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あの空の向こう側



※盛大なるフィクションです




うわ!まっぶし!!

こんなに取材来てんの!?
やべぇーーー俺マジ売れたわ!

ていうか、相手が有名女優だもんな、そりゃこんだけの規模にもなるか…



よくワイドショーとかで観てたけど、あれフラッシュの光もエギぃけど、シャッター一斉に押す音もハンパねぇんだな。


あの娘をこんなとこに立たせる訳に行かねぇし、芸人の俺がうまく立ち回って何とか収めるしかねぇんだよな。


シーフードパイセンに離婚記者会見の極意を訊いたけど、あの人振り切ってっから参考になんなかったしw



脇元さん、くれぐれも打ち合わせした事以外は言わないように、元奥さんの事もあるから細心の注意を払ってくれよ…だって。

バグちかじゃねぇんだから、ちゃんとやるってw


でも、そりゃそうだよな。

あの娘はこれからも女優としてもっと活躍していくんだし、俺のせいでかきあげ系女子のトレードマークの髪、バッサリいっちまったんだもんな。

そのおかげか、ドラマで絵描きの卵の良い役、回ってきたみたいだから、結果オーライだけどさ。




目の前で無数に瞬く人工的な光と、思い思いに好き勝手なことを喚き散らす口。

この賑やかなフロアは、クラブでもパーティでもなく、俺の懺悔のための場所なんだな…と半ば他人事みたいに俯瞰で眺めていた。


髭も剃ったしネイルもオフったし、お気にのタクヤパイセンとおソロのリングも外してきた。

深刻な面持ちで反省してますって態度で、黒いスーツを纏って少し俯いて立っていたら、自分の爪先に目が行った。


ああ…この革靴…

これかねちと雑誌のBL風撮影した時に履いて、カッコよかったからかねちにも勧めて一緒に買取りしたヤツだ。

NIKEやRED WINGを履き慣れてるから、なんかしっくり来ないけど、あの撮影は超楽しかったな。

かねちはめっちゃ照れてたけど、これやりきったらファンが喜ぶだろ?って言ったら一生懸命頑張ってた。

アイツのそういうとこ、大好きなんだ。



「一説では、りんたろーさんの女遊びが絶えなくて、奥様が精神的に追い詰められていた、と言われていますが!?」

「りんたろーさんとりん子さんという二面性に奥様が耐え切れなくなった、と一部報道がありますが!?」

「このような不甲斐ない結果になって、相方の兼近さんはどのように思われているんでしょうね!?」




そうだ、かねち…


婚姻届の証人をかねちにお願いしたら、自分ちの住所の漢字が分からなかったけど、俺らの目の前で調べるのも恥ずかしくて、電話掛かって来たフリをして部屋から出てったんだって。

それを後から聞いた時はやべぇコイツ!と思って相当笑ったぜ。

「このタワマンももうすぐ俺独りになるし、りんたろーさんもちゃんと家庭に納まって、イイ事ばっかでなんも言う事ないっス!」

と言って、顔じゅう皺くちゃにして笑ってたかねち。


M-1でも優勝出来て、「コイツだ!」と思ってたオンナと所帯を持って…マジで何もかも上手くいってた。

はずだったのに。



かねちが、どっか行っちまった。



いずれ海外に行って色んな人を笑わせてぇって言ってたけど、何だかんだ言って俺と居ることを選んでくれてたし、一緒に夢に向かってがむしゃらに突き進んできた。

そして、それはこれからもずっと続くものだと勝手に思ってた。



一つの目標は達成したけど、これからまだまだかねちとやりたい事いっぱいあるんだ。

かねちとしか見れねぇ夢、いっぱいあるんだよ。



それが何か?

一つの賞レースでテッペン獲ったからって、俺が結婚したからって、もう俺たち関係なくなるってのか?

俺らの絆って、そんなモンじゃねぇって信じてたのに。



「求められたらどこにでも行く」



って言ってたけど、せめてどこの国に行くかくらいは教えといてくれよ。




急に居なくなるなよ。




俺を置いていくなよ…







「えぇっと、あの、すみません、、、り、りんたろーさん、、、?」

とインタビュアーが少し戸惑いながらマイクを突き出した。

更に激しく焚かれるフラッシュで目の裏までチカチカしやがる…と思っていたら、いつの間にか両頬が濡れているのが分かった。




あれ?



俺、泣いてんのか?





「りんちゃんは私を見ていないもの。いつだって兼近くんのことばっかり求めてる」

ってあの娘に言われた時、

「そりゃ漫才コンビの相方なんだから大切に思って当たり前だろ…」

って反論したけど。



「かねちと出来ないことをギャルとしてる」

って何かで言ってたの、見られたのかな…ってヒヤヒヤした。

でも、どうやらそれだけでこの婚姻関係が終わるってこともないみたいだ。



「僕の気持ちがフラフラして、彼女の事を大切に出来なかったせいです。全て僕の方に非があります。彼女を傷つけてしまって本当に申し訳なく思っています」

ポーズで神妙にするつもりが、ガチで号泣謝罪会見みたいになっちまった。


チャラ男だけど実は真面目で良い人、が浸透してきてるのもあって、記者さんの中には俺と一緒に泣いてくれてる人も居たわ。


ありがとな。

でも、俺マジでダメなやつなんだ。





俺、かねちが居ねぇとダメなんだ。





脇元さん…

悪いけど、この会見終わったら航空券手配してくれねぇかな。




【 END 】




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