見出し画像

わが子はどこから来て、誰に似ている?「薔薇ノ木二薔薇ノ花咲ク」

詩のソムリエが子育てのなかで考えた、詩のはなしをちょこっと。
科学が発達した現在、だいたいのことは論理的に説明できるはず。なのに、子どもを産むと「しみじみ不思議だなぁ」という想いが押し寄せるときがあります。そんなときに読みたい、誕生や遺伝にまつわる詩を味わいます。

初夏の庭にて

5月はバラの季節だ。
うちの「花咲かじいさん」こと父はバラを育てるのが趣味で、実家の庭は今花盛り。フランスの詩人の名をとったピエール・ドゥ・ロンサールをはじめ、何種類ものバラが咲いている。ちなみに祖母ー父と薔薇を育てる「緑の手」が受け継がれているが、その系譜であるところの私は、枯らせるほうの天才である。ローズマリーすら3回枯らせているからすごい。

さて、バラといえば、北原白秋のこの詩。

薔薇ノ木二薔薇ノ花咲ク。
ナニゴトノ不思議ナケレド。

北原白秋「薔薇二曲」『白金之独学』

生命が不思議かつ完成されたものであるのと同様に、詩自体も見事に完成されきっていて、惚れ惚れとしてしまう。漢字とカタカナだけの硬質なヴィジュアルのなかに、やわらかな生命の不思議が満ちあふれていて、そのアンバランスさがまた神秘を一層醸し出している。花びらが重なるバラの姿もまた、神秘のイメージとしてふさわしい。

受精卵だったきみ

去年の春に子どもを産んで、ちょうど里帰りを終える時期がバラの咲き出す初夏だった。庭に出て、まだほにゃほにゃしている子どもを抱き、バラを近くでしげしげ眺めながら、この詩を思った。

赤ちゃん。この、未完成にして完成された生きもの。
まつ毛。ふくふくのほっぺ。ツヤツヤの髪の毛。むちむちの腕。
眠って、泣いて、笑っている、れっきとした赤ちゃん。

生後2日目の息子

何度も、何度も、「あなたって、受精卵だったのよね…?」と心底疑わしい気持ちで、その姿を眺めたものだ。

これが…人間に…?

妊娠中、体のなかで起こっていることを知りたくて、一般的な妊娠出産の本から科学的な本まで読み漁ったが、仕組みはわかっても理解は出来ないことがたくさんあった。だって、受精卵から、こんなに完成された人間ができるって、やっぱりどう考えてもわからない。

あまりに小さい爪や、精巧な耳やお鼻…これすべて、わたしが作ったのか?としみじみと見てしまう。

さらに、さらに。1年がたって、わかったことがある。わたしの幼少期と、息子はそっくりなのだ。遺伝!

ナニゴトノ不思議ナケレド。
いやいや、超〜〜〜不思議ですケド。

似ていて、うれしい。似てなくて、うれしい。

一方で、息子はわたしに似ていなくてびっくりすることもある。
息子は、1歳にしてものすごくgiverなのだ。電車で目があった人に微笑みかけ、食べかけのお菓子やよだれだらけのおもちゃを差し出す。うれしそうに。
困惑して微笑む人たちをよそに、彼の精神にほとほと感動してしまう。

迷わず『飢餓と貧困』を選ぶ意識の高さ。

わたしは幼いとき、バリバリのtakerだった。人の自転車を勝手に乗り回しては、真の持ち主が自転車に乗っているところを目撃し「◯◯ちゃんがぁ〜取ったぁぁぁ」と号泣する姿が証拠映像として残っている。3歳かそこら。
(幼稚園でそれなりに社会化したので、安心して下さい)

1歳の息子に対して「生命を維持する」以外のことは特にしていないので、これは彼の本性ネイチャーなんだなぁと思う。

谷川俊太郎の、こんな詩の一節を思い出す。

子供は私に似ている
子供は私に似ていない
どちらも私を喜ばせる

「鳥羽2」『谷川俊太郎詩集』

この心情はまったくわからなかったけれど、心にひっかかっていて、子を産んでしみじみそうだなぁと思う。わたしは、子供に、自分に似てほしいと思ったことはなかった。どちらかといえば、夫に似てほしいと思っているくらいだ。でも、この詩のいっていることがよくわかる。

くるくるの髪はわたしにも夫にも似ていない

詩というのは、矛盾を抱きこむクッションのようだと思う。「子供は私に似ている=喜び」であれば、逆の「子供は私に似ていない=喜び」は論理的には成立しないはずなのだが、生命の不思議はそれを超えてしまう。

だからやっぱり、詩って存在しつづけるのだろうな、と思いながら、今日も詩を読む。わたしも、あなたも、論理を超えた存在なのだ。

***

これまでの「こどもと詩」シリーズ

最後まで読んでくれてありがとうございます!よかったら「スキ」(♡マーク)やコメントをいただけると励みになります。(「スキ」はnoteに登録していなくても押せます◎)

今日もすてきな一日になりますように。
詩のソムリエ Twitter  公式HP 公式LINE



そのお気持ちだけでもほんとうに飛び上がりたいほどうれしいです!サポートいただけましたら、食材費や詩を旅するプロジェクトに使わせていただきたいと思います。どんな詩を読みたいかお知らせいただければ詩をセレクトします☺️