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父の作った梅干しお守り

父の趣味は園芸で、我が家の庭には盆栽、木、花やハーブにたくさんの緑があった。その中に梅の木があり、父は毎年梅の実をとっては梅干しを作った。私が海外旅行をする時はいつも「水が合わないとおなかこわすから、梅干し持っていきなさい。梅干しはからだにいいんだ。疲れもとれるから」とタッパーに入れて持たせてくれた。毎晩ホテルの部屋で、父の作った梅干し一粒をほうじ茶にいれて飲むとほっとしたものだ。

すごくしょっぱい梅干し。
ほっぺたがキュッとなる梅干し。
父が丹精こめて作った梅干し。
その梅干しがあればどこにいても健康でいられるんだと思っていた。

そのお守りのような梅干しを作ってくれる父はもういない。もう梅干しは増えることはない。もったいないからといって食べないのは父に申し訳ない。父が家族の健康を思って作ってくれたものだから、その思いをありがたく頂戴してこそ父も喜ぶってものだろう。そうは思ってもなくなってしまうのは淋しいので、一度に食べるのは一粒の半分だけ、大切に食べていた。

父が逝って数年、家を建て替えることになり、家中の荷物の片づけをしていた。すると、屋上の倉庫、納戸の奥、父の書斎の棚の奥などいろんなところから、梅干しの入った壺が次から次へと出てきた。
それはもうたくさん。驚くほどたくさん。笑ってしまうほどいろんなところからたくさん。しかも大きな壺。
「きっと家族みんなの一生分あるね」

鶏のささみのゆで汁に父の梅干しをいれるだけで最高においしいスープになった。きっと愛情という調味料が奥深い味にしてくれたんだろう。

父が作った梅干しは、愛情の結晶。
家族の健康と幸せのお守り。そして、
亡き父のぬくもりを感じられる宝物。

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