幻想なのか

「やられっぱなしでいいのか」「このまま中国に支配されていいのか」「何もしないでいいのか」「平和ボケのままでは日本は終わる」

 安保法案を支持している人々からは、こういう声が多く聞こえます。
 何もしないという選択はないでしょう。でも、安保法案が適切な対案なのかという疑問は残ります。

 俳優の渡辺謙さんがTwitterでつぶやいた事が議論を呼んだそうです。(公式マークがないですが、本人のようです。)以下、引用。

一人も兵士が戦死しないで70年を過ごしてきたこの国。どんな経緯で出来た憲法であれ僕は世界に誇れると思う、戦争はしないんだと!複雑で利害が異なる隣国とも、ポケットに忍ばせた拳や石ころよりも最大の抑止力は友人であることだと思う。その為に僕は世界に友人を増やしたい。絵空事と笑われても。

 そしてこのツイートを本当に絵空事として批判したり嘲ったりしている人もやはり多かったようです。例え笑われても、との覚悟でのツイートなのでそれは別に気にしないとは思いますが、(いやそんな事ないか……;)多分、こういう発言を「平和ボケ」なのだと思っている人も多いのだろうと思います。

 ここまで結構書いてきたのですが、ここまで読んだ人はどう感じたでしょうか?
 安保法案を支持する声の中で、前項の「テロの誘発性」の可能性について触れられていないのは、「平和ボケ」にならないのだろうか、と僕は考えるのですが、どうでしょうか?

 話を戻して、渡辺謙さんの言う「友人である事が抑止力」というのはどっちみち絵空事に変わりはないという人もいると思います。
 外交は精神的な事だけでなく利害もあるので、対話だけで上手くいくかどうかという懸念があるのはもっともだと思います。中国共産党相手であれば尚更だと思います。習近平国家主席相手では尚更だと思います。中国にはなんだかんだ日本好きな人も沢山いますが、国民と国は別なので尚更だと思います。

 では現実的にもう少し考えてみます。
 中国が今海洋進出をしているのは、南沙諸島を押さえる事で、シーレーン――つまり輸送海路を牛耳る事も目的にあります。簡単に言えば海の覇権です。
 日本もそうですが、国内にあるものの全てを自給率100%で賄えている国はそうそうありません。食品なり商品なり原料なり、いろいろなものを輸入に頼っているものもあります。海路を押さえられると、海の通行料が必要になるか、もしくは通してもらえない可能性も出てきます。
 中国には現状でのアメリカに相当する位置づけの「大国」になる目標があります。
(そして、これは日本国の維持に関わる重大な国防事態だとし、それを阻止するのも安保法案の意義としても唱えられています。)

 そのために中国は国費も費やして軍拡をしてきました。
 しかし、バブル状態だった中国証券市場が弾けかねない状況で、一時世界が固唾を飲んだ時期も最近ありました。それだけチャイナマネーは中国以外に大きく絡んでいて、中国だけの事では済まない状態になっています。かつてのアメリカのリーマンショックみたいな。
 中国政府は国の経済危機に陥る事態を回避する為に、国が株を買い支えて、ギリギリ市場が崩壊するのを防いでいます。しかし国が相手では個人投資家は太刀打ちできなくて、結果的に自国を苦しめる状況にもなっています。(あと、国が市場に介入する事への批判も出ています。)

 中国経済が破綻するのは、日本を含めた他国の経済にも波及するので危険な事ですが、中国の経済力が衰退した場合、国費投入させて拡大させていた軍事力は縮小せざるを得なくなる可能性もあります。
 また、香港の自治期限が終了するという事で、香港の自治力がなくなり、本格的に中国本土の政治力が及んでくる可能性が高まっています。香港は不動産が高騰しており、生活が厳しくなってきている事情もあって、台湾へ移住する人が増えてきているとの事。(これは最近の報道。)もしこの向きが続けば、香港の人口は減少し、香港そのものの経済力が減少していく可能性はあります。
 今は本土での経済力が大幅に上昇し、香港は必ずしも経済の要という訳ではなくなりました。しかし、大陸本土での経済が衰退した場合、香港は再び経済の頼りになる……はずですが、もしかするとその状況も変わってくる可能性があります。あとはカジノ街があるマカオがありますが、逆に言えばここのみになってしまうかもしれません。
 中国で起きている事は、昔に日本でも起きていた事です。根拠もなく、国の全ての経済がどんどん上がり続け、夢見心地という気分だったと、バブルを生きた人は皆言っています。中国での個人投資は根拠がないもので、ゲーム感覚で皆株を買っていたそう。実体がない株価の上がり方をしていたので、崩壊した時が危険ではあったのです。

