【創作小説】猫に飼われたヒト 第28回 授業を終えて
「初授業はどうだった?」
小学校の廊下。初授業を終えほっと胸を撫で下ろすアドに、レックスが尋ねた。
アドは苦笑いをした。
「途中、アクシデントが起きてしまってどうなるかと思いましたけど…先生がカバーをしてくれて助かりました」
「ああ…あれは予想外だった。すまなかった。せっかく教案通りにいっていたのにな」
「いえ!それはまあ、そうですけど…」
「だが、授業が必ずしも教案通りに行くわけではない。むしろ教案通りに行かないことがほとんどだ。そんな時にどう授業を運んでいくか。今回はその良い練習になったとも言えるな」
アドは笑顔で尋ねた。
「先生、私の授業はどうでしたか」
「うん?良かったんじゃないか?君の表情を見ても、そうだと思えるが」
「…えへへっ。ありがとうございます!レオくんも、ありがとうね!」
レオもにっこりと笑った。
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後日。レックスの研究室にて。
「アド、教育実習はどうだったの」
フォンスが尋ねる。
「もう、ほんっとうに楽しかった!子猫たちは可愛いし、元気いっぱいだし、素直だし…心が洗われたよ〜」
「へえ」
「それにね!」
アドがリュックからガサガサと取り出す。
「これ!最終日にもらったみんなからの寄せ書き!嬉しくてもらった時は泣いちゃったよ!みんな人間のことについても、少し考えが変わったみたいで、授業の甲斐があったなって!もう私絶対先生になる!」
「ふうん」
「はは、アドは子猫に好かれるんだな。先生に向いてるよ」
レックスが作業をしながら言った。
「えっ!本当ですか!」
フォンスが文句を言う。
「先生。アドを甘やかしすぎですよ」
「そうか?素晴らしい授業だったが。フォンスにも見せてやりたかったな」
「そうだよ!なかなか私、先生してたんだから!レオくんも良い仕事してましたよね!先生っ!」
「…待て。レオくんって誰だよ」
「あ」アドが慌てて口を塞ぐ。
「……」部屋に流れる沈黙。
「ちょ、おい、レオくんて誰なんすか先生!」
レックスは諦めたように息を吐いた。
「…まあ、フォンスならいいか…」
レックスの研究室の扉が開く音。
「レックス。こちらの本も一通り読み漁ったみたいで寝てしまったぞ。にしても重いな……あ」
部屋に入ってきたグッダが背負っているのは眠ったレオ。
「は……人間?!」
「そう。この子がレオくん。先生が研究所から特別に出して、言葉を覚えさせる特別実験をしているんだって」
「ああ。レオに正しい教育を行い、人間が脅威でないことを世に示すためにな…」
「な、なるほど…」
そこでグッダが何かを思いついた。
「そうだレックス」
「ん?」
「この2匹にレオのお守りをしてもらうのはどうだ。お互い仕事もあるし、2匹の空き時間にでも少し相手をしてもらうだけで随分助かる」
「確かに…そうだな。アド、フォンス、気が向いたらレオの相手に来てくれるか。レオも喜ぶ」
「もっちろん!いつでも暇じゃなくても来ますよ!ね!」
「いや、俺はそうとは言ってな…」
「いーからいーから!先生!私たちに任せてください!」
「ありがとう。助かるよ」
フォンスは戸惑いつつもレオを優しく覗き込んだ。
「…アド。声がでかいぞ。こいつが起きちまう」
「あ…そっか。ふふ、可愛い寝顔〜」
レオはグッダの背中でぐぅぐぅと気持ちよさそうに眠っていた。
レックスの机の後ろの壁で、あの子にもらった絵の中のレオと猫たちが楽しそうに笑っていた。
次回に続く
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