ある日の出来事

お題

朝の通勤電車。
トンネル内で電車が止まる。
いつまでたってもアナウンスはない。車掌も説明に来ない。

このあとの展開は !?

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読みかけの本に夢中になっていたので、しばらくの間は、そのことに気づかなかった。
「何?何かあったの?」
誰かの発した声が、しんとした車内に思いがけず響き、ようやく僕は顔を上げる。
その声をきっかけに、様子を窺っていたような沈黙が破れ、ざわめきが徐々に大きくなる。
「事故?」
「何か説明はないわけ?」
「ちょっと、どうなってるんだよ」
何だ?電車が、止まっているのか。
あちこちで鞄やポケットから携帯電話を取り出す人達。
「・・・ああ、圏外になってるう」
僕はぱたりと本を閉じた。それから左手首に巻いた腕時計で時間を確認する。
確かに変だ。この時間なら、そろそろ僕の降りる駅に着いていなくてはいけないはずだ。
恐る恐る僕は、左隣りの吊り革につかまっていた中年の男性に話しかけてみた。
「あの・・・一体何が、あったんでしょうね」
男性は僕をちらと一瞥し、
「さあ」
と一言。取り付くしまもなかった。
今度は右側に立っているOL風の女性に聞いてみた。
「知りません」
こちらも冷たい返事である。
どうやら、この車内には、電車が止まったことに苛立っている人達と、全く無関心な人達の2種類が乗り合わせているらしい。


なかなか電車は動き出す気配を見せない。
もうたっぷり、30分はこの状態が続いている。
ざわざわしていた人達も、そろそろ諦めムードだ。
イヤフォンで音楽を聴いている人達、読み終わった新聞を互いに交換しているサラリーマン、携帯電話のゲームで遊びだす高校生。
それなりに、皆、この説明のないアクシデントに馴染み始めている。
僕も閉じたまま手に持っていた本をまた開いた。
読みかけのミステリイ。気になる続きを読むことにしよう。

「どうです?このシミュレーションからも分かるとおり、これが、○○国の国民性なのです。
もともと無関心な層も多い。心配はありません」
「うむ。この案も、とりあえず過半数で通過させてしまえば、あとはこっちのものだな」
「消費税アップ反対。年金制度改悪反対。口々に叫んでも、うるさいのは初めだけです。
すぐに諦めて、新しい制度に馴染んでしまう」
「・・・実に、都合がいい。それがこの国の、いいところでもあり、悪いところでもあるのだが」

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