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大前研一 日本の論点 2020〜21と世界の潮流2019〜20 読書メモ

いつもの現代アート研究はお休みして、大前研一氏の2冊の本の読書メモ。読書メモなので、レビューとか書評ではなく、この本から何を得たのかをまとめる。

発売は2019年11月14日、翌年の見立てを語るというもの、政治、経済、ビジネスと記載内容は、多岐に渡る。

例えばブレグジットについての情報。

イギリス国民の意識は確実に変わった。国民投票のときには、当時ロンドン市長だったジョンソン市長や独立党党首のナイジェル・ファラージといった離脱推進派が扇動する声ばかりが響いて、「雇用を奪う移民、難民を制限できる」とか「ブリュッセル(EU本部)の指図を受けないで済む」といった離脱のメリットがクローズアップされた。(P.7)
民主主義が成れの果ての衆愚政治に向かうときには、ハッキリした意見やシングルイシューが支持される傾向がある。わかりやすいからだ。(P.10)

ここからトランプのツイッター民主主義について議論が展開する。トランプ大統領は、意見をまずツイッターで発信する。直接、誰でもトランプ大統領の発信を得られるために、 マスコミも議会も無力化していってしまう。

浸透力と拡散力において、圧倒的であり、マスコミはトランプ大統領のツイッターの発言から記事を書く、これではマスコミが機能しない。

一次情報を得られるトランプのツイッターの強さ。翻って、一次情報へのアクセスの大切さを強調したい。

残念ながら21世紀は20世紀の延長線上にない。まったく新しいプレイヤーが登場して世界を変えていく。(P.35)

本書では、トランプ大統領のツイッターを使ったデジタル・ディスラプションを参照しつつ、レガシーがあぐらをかいていては、その地位を確保し続けられないと指摘している。

いきなりやってきたテスラがGMを抜く時価総額を示した。最近見たニュースでは、GAFAとマイクロソフトの時価総額の合計が、東証一部上場企業を全て合計した時価総額を超えてしまったということ。

僕もIT巨大企業に勤めているので、GAFAとマイクロソフト側の思惑がよくわかるし、この騒動でリモートワークによる需要がでてきたというのも分かる。ただ、Googleは広告収益に頼っている分、この危機は、それなりのインパクトがあると思う。今後のクッキー規制も踏まえて、新たなビジネスモデルを作っていくだろうと推測する。

アメリカと日本の比較において、アメリカの強さは制度をスクラップ&ビルドできること、日本は、組合、共済の仕組みが力強く、抜本的な改革ができない。 だから、空地、空家があるにもかかわらず、森林造成するのかもしれない。駅周辺の昔ながらの商店街が寂れる一方で、郊外を開発して、里山を破壊していく、住宅メーカーなんて悪だろう、なんても考えていた。そうしたメーカーだけを考えるのではなく、なぜ、そうした行動をとるのかにも考えを行きわたらせる必要がある。

バイマというサービスがある。これは、海外の商品を買いたい人が、海外に住んでいる人に依頼して購入、配送まで実施してくれるサービス。いわゆるC2C、消費者間のマッチングビジネスである。このバイマに 10万人以上のバイヤーがいる。主に海外駐在員の奥様がバイヤーとして登録しているらしい。エニグモも同様なサービス、こうしたサービスのニーズは確実にあるようだ。ここでは、著者の好きなワインの価格について解説している。イタリアの小売店で流通している価格の数十倍の価格で、神楽坂のレストランで提供されていると。まぁ、レストランでの提供価格はともかく、楽天などの販売価格も数倍なので、議論の展開はよくわかる。こうした代理ショッピングサービスに、ワインを入れたらどうか、というのが著者の提案だった。

ただ、ワインなど、複雑な商流、物流構造がある。その構造をハックするというか、バイパスするのは、なかなか大変なのだろう。


答えの見えない時代、勤務先の商談では、なかなか議論が前に進まない。ROIを計算しようにも、既にリニアでない時代、皮算用にしかならないように思える。

物事を定義して前に進めていく力の著しい衰えを感じざるをえねい。(P.122)

