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7、戦前日本の安定的な出生率の要因

ではなぜ大正から昭和にかけて人々は苦しい生活を強いられていたにも関わらず出生数は非常に安定的だったのか。それは多産の文化が残っていたということもあるが明治時代から生まれた家父長制度によるものの力が大きいと思っている。家父長制度とは家族の統率権が家長である父親に集中している形態のことで明治民法によって保障されていた。この制度はまず子供の意思決定の自由を抑制し父親である家長がある程度方針を決められる。

これが最も人口を分析するにあたって重要な理由は、夫婦の家族同士の意向で整う見合い結婚によって高い結婚率を誇っていたからだ。当時の結婚率が皆婚とよばれるほどの高い結婚率だったのはこのためであり、自らの生活を鑑みて結婚するか否かを選択する自由が制限されていた。当時の女性は嫁ぐことが人生において幸福をもたらすという価値観や、結婚して子供を産むのは当たり前であるという考えが強かったため多く成立した夫婦の間で多くの子供が産まれた。これが安定した出生数を保っていた理由と考えられる。

一つの家庭に多くの子供が産まれたもう一つの理由として兄弟間の不平等性があると思う。私の祖母もたくさんの兄弟がいたが戦前は長男に家督を譲るという長子相続の慣習が強かった。長男は比較的両親から手塩にかけて育てられ下の子供たちは長男ほど面倒を見てもらえなかった。徴兵制において家督を引き継ぐ長男は兵役を免除されたが次男、三男は徴兵されたのがいい例である。そのため両親が子供に対し費やす時間、労力の偏りがあるため今の私たちが想像するほど負担が大きくはなかった可能性がある。しかし現代では産まれた子供たちに対して平等に接しなければいけないという価値観が常識になり、両親は子育てに優先順位をつけることができなくなっていることも子育ての負担増加に繋がっているのかもしれない。

戦後もこの制度の名残があり1965年で丁度見合い結婚と恋愛結婚の比率が同じになっている。現代の私たちは自らの意思で自由に恋愛し結婚することができるが明治時代以前の江戸時代も同じような状態であった。当事者以外の意思が介入する見合い結婚や政略結婚は政治権力をふるう武家などの一握りの上流階級が行う風習であり、それ以外の人間は自由に恋愛し結婚していたという。加えて江戸幕府は列強という脅威に一丸となって対抗するため組織した明治政府とは異なり各地を支配する大名の代表でしかないため、個人という最小単位にまで影響を及ぼす政策を全国的に行うことは不可能であったことも起因している。明治政府は裏に富国強兵の意図があったのか一部の人間だけが行っていた風習を日本国民全員に適用することで人口増加を狙っていたのかもしれない。これでわかることは人々が合理的に将来を設計するためには一定の自由が前提にあるということだ。

家父長制度でもう一つ重要な点は夫が外で経済活動に従事しお金を稼ぐ、妻は家で子育てなどの家事に専念するというような分業体制を構築した点である。しかし日本でも特に太平洋戦争は国のあらゆる物資、人的資源を総動員する総力戦の様相を呈していたので戦争で出払った男性を補填する役目を女性に負わせた。富岡製糸場で糸をつむぐ女性労働者の写真は教科書にも掲載されていた記憶があるがこのように戦争は女性の社会進出に一役買ったのだ。社会学者の橋爪大三郎氏によると高度成長期に女性の専業主婦が増え、70年代に入ると女性の社会進出が始まったという。

このような夫婦の分業体制は男女差別として批判の対象となるが私はそうは思っていない。確かに女性を家に縛り付け社会との関係を切り離すことによる精神的負荷も存在するだろう。男性である私の主観だがレストランなどで女性たちが和気あいあいと談笑している光景を見ても女性は人と喋るのが好きであると感じられ家に縛り付けるのは酷であるのは理解できる。しかしこの分業は男性が公的な生産領域で生産し、女性は家で男性の労働力を再生産するという高い合理性と生産性が認められておりそこに差別の意図が介在する余地はなく、夫婦の分業体制が男女差別であるとして批判されるべきではない。女性の社会進出をメディアや政府は推奨しているがあくまで夫婦や女性の裁量にゆだねられるべきであり、男性である私の主観で女性は会話好きであり社交的だと述べたがもちろんそうではない女性も存在する。そのためメディアや政府が広めた女性の社会進出を促す社会の論調は私自身あまり好まない。好まない理由はもう一つある。それは女性の権利拡充などはあくまで建前で本音は少子高齢化による労働力減少を女性で補填したいのだ。それでも足りない場合政府は定年を延長しまだ働ける高齢者も労働市場へ参入を促すことや2018年の入管法改正を行い移民の規制を緩くするのである。

女性の専業主婦化は高度成長期に目立ち、女性の社会進出が目立ったのは70年代であるという事実は社会が成長期を終え成熟し経済は停滞すると男性の所得も比例して停滞し、男性の稼ぎだけでは生活が厳しくなったことを意味している。

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今年の3月、4月にコロナ禍真っ只中で暇なテルが書いた人口問題に関する論文じみた文章です。人口や少子化という概念を歴史的に分析し、主に人口と…

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