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【創作小説】猫に飼われたヒト 第27回 気づき
騒めく教室の後ろで、レックスが静かに手を挙げた。
「アド先生、質問です。人間の言葉は、全部悪い言葉なんですか?」
その言葉にアドはハッと気がついた。
「…そうだ…みんな聞いて!今レオくんが言ったみたいに、人間が言葉を話したからといって、争いを起こすわけじゃないの!みんな、黒板を見て」
アドは黒板の中央に線を引いた。
「左側の言葉と、右側の言葉。違いがあるんだけど分かる猫はいるかな?」
「…言われて嫌な言葉」人間の絵を書いていた女の子が発言した。
アドは頷いた。
「そうだね。私たちが言われて嫌な言葉。これは、人間にも与えちゃいけないの。こうやって人間は人間を傷つけ、争いあってきたんだ。もっともっと、規模が大きくなった時の話だけどね。でも、こう言う小さな悪い言葉から、気をつけていかなくちゃならないんだ。人間は言葉を話したから争いあったんじゃなくって、左側と右側、この選択を間違ったから争い合って、絶滅しちゃったんだ。だからみんなも、どっちの言葉を使うのか、よく考えてみようね」
アドの言葉に、生徒たちは真剣に耳を傾けていた。
「それじゃあ、この紙に今日の授業の感想を書いてください。書いたら提出してね」
感想用紙を回収しアドがそれを読んでいると、みんなの人間に対する意見の変化に気づいた。
「人間を初めて見たけど、そんなに怖い感じがしなかった」
「もっと人間と話してみたい」
「悪い言葉は話さないようにしたい」
そして、あの絵を描いた女の子の様子を見に行くと、何やら絵を描いているようだった。
それは、レオと自分とアドが手を繋いでいる絵だった。
アドが優しく話しかける。
「これ…私とレオくんを描いてくれたの?」
女の子は恥ずかしそうに頷いた。
「あ…うん」
「これ、レオくんに見せてもいい?」
「…うん。いいよ」
「ありがとう」
そう言ってレオに見せに行くアド。
「これ、レオくんと私。描いてくれたの」
レオはキラキラと瞳を輝かせた。
レックスが隣で微笑む。
「レオ、よかったな」
レオは頷いた。
その様子を見て、女の子も笑顔になった。
「…それじゃあ、今日の授業はこれで終わります。みんな、よく聞いてくれてありがとう。それじゃあ、起立!礼!ありがとうございました!」
アドの挨拶でレックスがレオを連れて教室を出て行こうとした時。
女の子がレックスたちに近づいていった。
「これ」
「ん?なんだい?」
「レオにあげる」
「なんと」
女の子は先程の絵を差し出した。
「レオ」
レオはその絵を受け取り、そして笑顔になって言った。
「ありがとう」
教室が騒然とした。人間の笑顔。ざわめきが聞こえた。
女の子がレオに手を振った。
「バイバイ」
すると、教室の子猫たちも次々に手を振った。
「バイバイ」「バイバイ」
レオも真似をした。
「バイバイ」
アドはにっこりと微笑んだ。
次回に続く
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