この衰え、衰えていなかった時代を経験したことがないため、こんなものだろうと思っていた。やはり、衰えてきたのだろうか。


アメリカでは「ポスト・トゥルース(post truth)」という政治用語がよく使われるようになった。(P.280)

これは客観的な事実や政策の中身ではなく、個人的な信条や感情に訴える主張が重視されて世論が形成される政治状況のこと。現時点ではニュー・ノーマルに飲み込まれてしまった感があるけれど、コロナ禍が終息したら、ポスト・トゥルースが再び議論されるだろう。 目を背けたくなるような「真実」よりも、聞き心地のいい「嘘」が選択されて、真実はいつしか埋没してしまう。とはいえ、こうした危機を世界同時に経験したわけで、今後、どのような動きとなるのか注力していきたい。


「答えのない」時代

日本は明治以来、欧米に追いつき追い越せでやってきた。しかし、経済大国となった日本は「答えのない時代」に足を踏み入れた。(P.322)

自分で答えを考え信じて実行する。これは、先の引用”物事を定義して~”と同じことを言っている。

経営とは「答えのない世界」であり、「この方向だ」と方向性を示して組織を引っ張っていける人間しかリーダーになれない。そのようなリーダー教育は、日本の学校カリキュラムにはない。明治以来誰かが出した答えをいかに早く覚え、効率良く再現するかに重きが置かれている。 (P.322)

僕が勤務先に外資系企業を選んでいるのは、間違っているにせよ、自社はこう思う、だから、こうした製品、サービスを世に出す。そのための共感作りも行う、いわゆる市場を作るということ。もちろん、そうした製品、サービスだけでなく、顧客要望に則った製品、サービスも数多くある。むしろ、そちらの方が多いくらい。けれども、市場を作る気概を持った製品、サービスの投入や発表が、企業としての向き先を示すことになり、結果として企業の競争力が上がるものと思う。

答えのない問題に日本人は極端に弱い(P.328)

手本にしたくても先頭を走るGAFA自身が答えを持っていないのだから、追いかけようがないのだ。(P.329)
優れたグローバル人材を排出している北欧諸国は、1990年代に「答えのない教育」に舵を切った。「答えのない時代に先生が教えるのは危険」という考え方から、「先生」という呼称もやめた。(P.338)


この部分は、とてもコンサルタントらしい。

議論百出で膠着したり、堂々巡りしたりしている状況で、途中から参加して議論をまとめあげる。
「そもそも議論の方向が間違っている。この議論を決着するには3つの方向しかない。これとこれとこれだ。なぜなら……」と議論の道筋を示して、参会者を「そうだな」と納得させ、5分後にはその議論をリードする。 (P.344)

2000年代は、こうしたこともやっていたけれども、2,3年くらい前から、かなりの難問が増えてきたように思う。今まで見てきたように「答えのない時代」に足を踏み入れている。だからこそ、モノゴトを定義して進める力が求められるのだろう。

僕は、副業のアパレル事業者向けのコンサルティングにおいて、仮説を置き、プロトタイピングをし、積極的に失敗できるようにしましょうと提案をしている。何が正解か分からないのだから、解答を提示もしくは辿り着くまで検討するのではなく、調整というか、チューニングして合わせていこうというのが、現代的な課題への当たり方のように思う。それを踏まえて、本書から学べるのは、定義力だと思った。

こうして考えたことを実践することが大事、読書が身にしみていくということ。


経済が抜本的に変わったと指摘したが、20世紀と21世紀で何が違うか。 最大の違いは、スマートフォン(以下、スマホ)によって世界のすべての人々がネットワークの中で連結したことだ。(P.350)
スマホのおかげで初めて全世界共通のプラットフォームができ上がったわけだ。これが何を意味するか。 ボーダーレス経済とサイバー経済がスマホによって地続きになった(P.351)

この表現は、正直なところありがたかった。僕はプログラマからキャリアをスタートした。細かなところと、正確性が気になってしまい、行動不能に陥ることがあった。大分改善したと思うけれど、正しさというか表象ではなく構造を見てしまう傾向は未だに抜けない。