 今の中国があるのは、経済力が上がった事があるでしょう。だから、今までできなかった事にも費用を投入する事ができるようになり、軍拡もした。
 では、経済力が衰退した場合、中国はどうなるでしょうか。それほど好き勝手出来ないようにも思えます。

 ただ、中国は先細るかもしれない経済状況を見据えて、ヨーロッパとのインフラを整備する「一路一帯」構想を掲げました。欧中を結ぶ事で商業路線を確立し、相互に取引を活発化する事で互いに経済面を強化する目的があります。
 先に中国主導で立ち上げたAIIB(アジアインフラ投資銀行)が、主にその役目を担います。
 これで中国の経済が息を吹き返す可能性もあります。(まだAIIBの透明性云々言われているので、どうなるかは分かりませんが……。)

 「だったら、やはり中国は叩いておくべきではないのか?」という声もあるでしょう。
 中国経済が衰退して軍縮した場合、南沙諸島から引き揚げる事もあるかもしれません。(もう埋め立てているので、何とも言えませんが。)少なくとも力が小さくなれば、対話の余地は出て来るでしょう。
 中国経済が重大な危機に陥った場合、日本が協力する事になるかもしれない。その時に二国の間には大きな貸し借りもできます。個人的には貸し借りで国が協力するというのは好ましくないですが、それによって中国との間の外交がいくらか柔軟になる可能性もあります。
 もう一度述べますが、中国は国際社会の国家という体裁にこだわるところがあります。

 現実的に考えて、それほど絵空事な事なのかな、とも僕は思えるのです。

日本は自らの力で国を守らず、国際貢献をしない国か

 「日本はアメリカの後ろ盾があるから国防できているようなもの。アメリカがいなくなったら、日本は自らを守れない」
 安保法案支持の声の中にこういう声もありました。
 確かにこれは的を射ているのではないかと思います。日本の防衛力は自衛隊だけではなく、米軍が駐留していることで結果的に「睨みを利かせている」という状態にもなっているのが大きくもあります。日本に攻撃するという事は、アメリカにケンカを売る事にも繋がります。
 確かに米軍が日本から引き揚げたら、日本の自衛力は下がります。事実、フィリピンの駐留米軍が引き揚げたら中国が南沙諸島にやってきました。フィリピン軍のみであれば何という事はないとの分析による行動です。

 逆説的に言えば、米軍が日本から引き揚げる事はないとも言えます。アメリカは中国の海洋進出を警戒しており、アジアを監視できる拠点を必要としています。米軍が駐留する事になったのは先の大戦での日本の敗戦がきっかけでしょうが、結果的に日本が世界地図上で、アジアの監視としてちょうどいい位置にあった事もあると推測できます。
 それを除いても日本は戦後から、アメリカにとって、軍事面でも経済面でも、民間交流面でも、切っても切れない密接なパートナーとなっています。
 今後数十年~50年以上は少なくとも、日米が袂を分かつような事にはならないと、多くの人がほぼ断言できると思います。

 しかし「自分の力で国を守れないなんて情けない」という声も目にした事があります。
 個人的には、そこはこだわる所なのかな、と疑問を持ってしまいます。そもそも終戦後、GHQ統治が始まった最初の状態では、日本は完全に武力を持たず、米軍が守るという事になっていました。誰かに守ってもらうのが情けない、とは誰に対するプライドなのでしょうか? 自分に対するプライド? どうでもよくないかな、それ。って僕は思うのです。誰が守ろうが、国の平和が保たれていれば、それ以上を望む必要ってあるのかな、と考えます。
 それに、個人的には自衛隊の「専守防衛」の理念、これ凄く格好いいと思うのです。起こるかも分からない、できれば起こってほしくない有事に備えて、日々訓練する。「戦わない事を願う部隊」です。最高に格好いいじゃないですか。

 「じゃあ、人任せって事なのか!?」という声もありそうですが、それについては別のnoteで答えを出しています。

 ⇒ できる事で助けるという事

実在する命

 「自衛隊なんだから、リスクを負うのは当たり前だろ」

 これは、戦闘の勃発する可能性がゼロとは言えない地域に派遣される自衛隊員のリスクについて安倍さんが言及された時に「多少のリスクは負っていただく事になる」と答えたニュースに対して、Twitterなどで見かけた声です。

