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【読書感想文】羅生門 芥川龍之介


本日は芥川龍之介の代表作「羅生門」の読書感想文です。

中学生の国語の授業にありそうな
●場面をとらえよう
●心情をとらえよう
を丁寧に分析し、それを元に僕なりの私感で感想文をまとめてみます。


①あらすじ

時は平安末期。
ある日の夕方。雨が降っている。
一人の下人が羅生門の下で雨宿りをしている

地震や飢饉や疫病で京の街は荒れ果てている。
ここ羅生門も荒れ果て、いつしか生き場のない死骸が捨てられている。

下人は生きる為に盗人になるしかないか。
盗人になるくらいなら飢え死にをとるか。
右の頬にできた大きなニキビを気にしながらぼんやり雨の降るのを眺めている。
下人は四五日前に主人から暇を出されている。
帰る当てもない。

迷いのまま楼に登ると上には怪しい老婆が死体から髪の毛を抜いている。
下人は老婆を捕まえて「何をしているのだ!」と問い詰める。
「髪の毛を抜いて鬘にする。」と。
「この死体の女達も人を騙して生き抜いて死んだ連中だ。」と。
老婆は悪びれる事もなく答える。
下人は老婆の言葉で今まで迷いが消え、心が決まる。
「それならば、俺も同じだ。お前も同じだ。」
と老婆の着物をはぎ取る。
下人の姿は京の夜に消える。

という物語。


②ポイント

この短い物語のポイントは、刻々と揺れ動く下人の心の変化であろう。

1.迷いの心
場面:羅生門で雨宿りをして階段を登る。
心情:盗人になるか飢え死にをとるかを迷う。

2.恐怖と好奇心
場面:階段を登るとなにか得体のしらない猿のような老婆が怪しく動いている。
心情:六分の恐怖と四分の好奇心で息を殺して老婆を見つめる。

3.正義感
場面:階段を登ると老婆が死体から髪をむしる浅間しい光景を見た。
心情:この老婆のようにはなりたくない。迷わず飢え死にを選ぶ!という正義の心。

4.優越感と満足感
場面:老婆を組み伏せた下人は、老婆の生死を自分の意思が支配している現状に気づく。
心情:老婆の生死は自分の意思に支配している。という優越感と満足感。

5.失望
場面:老婆は死人の髪を抜く言い訳を始めた。
心情:老婆がありふれた普通のつまらない言い訳だったので失望し、再び怒りが湧いてきた。

6.勇気
場面:老婆が死人の髪を抜く言い訳を聞き終えた。
心情:この老婆が言う様に、誰もが生きるために不道徳の事でもやるのであれば。勇気が湧いた。
俺も、飢え死にではなく盗賊になる道を選ぶ!

そして
下人は老婆の着物をはぎ取り京の街に消えた。

③感想文。

ここからは私感を書いていきます。

とにかく芥川の文体が好きなのです。
この暗く重い物語の中に「Sentimentalisme」という単語を入れる事でその重さと世界観が広がりますね。

また言葉の使い方で気になった言葉があります。
「勇気」です。
老婆の言い訳を聞いて、下人は飢え死にではなく盗人となる決意をしました。
この心を「決心」や「決意」や「決断」ではなく「勇気」と記しています。
最初は違和感があったのですが、何度も読み返すに、「勇気」しかないと思うに至りました。
下人は盗賊になるか飢え死にするかの迷いはしますが、その潜在意識には「盗賊になろうとも生きる」という気持ちが強かったのでしょう。
いや、飢え死にを選ぶなど端っから選択する気はなかったと思うのです。
ゆえに、その老婆の言い訳は、そのまま自分が盗賊になるいいわけにもなり。
「よしやってやる」という「勇気」。
もっと言うなら「生き抜いてやる」という「勇気」が生まれたのでしょう。

その勇気は「善」と「悪」との境界線で。
「生」と「死」の狭間で「善」と「悪」も混濁します。
善とはなんで。悪とは何か。
舞台である羅生門そのものが、「生」と「死」の境界で。
羅生門の内側は京の都で、外側は魑魅魍魎たる荒野の世界なのです。
その京の都も荒れ果て、その境界線である羅生門は死体が捨てられ
「生」と「死」
「善」と「悪」
とは、ここ羅生門で力なく交差します。

ただ、死者から生者が物を盗り。
それをまた、ほんの少し強き者が物を盗ります。
そこに争いもありません。
まして殺人を犯す力もありません。
確かに強盗ではあるが強盗とも呼べる程の衝突もありません。
そこには諦めはあるだろうが恨みを感じる力もありません。
ただ弱弱しい命と命との物々交換のような客観性すら感じられるだけです。

ただ弱弱しい生への執着。
いや、最早、それは執着でもない気がします。
生への義務?
いや、義務でもない。
単なる生への惰性。
惰性の上に「善」と「悪」が交差します。

着物をはぎ取られた老婆は、何事もなかったかのように、死体から着物をはぎ取って着るに違いないでしょう。

下人の行方は、誰も知らない。
と結ばれますが。
僕は
「善」と「悪」の判断は誰も知れない。
と結びます。

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