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(ことばよりみち)ハラジ語は楽しみにしている

「ハラジ語という言葉があってだな...」と唐突に言っても「あああれね」と反応できる人はあまりいません。

そのため、私としては絶望的に知名度がテュルク系の言葉の中で低いのではないかと思っているのですが、なぜか日本ではハラジ語のBotがあったりと一部でコアな人気を獲得しているようです。

ハラジ語と語族

ハラジ語はイランでしゃべられている言語の一つです。前述したようにテュルク系の言語で、トルコ語やアゼルバイジャン語、ウイグル語の親戚の一つだと思っていただければよろしいのではないでしょうか。

まず紋切り型のお話になりますが、語族について話します。他の記事でもたびたび取り上げていますが、トルコ語やアゼルバイジャン語、ウイグル語のような仲間関係にある言語を大きく一括りにしたものを「語族」と言います。「家族」という言葉がありますが、それの言語バージョンと考えてください。

ただし、家族というよりは「一族」というニュアンスに近いです。なので、現代では違う言語扱いであっても大昔に元となる一つの言語があって、そこから現代のいろいろな言語に枝分かれしたことが前提になっています。前述した言語の家族名は「テュルク語族」となります。そこから発展し、独自の特徴を持つに至った下位の言語の集まりを「語群」と呼びます。

本当はオグズ祖語とか間にいろいろ他にもあるのですが、今回はざっくりと下記の図を作成しました:

スクリーンショット 2021-10-05 22.26.57

上記の図はスウェーデンを代表するテュルク語学者のラーシュ・ヨハンソン(Lars Johanson)の分類を粗くしたものを図にしています(1)。時代遅れであれば申し訳ない。

ところで、論文でラーシュ氏のお名前は知っていましたが、下記のリンクで今回ご尊顔を初めて見ました。写真を探せば出てくるインターネットも恐ろしいですね。アルタイ諸語研究の重鎮ニコラス・ポッぺ氏と一緒に写っている写真が拝見できるのも重要です。

さてさて、トルコ語やアゼルバイジャン語はオグズ語群に属しています。実は冒頭でこれらの言語はハラジ語の親戚と書きましたが、上記の図でハラジ語はどれに属すのでしょうか。

実をいうとイランの国旗のところの「アルグ語」に属します。語群ではないのはアルグ語に属する言葉ばハラジ語しかないからです。従って、オグズ語群に属すトルコ語+アゼルバイジャン語とアルグ語のハラジ語というのは少し異なる関係にあります。同じテュルク語族に属しているものの、国がお隣とはいえハラジ語は少し遠い親戚にあたる、というのが上記の分類です。

ハラジ語を聴いてみる

実際のハラジ語(と思われる言語)を聞いてみましょう。個人の写真を探してみると出てきてしまうことがインターネットの恐ろしい点でもありますが、このようなインターネットや動画共有サイトの発展は素晴らしいものですね。

私も生のハラジ語は初めてなのでわかりません。ですが、他のテュルク語の知識で聞き取れるところもありますね。例えば先生のミルザさんが学校へのしのし歩いてくると、子供たちが一斉に次のように叫んでいるように聞こえます:

Mirza käldi!Mirza käldi! (ミルザが来た!ミルザが来た!)

系統が若干違うとはいえ、この「来た」という単語はトルコ語やトルクメン語の"gelmek"やクリミアのタタール語の"kelmek"という単語を彷彿とさせます。

このような部分だけ見ると、ハラジ語は記録されたテキストを見ると幾分か近隣のテュルク系の言語に似ている気がします。

ハラジ語の特徴

ですが、いろいろな特徴から他のテュルク系言語とは異なる系統に属するとされています。

ヨハンソンによれば、各テュルク系言語の「足」という単語は"adaq"や"ayaq"のようになりますが、ハラジ語だけは"hadaq"のように語頭に"h"が残っています(2)。また、ゲルハルト・ドルファー(Gerhard Doerfer)のハラジ語の民話集なんかを見ると"häv(家)"のような単語も出てきて、これも"h"が語頭に残留した単語の一例と私は見ています。トルコ語なら"ev"ですね。

また、格接尾辞の形も古風のように見えます。このような形の古さは例えばシベリア語群に属する「古ウイグル語」に部分的に通じるところもあり、オグズ的な感じではありません。古ウイグル語に関してはAnnemarieの本を参考にしていますので、ご興味ある方は参照の(2)の本をご参照ください。

さて、例えば「与格」。トルコ語なら"Türkiye-ye(トルコ)"のように"-yA" や"-A"のように、単語に母音あるいはy+母音をくっつけて移動する方向を表しますが、ハラジ語は"täǧqa(山へ)"のように単語に"-qa"であったりします。子音との関係で"q"だったり"k"だったりするようです。

また移動のスタート地点を表す「〜から」という格も"Xurxurda(フルフルから)"のように"-dA"という形になります。これはトルコ語やアゼルバイジャン語が"-dAn"のような形を使っていることと対照的です。

ただし、ハラジ語は共生しているペルシャ語やイランのアゼルバイジャン語から夥しい影響を受けているとされます(3)。ドルファーの民話集を見てもペルシャ語からの借用語だらけだったり、アゼルバイジャン語と同様に引用に対して"ki"を頻繁に使っています。

また、一部の単語が徐々にアゼルバイジャン語に引きずられて、アゼルバイジャン語の単語に置き換えられてしまうというような現象も確認されています(3)。例えば民話集では次のような言葉が記録されています:

haydï "man bilmäm" (彼は言った「俺の知ったことじゃない」)

このように「言う」という動詞には"hay-"が使われています。これが近接のテュルク系言語の影響を受けて"di-"になってしまったりするそうです。また前述した「与格」も"-qa"ではなく、母音の"-a"だけをつけるようになったりすることもアゼルバイジャン語の影響が新しい方言形成を導く要因になっているとBosnelıによって報告されています(4)。

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ハラジ語をしゃべる人たちはイランのゴムの県境に密集して暮らしているようです。なので、ペルシャ語をある程度理解できれば、イランに行った時ハラジ人の村に遊びに行くこともできるような気がしてきます。

コロナ禍後のハラジ語は楽しみにしています。

#とは

引用

(1)pp.82 Johanson, Lars "History of Turkic", "The Turkic Languages", Routledge, 1998

(2)pp.83 Johanson, Lars "History of Turkic", "The Turkic Languages", Routledge, 1998

(3)pp.280-281, Bosnalı,Sonel "The Khalaj People and Their Language", Tehlikedeki Türk Dilleri II: Örnek Çalışmalar, 2016 https://www.academia.edu/35665166/The_Khalaj_People_and_Their_Language

(4)〃

参考

(1)Doerfer, Gerhard&Tezcan, Semih "Folklore-Texte der Chaladsch", Harrassowitz Verlag, 1994

(2)Von Gabain, Annemarie, "Alttürkische Grammatik, mit Bibliographie, Lesestücken und Wörterverzeichnis, auch Neutürkisch", Harrassowitz Verlag, 1950

ゴム市の写真

(1)ID 168912424 © Hakan Can Yalcin | Dreamstime.com
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