誹謗中傷の対応にかかる弁護士費用~発信者情報開示請求から法的措置までいくらかかるのか
こんにちは、地方在住弁護士です。
最近、誹謗中傷について話題になっていますね。
テラスハウスに出演されていた木村花さんが、亡くなったという痛ましいニュースです。
ニュース記事によると、SNSなどで誹謗中傷を受けていた可能性を指摘されています。
ただ、Twitterなどをみると、誹謗中傷の対応にかかる弁護士費用について、
いささか誤解を生むおそれのある記載が見られます。
そこで、
今回は、誹謗中傷の対応にかかる弁護士費用について、解説したいと思います。
1 誹謗中傷への対応の流れ
(1)全体の流れ
まず、弁護士費用について説明する前に、
インターネット上の誹謗中傷に対し、誹謗中傷をした相手に対して法的な措置の全体像を説明します。
全体像は、次の図のように、
3段階
の手続をする必要があります。
※画像の作者から、画像転載の承諾を得た上で掲載しています。
※詳しい流れを知りたい方は、次の記事をご覧ください
(1)第1段階~コンテンツプロバイダに対する開示請求
第1段階は、
Twitterといったサービスを提供する会社(これをコンテンツプロバイダといいます)に対し、IPアドレス等の開示を求める手続です。
なぜ、このように段階が分かれているかというと、
Twitterなどのコンテンツプロバイダは、
書込みをした人の名前や住所の情報を持っていません。
その代わり、
その書込みを行った電子機器のいわばインターネット上の住所であるIPアドレスという情報を持っています。
そのため、まず、このIPアドレスをコンテンツプロバイダから開示してもらいます。
IPアドレスが分かれば、書込みをした人物がどこの電話会社と契約しているのかが分かります。
(2)第2段階~アクセスプロバイダに対する開示請求
開示してもらったIPアドレス等を基に、
アクセスプロバイダ(電話会社)に書き込んだ人物の住所と名前の開示を求めていくことになります。
(3)第3段階~損害賠償請求
書き込みをした相手に、損害賠償請求をします。
やり方は、
まず、内容証明郵便を送付し、慰謝料の支払いについて交渉し、
交渉が決裂したら、裁判を提起します。
ただ、内容証明郵便といった損害賠償請求の手紙を送ると、
相手がその手紙をインターネット上に公開する危険があります。
そのため、交渉はせずに、いきなり裁判を起こしてしまう、
という方法もあります。
(4)第4段階~強制執行
裁判で損害賠償請求が認められたにもかかわらず、
相手が賠償金を支払わない場合は、強制執行が必要になります。
具体的には、
①相手の預貯金に対して差押えをしたり、
②相手の給料を差押える、
③相手の物(動産)を差押える
といった方法があります。
ただし、上記①をするには、相手の預貯金の口座がどこの銀行にあるか知っている必要があります。
知らない場合は、弁護士照会制度などを利用して、金融機関に相手の口座がないか照会をする必要があります。
上記②を行うためには、あらかじめ相手の勤務先を知らなければなりません。
上記③は、相手において、価値のある財産を持っている必要があります。
これらの措置をしても相手の財産が見つからない、強制執行やってみて財産がない場合は、残念ながら、損害賠償金を回収することができません。
2 弁護士費用の相場
(1)弁護士費用の種類
弁護士は、大きく分けて次の、3つのお金をもらいます。
ア 着手金
これはいわば、事件処理を依頼する時に支払う手数料です。
イ 実費
これは、切手代やコピー代など、事件処理を行う上で必要になる諸経費のことです。
ウ 成功報酬
発信者情報の開示に成功したり、損害賠償請求をしてお金を得られるなど、事件処理に成功した場合にもらう報酬です。
これらの3つのお金をもらいます。
(2)仮処分の担保金
発信者情報開示請求の仮処分を行う場合、上で説明した弁護士費用だけでなく、裁判所に対して、
担保金として10~30万円
を支払う必要があります。
この担保金は後で、回収することができますが、
事件を依頼する時に
着手金と実費だけでなく、この担保金を用意する必要
があります。
(3)弁護士費用の比較
インターネット上の検索において、
「発信者情報開示請求 弁護士」
と検索してみて、上位に表示された弁護士事務所のうち、
発信者情報開示請求の費用が書かれている事務所の費用をまとめてみました。
法律事務所によってかなり違いがありますが、
例えば、D事務所を例に見ると、
D事務所
