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認知行動療法の基本

認知行動療法(CBT)とは何か


認知行動療法(CBT)とは、心理療法の1つで、ものごとを捉える認知や、状況に対する行動を変えることで、結果的な気持ちを楽にしたり良くしたりすることを指します。

コップの水の例

半分ぐらい水が入ったコップがテーブルの上にあると想像してみてください。ここでは「半分ぐらい水が入ったコップがテーブルの上にある」ということは、誰もが同意する事実です。
しかし、人は状況や性格によって、この事実をさまざまな形で「認知」しています。

例えば、Aさんは「まだ水がある」と認知し、Bさんは「もう半分しかない」と認知し、Cさんは「片付けなきゃいけない」と認知します。

これらの背景には、例えば、Aさんのように水は必要だが、無くなったら汲みにいけばいいと思っていたり、Bさんのように水は絶対必要なのに、なくなったらどうしようと常に不安がある状態だったり、Cさんのように使い終わった食器は絶対すぐに片付けないと叱られてきた過去があるかもしれません。

そのような3人の背景や性格は、3人それぞれに異なった認知を与えており、その結果3人は異なった感情を抱きます。Aさんは平静でおり、Bさんは不安を抱え、Cさんは焦りを感じるでしょう。しかし3人に起こった事実は一つです。

そしてこの3人は次にどのような行動に出るでしょうか。

Aさんはコップをそのままにし、Bさんは慌てて水を買いに行くかもしれません。そしてCさんはコップを洗いに行くでしょう。
起こった事実は一つでも、この3人の行動も三様に異なっています。

認知行動療法ではまず、起こった事実、抱いた認知、起こした(もしくは起こさなかった)行動、そして結果的な気持ちに焦点を当てます。
そしてそのうちのどれを変えれば、結果として状況や感情が楽になるか、良くなるかを考えます。

しかし、ここで気をつけなくてはならないのは事実と結果は変えられないという点です。
もし変えられる状況でその方が効果的ならば、状況を変えることも有効でしょう。しかし、多くの場合状況は変えられません。
パワハラ上司がいなくなれば、とかあの人がもう少し気がきく人なら、という事実は、一旦変えられないものとして扱います。

そして、状況や認知、行動が変わらないままなのに、結果的に急に幸せになったり、楽になったりすることもありません。
感情そのものは自然に発生するものですから、そこに至るまでの経緯に変化がなくては、急に変わったりするものではありません。

変えられるのは「認知」と「行動」の2つ、ですからこのアプローチは認知行動療法と呼ばれているのです。

では、結果的に焦ってしまうCさんの気持ちを変えることをゴールに考えてみましょう。
Cさんは両親から厳しいしつけを受けて育ち、今は一人暮らしなのに、コップや食器が置いてある状況にとても焦りを感じてしまいます。結果的に食事中や来客中でも食器を片付けだしてしまう状況にあります。

認知を変える

もしCさんの認知を変えてみるとしたらどのような代替案があるでしょうか。

Cさんの現在の認知は「食器があったらすぐに片付けなくてはならない」です。しかしこれは必ずしも正しく、事実に即した、本質とは限りません。
多くの場合、多少食器が出しっぱなしになっていても誰も気にしないし、あとでまとめて洗えば済むことです。

Cさんはおそらくそのことは知っていますが、でもついつい自動的に脅迫的な思考が湧いてきてしまうんですね。
でもCさんは結果的に焦ったり、不必要なまでに食器が気になってしまう自分がいやなので、なんとかこの認知を変えたいと思っています。

認知を変える時には、オリジナルの認知を知った上で、代わりとなる認知を用意するところから始めます。

今の靴が気に入ってなくても、急に裸足では歩けないように、今の靴を脱ぐために新しい靴が必要なのと同じです。
Cさんはセラピストや友達と相談しながら、なんとか信じられそうな新しい認知、「食器は1日2回まとめて洗ったほうが経済的なので、わざと溜めてから洗った方が良い」というものを考えつきます。
そして毎日食器を見るたびに、新しい認知を唱えながら、「すぐ洗わなくては」という衝動を逸らしていきます。すると次第にその認知に慣れ、結果的に今までの焦燥感や罪悪感が薄れていきます。

行動を変える

ではCさんの行動を変えてみるとしたらどのような代替案があるでしょうか。

今までのCさんの行動は「食器を見つけたらすぐに洗って片付ける」です。
そうしないと、今までのように焦燥感や罪悪感で居たたまれなくなるからです。では、Cさんの食器を全て紙コップ、紙皿に変えてみたらどうでしょうか。使い終わったらすぐに捨てればいいし、そもそも洗わなくていいものですから、洗うという作業もありません。
この代替行動案は経済的にも環境的にも良くありませんが、しかし時として大胆に行動を変えることがCさんの行動パターンを変えるきっかけとなることもあります。

もちろんこれらの方法が誰にでも有効ということではありません。
代替の認知や行動を考えるときは複数を案を出して、シミュレーションをしたり、実験をしてどんな気持ちになるか検証するということを繰り返さなくてはなりません。
どうしても代替案が出てこないときは他の人を参考にしたり、セラピストと話し合って決めていくことも必要でしょう。

認知行動療法の基本原則

認知行動療法の基本はとてもシンプルで、「感情を良くするために認知か行動のどちらか(もしくは両方)を変える」ということです。この基本さえわかっていれば、どのような方にも、どのような場面にでも有効です。

しかし、シンプルな考え方なだけに、慣れていないと応用の方法がわからない時もあります。

そんなときは本で学んだり、ワークシートを用いたり、セラピストと一緒にその方法を考えたりすることが有効でしょう。


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