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ショートショート なにがあってもこれからもずっと一緒だよ

私の彼はデザイナー。飾り棚に置いてみたくなる小物や、バッグにつけたくなるキーホルダーとか、彼のデザインするものはかわいくてメルヘンチック。女子ウけすること請け合いだと思う。自分の手でひとつひとつ心を込めて作ったものでいつか自分の店を持つのが彼の夢。

彼は作品が完成すると真っ先に私に見せ作品第一号を私にプレゼントしてくれた。その時の彼はそれはもううれしそうに目を輝かせて、なにからヒントをうけてどんなイメージでデザインしたかを熱く語ってくれる。私はいつだってうれしくなって彼の話を聞いた。

「この前二人で行った公園で四つ葉のクローバー探したのが印象に残っててさ。恋人同士が四つ葉のクローバーを探す幸せな姿をイメージして、四つ葉のクローバーの柄のポーチを作ってみたんだ。
ほら、女の子っていろんなものをポーチに入れるの好きじゃん。だから幸せを感じるものをこのポーチに入れてハッピーになれるように願いをこめたんだ。ブルーとピンクで作ってペアで持てるようにしてさ。どうかな?」
彼は嬉しそうに私に語ってくれた。人の幸せを願う優しさ、そんな彼が好き。
私もうれしくなって答えた
「かわいい~。このポーチ持ったら幸せになれそうな気がする~。四つ葉のクローバーには“幸福”と、もうひとつ“復讐”っていう花言葉もあるんだよ。十字架にはりつけの刑を連想させるから」
一瞬にして彼の顔から笑みが消えた。
「あ~、そうなの・・・」
その後、四つ葉のクローバーのポーチが商品化されることはなかった。

それからしばらくして、外出する機会がへり家で二人でディズニー映画のDVDを観て過ごすことが多くなった。外出しなくてもどこにいても、彼のインスピレーションは尽きなかった。
 映画を観て何かにひらめいたようで背中を丸くして夢中になってデザインを描いている。好きなことに夢中になれるなんて、そんな彼はステキ。ある日、彼は出来上がった作品を私に見せながらうれしそうに言った
「シンデレラの靴をイメージしてキラキラ輝くチャームを作ってみたんだ。ほら、揺れるたびに光のあたり具合でキラキラするだろ。これを持つことで理想の王子様に出会えるようにって願いをこめたんだ。もう商品名も決めたんだ。シンデレラチャームって。どう思う?」
こんなにきれいなものを作り出せる彼って素敵すぎて、私はうれしくてしかたなかった。
「ほんとキラキラしてきれい。これを持っていればいい出会いがありそうな気がする~。シンデレラの本当の名前はエラなんだよ。灰まみれになって掃除しているから継母にシンデレラってあだ名をつけられたの。シンダー(灰)とエラを重ねてシンデレラ、灰かぶりっていう意味なんだよ」
彼の目から一瞬にして輝きが失せた。
「あ~、そうなの・・・」
その後、シンデレラのチャームは商品化されることはなかった。

どうやら私の口からは言ってはいけない言葉がついつい出てしまっているようだ。自分では何がいけないのかわからないのだけど。彼の表情が曇っていくのを見て「あ~なにかいけないことを言ったんだな」って気づく。私の口からでる災いの言葉は彼の輝きや喜びを奪ってしまうようだ。

そんなことが続いたせいか、最近、彼は何かに悩んでいるみたい。思いつめた様子でいることも多くなった。
ある日、彼が新作を見せてくれた。黄色のバラが描かれたペーパーナイフ。
以前のようなきらめくような表情ではなく、伏し目がちで私の目を見ずに言った
「いつも作品第一号は君にプレゼントしていたから。これ、どうかな」
黄色のバラには“薄らぐ愛、別れよう”っていう花言葉があるし、ペーパーナイフとはいえナイフは“縁切り”を暗示する。ちょっと考えたけど、こう答えた
「かわいい~。黄色のバラには”献身”っていう花言葉があるし、黄色の花は金運をもたらすっていうし。それに刃物って神聖なもので縁起がいいものなのよ」
私は財布から5円玉をとり出した。
「ナイフをプレゼントされたときに5円玉を返すと、ご縁が切れないっていわれているの」
そう言って彼の手に5円玉をしっかり握らせた。その手は冷たくて、なぜか少し震えていた。

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