 国会議員が国防を議論するうえでは多少仕方ない側面はあると思いますが、一般の声としてこの言い方は、派遣される自衛隊員の事を「国民の税金で国を守る仕事しているんだから命張るのは当たり前だろ、死ぬかもしれないのは当たり前だろ、それが仕事だろ」という考えが透けて見えてきます。
 国防を議論する議員たちは多少は盤上を大局的に見る俯瞰視点が必要なので、駒のように見なければならないのは、若干仕方ない。しかし、一般の人間が自分には関係のない立場の事だからとはいえ、この言い方はあんまりなのではないかと感じます。
 安保法案が良いのか悪いのか、ああだこうだと言っても、実際に派遣されるのは自衛隊員たちです。彼らを置き去りにしていいはずがありません。自衛隊の人々、そしてその家族らはどう感じているのでしょうか?

 比較的新しい記事を見つけてきました。

安保法案衆院通過:自衛隊員や周囲の人たちは…(毎日新聞)

 歌手の長渕剛さんは自衛隊でライブを行った時、「目の前のこいつらを行かせていいのか」と感じたそう。
 目の前の。
 目の前のこいつら。
 目の前にいるこいつら。
 目の前にいる。
 目の前に。
 目の前に。

 自衛隊員は駒でもなければ、テレビの向こうの人でもなければ、厳格で殺伐とした軍人らしい軍人という訳ではありません。
 婚活もするし、趣味もあるし、家庭を持つ人もいる、同じ人間だったりする。
 大事な事なのでもう一度、書きます。
 自衛隊員は僕たちと同じ人間であります。ただ仕事が違うだけ。

 自衛隊というところで働く以上、リスクは常にあります。入隊する時にその覚悟はあるでしょう。(実際は思っていた感覚以上だったというケースはあるでしょうが。)
 ただ、考えてほしいのは、国外で任務を行う事は本当に「自衛」なのかという事。
 PKOはボランティア任務であるので、まだ自分を納得させる事はできるかもしれません。しかし、戦闘が発生するかもしれないとなると、自分が日本以外の土地で死ぬ可能性もあります。もしそんな事が起こってしまった時、隊員は最期のその時、どう思うでしょうか?
 自衛隊員なのに、「自衛」以外で、国外で死ぬ事になったら、自分は何の為に自衛隊に入ったのか――と、自分だったらそんな事を考えながら、意識が暗くなり、そのまま永眠する事になるのではないかと考えてしまいます。多分僕はその時、悔しさを覚えるだろうと思います。
 もしそのような所に行くのであれば、根本的に「自衛隊員」という意識を切り替える必要が生じる。それには自分の中で気持ちの整理が必要ではないか。しかし、自衛隊の中でそういう議論がある訳ではなく、自衛隊とは別の国会で、当人達が行く訳でもなく、自衛隊の国外運用について議論されている。それも殉職する確率が上がる事も含めた議論で。

 賛否いろいろありますが、大局的視点で考えるのももちろんですが、盤上の駒としてだけではなく、そこに確かな命があっての事だという事を念頭に、みんなで考察してほしいな、と思います。

 いろいろな観点から考察してみました。といっても、大概は前々から思っていた事です。
 国民の安保法案支持派も反対派も、どっちもフワッとした感覚で支持、反対されている人もいるなと感じたので、この時期という事もあり、書いてみました。
 一意見ですが、参考になればと思います。
 個人的に安保法案は危ないと思っているので、どんどん追求してほしいな、と考えています。そうする事でフワッとしている部分が掘り越されてハッキリするし、国際ニュースで実体が海外にも届きやすくなります。それだけでも危険性は薄まると考えています。

 安保法案に反対を表明して活動している団体がいくつかあるので、紹介しておきます。

安全保障関連法案に反対する学者の会

 学者の会なので、一番参考になるかもしれません。

SEALDs

 学生による活動団体なので、安直に「戦争反対!」と訴えているのかと思いきや、見てみると論理的な深い考察をしていて、フィーリングで反対している訳ではない事が分かります。偏見は除いた方がいいです。

安保関連法案に反対するママの会

 団体の(論理的な)考えみたいなのが記載されていないので、印象としては「戦争法案反対!」と叫んでいるだけにも見えるような…(^^;) 「こういう理由で法案に反対」という団体の考えは記載しておいた方がいいかも。署名を募っています。

 あと、ホームページはありませんが、ご高齢の方々による「OLDs」という団体も東京巣鴨で活動されているようです。

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