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【詩を食べる】そぞろあるき(ランボー)/夜のピクニックのためのオープサンドイッチ

詩を味わうためのレシピエッセイです。今日紹介するのは、フランスのアルチュール・ランボーによる「そぞろあるき」。夏の夜にあてもなく歩く詩と、そのお供のサンドイッチを紹介します。ご賞味ください。

大学生の頃、あてもなく歩いていた気がする。

うれしくて。不安で。うまくいかなくて。しあわせではちきれそうで。ふわふわした気持ちで。わたしは歩いた。

当時の「歩く」は今では得られない感覚があったように思う。どこに向かっているかわからなかったから。

あの頃、限りない未来と自由があるようでいて、その実、なにかにとらわれていた。
心にあふれる愛しい気持ちも、うまく表現できずにいた。
この時がずっと続かないことも、心のどこかではわかっていた。

そんな時、恋人、あるいは友人といっしょに、夏の夜ずっと歩きながらぽつぽつしゃべったことをふいに思い出す。

大学生の時に住んでいた横浜、日吉。商店街は夜更けになっても人が多かったけど、すこし住宅街を抜けると、スッと静かな坂が続いていた。

商店街か東急で安いワインを一本買って、ぐるぐるぐるぐる歩き回って、古本屋で立ち読みしたりして、行き着く先は高台にある日吉公園。

ここの夜景は、今でも一番好き。芝生広場の草に足を投げ出して、東急電鉄の電車の灯を追いかけ、武蔵小杉の高層ビルの光を見ていると、なつかしいような、ふしぎな安らぎで胸がいっぱいになった。

かごにいれたワインをあけ、ちょこちょこつまみながら、あてもない話をしたり、iPhoneからジャズを流したりした。こんなにすばらしい夜景が広がっているのに誰もいないので、たまにダンスも踊った。夜風が爽やかだった。

そんなたわいもない昔のことを思い出したのは、フランスの詩人アルチュール・ランボーのこんな詩を読んだからだ。

そぞろあるき   ランボー 訳:永井荷風 

蒼き夏の
麦の香に野草のぐさをふみて
小みちを行かば
心はゆめみ、我足わがあしさはやかに
わがあらはなる額、
吹く風にゆあみすべし。

われ語らず、われ思はず。
われただ限りなき愛
魂の底に湧出わきいづるを覚ゆべし。
宿なき人の如く
いよ遠くわれは歩まん。
恋人と行く如く心うれしく
「自然」と共にわれは歩まん。

そうか、とこの詩を読んで気づいた。
大学生のときの「歩く」は、あれは、そぞろあるきだったのだ。うまく語る必要もなく、ただただ、歩くたびにわきあがってくる気持ち。

ちなみに、原題は "Sensation"で、こんな意味がある。

1.体への刺激を認識すること。感覚。知覚。
2.漠然とした感覚。感じ。
3.評判。さわぎ。

この詩をイメージして、夜のそぞろあるきのお供のサンドイッチをつくる。「さはやか」で、麦の香に酔い、ゆめみるような心うれしくなるもの。ビールにもワインにも合う味をめざした。

たどり着いたのは、パプリカを丸焼きにしてつくるうっとりと甘いマリネ「ペペロナータ」と、さっぱりとした鶏肉のサンドイッチ。ライ麦くるみパンとの相性がばつぐんで、麦の香りを楽しめる。

材料
パプリカ 2個
ライ麦パン(くるみ入りならなおよし)
ささみ4本
酒、塩、マヨネーズ、粒マスタード(あれば)、オリーブオイル、バルサミコ酢

作りかた
①(前日にやってもよい)ペペロナータを作る。パプリカにオリーブオイルをまぶしてオーブン200度で50分ほど焼く。冷水につけ、皮を剥く。塩、オリーブオイル、バルサミコ酢(お好みの酢で代用可)であえる。
②ささみに酒大さじ2、塩をまぶしてレンジで6分蒸す。さいておく。
③ライ麦パンを片面焼く。
④パンにマヨネーズを薄くぬり、ささみ、ペペロナータ、粒マスタードをトッピングする。

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さっぱりと、夜風にあう軽いサンドイッチ。パプリカのフルーツのような甘さに驚くことだろう。

作者について

アルチュール・ランボー、またはランボオ(Arthur Rimbaud)1854-1891フランスの詩人。早熟な天才で、15歳から詩をはじめ20歳で放棄するまでのわずか数年の間に、これまでの常識を覆す詩をたくさん作り、日本の詩壇にも影響を与えた。彼の人生をひもとくと、「放浪の神様」に取り憑かれているんじゃないかってくらい、子供の頃から大人に反抗して放浪を繰り返しており、身近にいたら厄介だけど詩人の人生としてはおもしろい。興味あればぜひ調べてみてください。詩人ヴェルレーヌとのからみが、ゴッホとゴーギャンのよう。

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