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YCAMのサウンドインスタレーションとAIが学習できないコミュニケーションとは

岡山芸術交流は二日は必要かなと思っていたけれど半日で十分だった。アピチャッポンの映画をもっと見たいと思うけど、あれは週替わりなので二日続けて滞在しても意味はない。ただ、他にもとても長い映像作品があったから、あれらを全て見るとなると一週間くらいの滞在は必要なのかもしれない。

岡山が暗くなる頃、天満屋の片山真里を見てから新山口に移動した。そこから湯田温泉まで移動する。まだ、20時前だというのに駅前は寂しかった。温泉街の中心地に近づくにつれて賑やかさが出てくる。飲み屋的なお店と温泉宿(といってもコンクリート製のビルな建築ばかり)が現れる。実際のところ21時あたりでラストオーダーだったので、飲食店の賑わいを外から眺めるほかなかった。

朝からYCAMに入る。

Licaxxx のサウンドアート《理性と情動 '22 YCAM編》を体験したかった。
サウンドインスタレーションは中庭に設置されていて、中庭に入る前から低音には気がつくけれど、やはり庭に入った方が、より音は強くなる。
中庭には細いけれど背の高い木がいくつか等間隔にあり、レースカーテンのようなものがかけられている。スピーカーが複数設置されていて、カメラも設置されている。時間帯、カメラからのフィードバック、天候などにより、リアルタイムで音を作るという。

ジャングルの中のような音がする。猿か、鳥の鳴き声のような。

部屋(中庭)に入ってから気がついたのだけど、清掃中だった。中庭の木から落ちた葉を掃いている。そして、もうすぐ落ちそうな葉を、木を揺らして落としていた。仕事を一度に片付ける工夫なのでしょう。

そうした動作からか、少し荒ぶる音、地響きのような音が聞こえてきた。BGM とも少し違った音の生成、フィードバック系はどのような仕組みになっているのだろうか。こんなところが、エンジニアが純粋にアートを楽しめないところだと思う。ただ、そうした動きにすぐさま反応したら、それは単なるユーザー・インタフェースになってしまう。

しばらくすると、工事現場でコンクリートを砕くような、昔見たSF映画で出てくる光線銃のような音になった。揺らした木が、騒乱を呼び起こしたのかもしれない。

ガラスにエッセイを見つける。

《理性と情動 '22 YCAM編》

Licaxxx によるテキストのよう。この部屋の鑑賞体験について、とある鑑賞者の心情を想像して書いているようだ。恐らく興味を持った鑑賞者は、ここにあるテキストのようなことを思うのだろう。ただ、音を表す言葉は明らかに違っていた。聞いている音が一緒か、違うのかというよりも音を表現するボキャブラリーが違うと思う。パロディのように見えたテキストだが、ここにアーティストの視点がある。でも、テキストを提示することについては、もう少し違うやり方があるのではないかな、と感じてしまった。


アンラーニング ランゲージを見る。事前に調べていて、これも見てみたかった展示。2020年からのプロジェクトの集大成としての展示という。

Googleで検索するとき、FacebookやInstagramに写真をあげるとき、ユーザーは金銭的な対価を支払っているだろうか。広告出稿ならともかく、大抵は無償で使っている。その対価としてプライバシーを支払っている。あなたが何に興味を持って、次のどのような行動をとって、何を欲しているのか。検索と提示した写真、チェックインした場所、いいねのリアクションとメッセージのやり取りによって、アルゴリズムがあなたをラベリングする。そうして企業からの広告が追いかけてくる。GoogleやFacebookの利用料は、あなたが消費する商品を販売している企業が支払っている。

僕は、このあたりの技術的な支援もしているため、よく知った仕組みだが、知らない人の方が多いという。事例を交えながら、受付のボランティア・スタッフと話をした。レクチャーにより展示内容とそれを取り巻く背景はなんとなく知っていたが、具体的にどのような情報が取られているのかまでは知らなかったよう。
展示は知った上で使うのか、知らないうちに個人の趣味・嗜好を収集されて使うのか。そうしたことがあるという事実の提示。その膨大なリサーチが提示されていた。

残念ながら時間の都合で、パフォーマンスは体験することができなかったけれど、内容は複数人が部屋に入り、その参加者にAIから指示が出されるという。手を挙げて、右を見て、とか、簡単な指示から始まり、やがてAIが認識できない方法でコミュニケーションをとるように指示されるという。画像認識は表情や、仕草から感情を読み取るところまで発展しているし、自然言語認識は会話が成立する手前まできている。ボディランゲージも然り。そうしたことを使わずにコミュニケーションするとはどのようなことか。面白い試みだと思った。ただ、参加者が少ないとパフォーマンスの効力も少なそう。休日が狙い目だろうか。

機械を超越するには、生命、再魔術化だろうか。


山口駅まで移動してサテライトAで坂本龍一のサウンドインスタレーションを見た。

山口駅、新山口駅で昼食をとるつもりだったけれど、観光客が使いづらい地域だと思った。僕は一人だったから、さっと済ませてしまったけれど。電車で訪れたと思われるグループがランチを求めて彷徨っていた。もっと観光客があれば新山口駅界隈に地元名産品のレストランとか作れるのだろうけど、今のままでは観光客が滞在しない。鶏と卵のシチュエーションになってしまっている。自動車前提で観光客向けのサービス設計をしているのかな。


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