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卒業写真

風に乗って、電車の音がわずかに聞こえてくる。
12時を少しまわった頃、そろそろ終電の時間。
この電車に揺られている人たちは、仕事帰りだろうか、それともお酒を飲んだ帰りだろうか。
そんな週末。
身体はくたくたに疲れきっているのに、なぜか頭の中だけはちっとも眠ってくれそうになくて、私はさっきからベッドの中で寝返りを繰り返している。
明日が土曜日でよかった。

思うように進まない毎日に、今ちょっと泣きたくなっている。
弱いところを誰かに見せたり呟いたりすることは苦手で、普段どおりに笑ったりはしゃいだりしているけれど、でも一人になると時々ため息をつく。
目を閉じて、思考を停止したくなることもある。
時々本当の自分が何なのか、分からなくて戸惑ったりする。

明朗活発、とまではいかないにしても、それなりに社交性はある方だと思っていた。
エントリーシートにもそう書いたし、面接でも手応えを感じた。
不採用の会社には、こっちから願い下げだわ、なんて強がりじゃなく本気で思っていた。
何の根拠もないプライド。
そんなものが簡単に通用しないことに気づくのが遅すぎた。
ようやく滑り込んだ今の会社では、私は地味な制服を着て、名前じゃなく「女の子」と呼ばれ、日がなパソコンに向かってただただ数字を打ち込んでいる。

戻りたいと思う。
そう思ってから、「いつに?」と自分に問いかける。
どこまで振り返れば、私は満足するのだろう。

ベッドから起き上がり、何度も手にした卒業アルバムをまた取り出す。
モノクロとカラー写真が入り混じった重いアルバム。
ここに閉じ込めてあるのは、ちゃちな言い方をすれば希望だったり青春だったり、とにかくキラキラしたもの。
そして今の私には眩しすぎるもの。

アルバムのあるページで、手がとまる。
あの頃、ほんの少しだけ、憧れていた人が写っている。そう、ほんの少しだけ。
特に親しかったわけでもなく、時々話をしただけだったのに。
その人の笑顔や仕草、声のトーンまで、今もはっきりと覚えているのはなぜだろう。
彼は私のことなんて、一度も思い出したことがないに決まっているのに。

次のページには、私が写っている。
何の悩みもなさそうに、能天気に笑っている。

アルバムを閉じると、あの人と私の写真がぴったり重なることに初めて気づく。

変なの。
たったそれだけのことで、少し嬉しくなった。
本当に、変なの。でもちょっとだけ、心が軽くなった。


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会社でイベントを主催することも多いので、今の状況、ちょっと疲れ気味です。準備してきたことが日々ひっくり返されて、マイナス利益になるための仕事ばかり上乗せされる。
おかげで明日の休日出勤はなくなったけれど。世の中にはイベントを開催したらしたでクレーム、中止したらまたクレーム、何か物言いたい人ってほんとに多いんだなとくたびれ切った1週間でした。今日と明日くらいはせめて心穏やかに。みなさまもよい週末をお過ごしください。


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