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底見えコスメとランジェリー
シャワーを浴びて、下着姿で髪を乾かす。鏡でボディチェックをして、もうちょっとくびれがあったらな、と横っ腹をつまんでみる。
そうだ、今日はワンピースを着るつもりだし、このままメイクもしてしまおう。
日焼け止めを塗ったあとに、下地を塗る。ファンデーションを重ねて、パウダーをブラシでのせた。この日のために1週間以上も前から丁寧にスキンケアをしていたので、化粧ノリは悪くない。
眉毛を描いたら、4色のアイシャドウパレットを手に取る。上の2色は底が見えるほど使い込んでいたが、下の2色は何度か使ったくらいで、新品のようにも見えた。
底が見えるまで使い込まれた色と新品同様の色が混在するアイシャドウは、なんだか頼りなく不安定な感じがする。
私はふと今から会う彼のことを思った。会社の先輩で歳は2つ上。第一印象は頼りなさそうだけど、優しそうな人。
そんな私の印象通り、彼は頼りなくて優しかった。あんまり興味はなかったけれど、彼からアプローチを受けて、何度かご飯に行くうちに、彼の何気ない気遣いに心惹かれていく自分がいた。
6回目の食事のあと、彼から告白されて付き合うことになった。こちらが心配になるような、頼りない告白だったけれど、それも彼らしくていいなと思った。
彼と一緒にいると安心できた。刺激も変化もいらないから、このままずっと一緒にいられたらそれで良かった。
なのに、突然告げられた転勤。ごめんねと謝る彼の姿を見ながら、私が欲しいのはそんな言葉じゃないと初めて彼の優しさが嫌になった。
ただひと言、ついてきてほしいと強引に手を引いてくれるだけでいいのに…
考えごとをしていたせいで、手からアイシャドウのチップが滑り落ちて洗面台に落ちる。水滴とアイシャドウが混じって、茶色い水に変わる。いつもの私のまぶたの色…
違う、そうじゃない、間違っている。誰よりも変化を嫌って逃げていたのは私だ。優しい彼はそれに気づいていたからこそ、私に謝ってくれたに違いない。
意を決して、普段は使わないアイシャドウパレットの右下、少し濃いヴァーガンディーの色をブラシに取る。そっとまぶたにのせると、そこにはいつもと違う自分がいた。
案外似合ってるじゃん、口に出して言ってみる。いつもとちょっと違う私。もう十分大人なのに、なんだか大人びて見える。こんな自分を誰に見てもらいたいかと考えた時、思い浮かぶのはただひとり。
やばい、もうこんな時間だ。いつまでも下着姿じゃいられない。急いでワンピースに足を入れる。
さようなら、昨日までの私。今日から私は彼との未来をいろんな色で描けるようになった。
もし彼と一緒に住むなら、ベッドは大きめがいいな。あの人意外と寝相が悪いから。
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