①第1段階 コンテンツプロバイダに対する仮処分
10万円(着手金)+10万円(成功報酬)
=20万円
②第2段階 アクセスプロバイダに対する訴訟
10万円(着手金)+10万円(成功報酬)
=20万円
③第3段階 特定後の損害賠償請求の訴訟
25万円(着手金)+25万円(成功報酬)+得られた金額×16%(成功報酬)
=最悪、回収できなくても、25万円かかる
↓したがって、最低でも、
①+②+③=45万円
※これら以外に実費(経費)がかかる可能性がある。
他の法律事務所を見ても、
着手金や実費、成功報酬を含めても少なくとも、
50万円~70万円程度
かかるといえます。
そして、仮処分の担保金を含めると、
100万円近くかかる
可能性があります。
3 相手から弁護士費用を回収できるか
「弁護士費用は、書込みをした相手から回収すればいい」
と考えるかもしれません。
確かに、発信者情報開示請求をした後の損害賠償請求では、
発信者情報開示にかかった弁護士費用全額の賠償を認めた裁判例があります。
しかし、たとえ裁判で勝って損害賠償が認められても、
相手が判決で命じられたお金を払うとは限りません。
発信者情報開示請求をやってみて分かったことですが、
インターネット上で誹謗中傷する人は、必ずしも金銭的に余裕がある訳ではありません。
むしろ、生活の状況を見る限り、賠償金を支払う余裕がない人が多い印象です。
そのような人は、たとえ判決でお金を払うように命じられたとしても、
支払おうとしません(支払えません)。
もちろん、どこかに財産を隠している可能性もあるため、
上で説明した財産の所在を調査したり、実際に強制執行をやってみたりするのですが、
財産が見つからなかったり、強制執行が空振りに終わることもあります。
したがって、誹謗中傷に対し、発信者情報開示請求にチャレンジをする場合、相手の特定にかけた費用は、自分で負担する覚悟をした方がいいでしょう。
4 法テラスの場合の弁護士費用
(1)法テラスとは
法テラスとは、上で説明した弁護士費用を国が立替払いする制度であり、
依頼者は、毎月5000円、7000円、10000円のうち、自分が決めた金額を、法テラスに対して分割で返済していく制度です。
ただ、法テラスは、弁護士費用を支払うことが難しい、経済的に余裕がない方のための制度であるため、
収入(手取り)と、資産(財産)
が一定金額以下になっていることが、利用の条件になっています。
法テラスの利用の条件は次のサイトに記載されています。
※なお、法テラスは、無料で弁護士に依頼することができる制度であると誤解されている方もいますが、弁護士に依頼する場合、上で説明したように費用が(金額が低いながらも)発生する制度ですので誤解のないようにしてください。
(2)法テラスを利用した場合の弁護士費用
法テラスを利用した場合、依頼を受けた弁護士が弁護士費用の金額を決めることができず、
法テラスが事件ごとに審査した上で、弁護士費用の金額を決めます。
法テラスが決める弁護士費用の金額の相場は、次のサイトに記載されています。
この法テラスが決める弁護士費用は、
法テラスを利用しないで弁護士に依頼した場合よりも、
金額が低い(安い)場合が多いです。
したがって、この制度を利用した場合、上で説明した弁護士費用の相場よりも、
弁護士費用を低く(安く)することが(場合によっては)可能です
です。
しかし、この法テラスが決める弁護士費用は、事件の難易度を必ずしも反映した金額になっていないことがあり、弁護士側にとって負担感が強いことがあります。
そのため、弁護士によっては法テラスの利用を断る(もしくはそもそも法テラスを利用するための登録(契約)をしていない)ことがあります。
したがって、法テラスが使えるかどうかは、
相談する前と、依頼するときに確認するべきでしょう。
※なお、ごくまれに、弁護士費用を安く抑えるために、収入や資産について本当の金額を申告しない方がいます。しかし、それは弁護士との信頼関係を壊す行為ですので、絶対にそのようなことはしないでください。
5 最後に
誹謗中傷などの権利侵害に対し、法的な措置を取るためにかかる弁護士費用をまとめてみました。
・誹謗中傷に対する法的措置を弁護士に依頼するかや、
・今後の発信者情報開示請求の制度を考えるにあたって
参考にしていただければ幸いです。
なお、爆サイにおける誹謗中傷に対して法的措置を考えている方は、
次の記事をおすすめします。
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