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かつて我が家にもいた、次男のイマジナリーフレンド「しそー」のこと

夫が突然

「妻ちゃん、あなたは『屋根裏のラジャー』を観たほうがいい」

と言う。わたしは(大きな声では言いにくいが)アニメ映画が好きではない。ジブリもディズニーも、コナンも、鬼滅も、子どもたちを連れて行って映画館で観たりはするけれども、個人的にはわざわざ映画館に行き、お金を払ってまで観たいとは全く思わない。

しいて言えば『トトロ』や『ニモ』など、非人間がメインのお話は比較的好き。『ラピュタ』『ハウル』『ラプンツェル』みたいなのは、嫌いというか、視界に・候補に入ってこない。存在を認識できない。つまり興味がない。
ここ15年ほど、たまたま我が家に男児が2人と女児が1人いたために、40歳を超えてようやくアニメ映画をひととおり観たという非国民?だ。

よって『屋根裏のラジャー』と言われても、「えーアニメー?めんどくさーい」という気持ちがやはり先行する。

「めんどくさそう」な空気を察した夫は重ねて言う

ラジャーは「しそー」の話だと思う

なんだって?

だから、「しそー」の話だと思う

!!!
なんと、懐かしいフレーズ「しそー」。

「しそー」とは我が家でしか通じない隠語のひとつで、かつて我が家にいた次男のイマジナリーフレンドのことを指す。とはいえ夫はリアルタイムでの「しそー」は知らない。なぜなら我が家はステップファミリーで、夫と長男・次男が一緒に生活をするようになったころには、「しそー」はすでにいなくなっていた。
「しそー」がいなくなってしばらく経ってから、酔っぱらって夫に「しそー」の存在を熱弁したのを、夫が覚えていてくれたのだ。

次男が「しそー」とやり取りを始めたのは、たぶん次男3歳の後半頃だったと思う。ある時、次男と何かを買う約束をした際に私が

じゃあ、あした、かいものにいこうか

と言うと、次男が

あ、あしたはだめ。『しそー』とやくそくがあるから


と答えた。


「なに?? しそー?」と私。
「うん、そう。しそー」と次男。

よくわからないですが、最初のうちは幼稚園のお友だちと「あしたあそぼうね」みたいな、ありがちな約束でもしたのかなと思っていた。でも、その後頻繁に会話に「しそー」が登場するようになり、晩ごはんで外食している時なんかも

ママ、そろそろかえらないと、『しそー』がくるかもしれないから

など言うようになり、当時6歳くらいだった長男が「しそーってだれ?」と反応するし、じいじも「なんだ、こんな夜に約束があるのか」と言い出すしで、いよいよ家族も巻き込んで「しそー」って誰なんだ?となってきた。

そしてこのあたりで、ようやくわたしは思い当たった。「しそー」とはもしかすると、いわゆる【空想のお友だち(イマジナリーフレンド)】ではなかろうかと。かつて会社を経営していた時に、スタッフさんからお子さんに空想のお友だちがいるという話を聞いていたので、何となく存在をしっていたのだ。

そこで次男に

しそーっておともだちなの?

と聞くと

ちがうよ。

と。
あれ違ったか?

しそーは、しそーにきまっているでしょ、ママ。

うーん、難しいぞ、しそー。さらに聞いてみる。

しそーは、どうぶつ?なのかな。いぬとかねことか。

にんげんだよ(怒)

なーんだ、じゃあ、やっぱり【空想のお友だち】じゃん。

そっか。にんげんなんだ。おとこのこ?おんなのこ?

すると意外な答えが返ってきた。

しそーは、おじいさんだよ。
しろいふくをきている。

…………。こっわ。

【空想のお友だち】じゃなく、見える系の、そっち系の話だったのか。

たしかに我が家は長男も5歳くらいまで、なにかそっち系が見えていたようで、夜中に「ねえママ、あの洗濯物のところにいる小さいおじさんはだれ?」とか、ベランダのない高いオフィスビルの外壁を指さし「ママ見て!あの女の人どうやって歩いているんだろう。すごいねえ。あしが壁にくっついているのかな」とか言ったりして(私には人など見えない)、しょっちゅうゾワゾワさせられていた。

次男もそっちだったかー。と慄いていると、次男が言う

しそーは、くろいベルトもしている。いろいろおしえてくれる。いっしょにあそんだりする。

あっち系のあれって、一緒に遊べるの?『めっきらもっきら どおん どん』みたいな?

その後も次男はしょっちゅう「しそー」の話をしていたが、ある日、長男が次男に

おまえ、きょう「しそー」の日っていってたじゃん。いかなくていいのか?

と話しているのが聞こえてきた。長男に「まさかあなたにも『しそー』が見えるのか」と聞くと、そうではないらしく。そして長男はこう続けた

ママ「しそー」は、とうめいなひと(※霊だと思う)じゃないよ。おれは「しそー」にはあえないけど、たぶん「からて」のおじいちゃんだよ。

からて、からて……空手??の、こと??
空手???

あ!!!!白い服に黒ベルト!!!!空手ーーー!!!!

と、いうことは。

ね、ねえ、次男くん
「しそー」ってまさか、「師匠(ししょう)」なの???

そうだよ。そういったじゃん

というやり取りを経て
次男のイマジナリーフレンドは、推定70歳の空手か何かの「師匠」であることがわかったのでした。いや、たぶん、ですが。

以降、しばらく「しそー」改め「師匠」は次男の元に訪れ、話を聞いてくれたり何かを教えてくれていたようですが、いつのまにか…、わたしの記憶では5歳の誕生日を迎えたころにはもう、次男は「しそー」とは言わなくなっていました。

先日、11歳になった次男に

ねえ、しそーって覚えている?


たずねると

え?なにそれ?w

と鼻で笑われましたが、隣で長男(中3)は「なつー。しそー!!おまえ、しそーまだいるのか」と大笑い。「ねー、懐かしいよね。しそー、いつも家にいたよねー」と私と長男は盛り上がるのですが、それでも当の次男は「はあ?」という顔をするばかり。

次男の記憶に「しそー」はいないようです。

次男とたくさん遊んでいただいたのに、師匠にはご挨拶もできていないですし、もしかすると師匠も出演しているかもしれないので、お母さんひとりで『屋根裏のラジャー』見てこようかなと思っています。


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