スマホとは、サイバー経済のためのプラットフォームだ。

なんと明確な定義だろうか。これが定義力ということ。他の言い方や解釈もあるだろうけれど、こうした定義をすることで、前に進むことができるのも事実。

カメラのキタムラで当時の執行役員 EC事業部長 逸見光次郎氏は、同社のオムニチャネルを推進する際に、社長への説明で「オムニチャネルとはスマホです。」とシンプルなメッセージを伝えた。スマホを持っていることで、リアルとバーチャルが繋がるというのはシンプルなメッセージだし、経営としては分かりやすいし、判断しやすい。こうしたことが定義力だと思う。

エンジニアの観点からすると、「何言ってんだ?」になるのだけどね。



2冊目、世界の潮流2019〜20。こちらの本は2019年の4月に出た。秋に日本の論点、春に世界の潮流として、その年の見通しを示しているものと思う。2020年の5月末には、アフターコロナを見据えた2020年版が出版されるらしい。


アメリカの国際政治学者イアン・ブレマーは、2012年に出版した『「Gゼロ」後の世界−主導国なき時代の勝者はだれか』の中で以下のように主張している。
第二次世界大戦後の世界はアメリカと旧ソ連のG2がずっと覇権を争ってきた。ところが、一九九一年に旧ソ連が崩壊すると、以後はアメリカが世界のリーダーとして振る舞うようになる。G7やG20も登場したが、実質的にはアメリカのG1状態が続いてきた。それが21世紀になると、五〇年は続くと思われたアメリカのリーダーシップが失われ、世界はGゼロとなった。
G−1という表現のほうが適当だと考える。(P.17)

トランプ大統領の出現は、いろいろな人がいろいろなコメントを出しているけれど、国際関係でのリーダーシップという点で、この文書が、とても腹落ちした。G0どころか、世界を混乱に陥れるマイナスとしてG-1の時代。


アメリカを第一に考えるということで、移民労働者に対する規制が強化された。H1ビザの発給が難しくなって、IT系の技術者がアメリカに入れなくなる。むしろ、アメリカのローカル化が進みそう。

ビジネスチャンスのあるところに人が集まるという流れが自然だったのだ。(P.20)

企業経営者は、多くが景気の先行きに不安を感じているようだ。(まだ、コロナ禍前のこと。)

その理由に挙がっているのが、貿易摩擦の深刻化、保護主義の広がり、中国景気の減速、アメリカ政治の混乱等だが、この四つとも震源地はトランプ大統領である。(P.32)

アフターコロナで、世界は緩やかに連携に向かうとした意見を多く見かけるけれど、むしろローカル化が進むのではないだろうかと推測している。

ロシアの中距離ミサイル開発の加速は、欧州と日本にとって悪夢そのもので同盟国のアメリカがそれの引き金である、というところにいまの世界秩序の現実がある。(P.68)
整理すると、アメリカというのはこれまで、自分たちの信奉する自由、平等、民主主義という価値観を絶対的正義とし、世界中に輸出してきた。そして、非人道的な国や非民主的な国には制裁を加えることを躊躇せず、自らが主導して世界秩序をつくりあげてきたのである。(P.72)
グローバル化とは消費者中心の世界最適化なのだから、グローバル化ができないようにされたら、最も被害を受けるのは消費者である。(P.76)

iPhoneを製造するために、成都に100万人の労働者がいる。トランプ大統領は、アメリカの雇用創出と訴えるが、これをすぐさま他に移転することは、ほぼ不可能であるし、価格にも反映されるだろう。部品供給の問題でもない。

グローバル経済モデルの変遷について図が掲載されていた。次の5つのフェーズでモデル化することができる。

第1フェーズ 18〜19世紀 「比較優位論」

第2フェーズ 20世紀 「輸出モデル」

第3フェーズ 20世紀終盤 1990s 「グローバル企業」の出現

第4フェーズ 21世紀初頭 「21世紀のサイバー経済」

第5フェーズ 21世紀 「EC、C2C2C、C2B2Cの領域」

このモデルの第4フェーズから、通関統計に入らない取引がでてくる。(Netflixとか、港に荷物が届くわけじゃないので。)トランプ大統領の経済の認識は第2フェーズで止まっているという。

