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11/18 やさしい音色

今日は朝から野暮用でお出かけ。気分がちょっぴり沈んでいて、でも、朝日を浴びて歩いたら少しは明るくなるだろうと、とりあえず外に出てみた。

用事を済ませて、とぼとぼとぼ、と歩く。気分はさほど変わらない。なんだかどんな考えもすぐにネガティブに結びついちゃって、どんどん膨らみそうでどうにもならない。こんな日は思考の強制ストップをかけるしかない。無。無になろう…無……無………

そんなこんなでイヤホンをしてうつむき気味に歩いていたものだから、通りすがりのおばあちゃんが「おはようございます」と挨拶してくれたのに、私は過ぎ去り際まで気づかずに、結局無視をしてしまった。あぁ〜…プチ罪悪感。

心が開いていれば、前を向いて歩いていれば。ほがらかに笑顔で返せたかもしれないのに。今日はなんか、ダメな日だな〜…(ほらすぐネガティブがやってくる)そこはかとない悲しい気持ちを感じながら、なんとなくの足取りで住宅街の路地を曲がってゆく。

すると。

あるお宅から優しいピアノの音が、イヤホンを通り越して耳にとび込んできた。そのまま通り過ぎようとしたけど、あれ?と思って振り返って、そのお宅の表札を見てみる。

あ…!!ここ知ってる!
私が通ってたピアノ教室だ…

知ってる名前。知ってるお家。知ってる音色。もう30年近く前の幼い私が通っていた、小さなピアノ教室。住宅街の一角にあって、当時その場所には毎週歩いて通っていたのだけれど、今となっては場所の記憶も曖昧になっていた。そして大人になってからは、その場所を思い出そうともしていなかった。きっとピアノの音色が聞こえてこなかったら、今日も私はうつむいたまま通り過ぎたんだろう。

なんだか急にタイプスリップした気持ちになって、今のナイーブな心と重なり、ひとり、うるうるした。

ゆっくりと穏やかな音色で、ハナミズキが聞こえてくる。

そのピアノ教室の先生は、いつでもやさしかった。引っ込み思案で大人しくって、ずーーーっとまともに喋らずに、もじもじし続けていた幼い私を、いつもニコニコ笑顔で迎えてくれた。

その先生が、今でもピアノを弾いている。うれしいという言葉では伝えられないような、まるくてあったかい気持ちと、漠然とした時の流れを感じて切なくなる気持ちで、ネガティブとは違う、ぐるぐると渦巻く感情で心がいっぱいになった。

穏やかでやさしい音色をずっと聞いていたかったけれど、なんなら、チャイムを押して先生に会いたくなったけれど、私は一瞬立ち止まった足をまた動かして、そのまま家路についた。

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