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昔のレコード、反ったらどうする

昔のレコード、ここで言う昔のレコードとは明治大正から昭和30年代まで存在していたSPレコード・SP盤と呼ばれるものです。海外では78rpmとも呼ばれます。
このレコードの原料はシェラックを主原料とし、そのほかカーボンやとの粉や長石や松脂などなど様々な材料が絶妙な職人技で配合されたもので出来ています。後に登場し現代まで使用されているLPレコードは俗にヴァイナルと言われるように素材は塩化ビニールで出来ていて、SPレコードを触ったことが無ければちょっとイメージしにくいかもしれませんね。

塩化ビニールのLP盤またはEP盤を天日にさらしたりするとどうなるでしょうか?そんな恐ろしいことは意図的にしたことは無いのですが、子供の頃に友達の家の庭で皆が集まりポータブルのプレイヤーでアニメのEPを掛けていたら一瞬でワカメのように波打ってしまいました。子供心にも衝撃的で今でも目に焼き付いています。
そう言うわけで、ビニール盤は熱に弱い。しかもSP盤と比べて溝の深さも太さも繊細で復元する事がなかなか難しい物です。また、LPレコードを寝かせて積み上げて保管するとレーベル部分の紙の厚みでお椀状に反ってしまう事もあります。
この程度の反りを直すためのツールが発売されていますが、じっくりと慎重に温度を掛けてプレス機にサンドして直すタイプ。実に根気が要ります。

さて、本題のSPレコードに話を戻しましょう。
このレコードのプレス製法には2種類ありまして、ひとつは材料をそのままプレスするもの。もう一つは主材の上下に上質の素材を薄く乗せた紙をサンドした、所謂ラミネート盤です。
ラミネート盤の特徴は紙を挟むことにより割れにくくすると言う事。そして音に影響する部分への材料の質的向上と節約になると言う事。ただ、個人的な経験としてはラミネート盤だから割れないとも言えないし、紙芯入りだとむしろ共鳴してゴロノイズが出やすい欠点も見受けられます。そして、このラミネート盤が反りには厄介なことを後程ご説明しましょう。

このSP盤は熱に大変弱い物です。前述のビニール盤も弱いですがこれまた弱い物です。このレコードを縦に保存しておくともたれ掛かるように反ってしまいます。必ず寝かして保存する必要があります。
反り方としては箱の中に隙間があって上記のようにもたれ掛かった状態の反りや、段ボールのように底が補強されていない状態で積み上げておいた場合のお椀状の反りなどが多く見受けられます。
LPレコードでこれらの状態になってしまったら直すのがとても大変か不可能な場合が多いですね。
ところがSPレコードの場合はローテクな事が幸いして反りを直すことが出来ます。

ここからまずは準備に入ります。SPレコードの反りを直すのに必須のアイテムとしてガラス板2枚を用意します。
ホームセンターに行って30センチ四方にガラスを切ってもらい、ケガをしない様に面取りもしてもらいましょう。またオーディオボードや適当な家具のガラスの扉を見付けてくるのも手です。元々面取りしてあるので安全です。

最初はA作戦。
これはズボンプレッサーを使用します。できれば中古品など安い物を調達しストッパーなどは外す加工をします。そしてここにレコードを適宜並べて加熱します。加熱が終わると持てないぐらいにかなり熱くなってくにゃくにゃになります。それを事前に準備して置いたガラス板2枚でサンドします。流れ作業的にどんどん過熱してはレコードを積み上げてサンドします。どんどんと言ってもせいぜい10枚か20枚が限度ではないでしょうか。経験であまりたくさん積むと前述のLPレコードを積み上げた場合のようにレーベルの紙の部分の厚さ分だけお椀のように反ってしまいます。
室内で時間を気にしなくて出来るのが利点のズボンプレッサーですが、冬場はなかなか理想的な温度に加熱されない場合もあるので注意が必要です。二度加温するなど工夫が必要だと思います。

次はB作戦。
これはマイカーを持っている人しか使えない作戦です。まず雲一つない晴天でGWから秋分の日頃を狙いましょう。反ったレコードと2枚のガラス板をクルマに積み込み見通しのよい駐車場へ行きます。もちろん自分の庭やガレージでも大丈夫です。
そして、時間としては午前中から正午過ぎぐらいにダッシュボードにガラス板に挟んだ反ったレコードを放置しておくのです。どのぐらいの時間がよいかは季節にもよりますが、真夏ならだいたい1時間ぐらいでしょうか。
僕はスーパーの駐車場に置いておいて、ゆっくりと夕食の材料を買ったりする程度の感じで戻ると良いころ合いだなと思い、そのパターンが多いです。
クルマのダッシュボードにもいろいろあって、平たんではなく傾いていてレコードなど置いておけない場合は段ボール箱などを利用して助手席などにかさ上げしたりなどの工夫をして置いてみましょう。

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最後はC作戦。
いわば「レコードの甲羅干し」と呼ぶものです。
これは季節的には梅雨明けから8月いっぱいが限度でしょうか、とても暑い日、それも出来れば無風の日が良いです。表に出ると命の危険さえ感じるほど熱い日が最適です。時間はやはり正午前から正午過ぎでしょうね。
この日を選んでガラス板と反ったレコードを抱えて野外に出ましょう。場所はコンクリートか古くなって脂気が抜けたようなアスファルトが敷いて居ある所が望ましいですね。
まず地面に手を置いてみましょう。触っていられないほど熱くなっていればしめた物。最初にガラス板を地面に置き温めておきます。次に持参した反ったレコードを一枚一枚地面に敷き詰めてゆきます。傷がつかないようにそっと丁寧に並べてゆきます。
レコードにもよりますが、例えば旧吹込みの物やソリッドレコード、特に昭和13年以降から終戦直後までの合成シェラックで出来ているレコードなどは、30枚程度並べ終わって最初のレコードを触ってみるともう「くてんくてん」「くにゃくにゃ」「どろどろ」といったある意味楽しい状態になっています。
今度はこの溶けかかったレコードを一枚一枚回収してガラス板の上に載せてゆきます。ここで一枚づつ様子を見て充分加熱がなされていない物は後回しにしましょう。

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何れの方法もガラス板の上に積み上げたらしばらく放置すると言う事です。
ここで、気を付けたいのはいきなりエアコンの効いた部屋に持ち込まない事。野外の日陰や玄関先などそれなりに外気との差がない場所に置き、寝る前ぐらいに回収しましょう。急激に冷ますとひび割れてしまう場合があります。

そして、これは「反りが直る」と言う事実だけであって、加熱することによって再生音についてどう変化があるかは実際のところ責任は持てません。加熱する方法は良くないので夏場に締め切った部屋に放置して積んでおくだけにした方がよいと言う人も居ます。オーディオのアンプの上に積み上げてほのかな熱で半年がかりで平らにする人も居ます。どれも「加熱して反りを直す」と言う事に変わりが無いのですが、自分のライフワークに合った方法、性格に合った方法(ズボンプレッサーでの冬場の作業は失敗する事もあるので夏場まで待つか、待てないからこそズボンプレッサー使うかなどなど)でチャレンジしてみましょう。




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