つまり、日米貿易摩擦でのアメリカの対応を対中貿易に対して実現できると考えている。そこからの理論展開として、政府交渉は必ずアメリカのいうとおりになる。ただし、アメリカの産業競争力は高まらない。なぜならグローバル化が早まり、強くなるため。

日本のトヨタはそれまでジャストインタイムの生産ができなくなるので、愛知から二〇キロ以上離れることができなかったが、日米貿易摩擦を境に、世界五十二ヵ所(二七ヵ国)で生産できるように変貌したのである。(P.84)

グローバル企業と言えば、海外の企業を買収してグローバル化することもある。僕の勤務先(本業)でもいろいろな会社を買収して、グローバル企業化してきた。

ファイザーといえば買収を行うごとに株価が下がっていっている。
「買収したら三ヶ月以内に買収先の人員を掌握し親会社のやり方を叩き込まないと、その会社の経営はできなくなる」というのが、GEで長らくCEOを務めたジャック・ウェルチ氏の持論だが、私もこの意見に同感だ。社長にこれらができる力量がなければ、どんなM&Aも成功させられないのである。
武田薬品も今回シャイアーを買収して、念願だった世界トップ10入りを果たしたものの、これで安泰というわけではない。うまく経営できなければいまの規模を維持するのは難しいだろう。(P.39)

なかなか難しい。単一のリーダーシップと組織で多国に展開している段階ではグローバル企業とは言えなさそう。他社を買収し、そのリーダーシップと組織を掌握する。そして、自社化していく。融合という表現の方が適切だろうか。単純にBS、PLを合わせただけでは、しぼんでいってしまう。

中途半端に英語を話すことができるトップが直接出ていって、細部まで理解せず、いわれるままに企業を買い、「あとはなんとかしろ」と部下に任せて終わりというケースだ。(P.195)



いろいろと批判があるけれど、インドのアーダール。日本で言うところのマイナンバーによる恩恵。

アーダールがあったおかげで、スマートフォンベースの取引や送金にすんなり移行できたからである。(P.131)

同じように日本のマイナンバーも機能するはずだったのに。。。思いつきで政策決定しているのではないかと勘繰ってしまう。あるいは手段の目的化だろうか。



二一世紀の大陸は、目に見えない。実体経済の外側にボーダレス、マルチプル、サイバーという新たな経済要素ができつつあるため、実体経済に加えこれら三つの経済をうまく制御できないと、二一世紀の勝者になれない。(P.146)

スマートフォン経済圏というのは、まさしくデジタルシフトしていっているということ、そこに対応するためにデジタルトランスフォーメーションが必要になってくる。

人材が集まるところに企業や資本が進出する。中国の都市部では、リープフロッグ現象が起こっていて、周回遅れだったものが、一気に最先端都市に発展する。デジタルの世界では、戦い方のルールが違うのだ。

地球でのスマホ・携帯ユーザーは51億人で、世界人口の69%、SNSユーザーは30億人で39%であり、国家ではない、これだけの規模の経済圏があることを考えると、それの元締めというのは、どれほどのものか。

とはいえ、人が集まる仕掛け作りというのが、競争力を維持する源泉になる。コロナ禍による別の議論が発生しそうだけれども、やはり日本の各地域で地域特性を踏まえた競争の導入は必要だと思う。

各道州は知恵を絞って世界からヒト、モノ、カネ、情報を呼び込み、各道州の首都は発展を競い合う。(P.188)

大前研一氏は好き嫌いが分かれるらしい。ロジカルな思考、ただロジカルに過ぎて、ちょっと情の入り込む余地がないと思うけど。好き嫌いは別として、この本は、彼のリサーチの概要をおよそ2時間くらいでつかむことができる。これってかなりお得だと思う。大前研一というメガネを使って、世界情勢、日本の行く末を考えて、自身がサバイブするためには、どうすればいいか、そうした思考に発展させていければ、いいだろう。好き嫌いのバイアスを外すと、世界はヒントに溢れている。


今から読むなら、新しく出るこちらの方がいいと思う。昨年版と比べて、そこまで飛躍は無いと推測する。


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