スマイルの価値は

下向き姿勢が必須の私は看護師の顔を見ることもなく
今日も検温と血圧測定をされている。

「お食事…口にあいませんか…？」

看護師の声が少し震えて緊張しているように感じた。
下向きから少しだけ顔を上げて看護師を見る。
胸元には初心者マーク。

「いえ、野菜が嫌いなんで食べられるものがないんです、てへ」

緊張を解せたらとふざけて明るく返してみたが
特に変わった様子はない。
懸命にいくつも質問を続けてくる。
不器用さがあるがとても一生懸命さを感じる新人だ。

新型コロナウィルスの蔓延以降、医療現場と従事者は大変な思いをしてこられたと思う。
医療崩壊なんて言葉では簡単に片付けられないような
辛く長い戦いをしてきたはずだ。
特に最前線の看護師の方々の負担は甚大だったはずで
耐えられず職を離れてしまった例も何度も聞いた。
本当に医療従事者の方々には感謝しかない。

そんな環境であるにも関わらず医療従事者として
今年から入ってきた彼女。
何が彼女を突き動かすか分からない。
だが緊張しながらも一生懸命患者に質問を繰り返す姿は何か強い気持ちがあるように感じた。

「はぁ、まじでマック食べたいっす」
また多少ふざけて心の声を吐露した。

「私、去年までマクドでバイトしてましたよ！」
少し声のトーンがあがって嬉しそうに彼女が答える。

そこから今シーズンの月見バーガーや
好きなバーガーはどれだみたいな話をした。
緊張して震えていた彼女の声はもうない。
一通り喋ったあと「また来ますね」と去る彼女は
見違える程明るい笑顔だった。

こんな時代に医療現場に飛び込み頑張る
彼女の未来に笑顔が多いことを祈る。