とある妊婦の脳みそ【11】再び安静、でも今しかない! ―おわりに
そんなわけで甘いものの誘惑ともなんとかつきあいながら、体重管理のため意識的に外へ出て歩くようにしていた、妊娠中期から後期。
スーパーでの買い物もあえて小分けにして毎日出かけるようにしたり、家の掃除に力を入れてみたり。
クラウドソーシングで仕事をいくつか受けていたのもこの頃。歩いて撮影現場へ向かったり、家での作業も座りっぱなしにならないよう、時折はスタンディングデスクでやるようにしていたりした。
体重管理のために、すべてよかれと思ってやっていたこと。
しかしそれが裏目に出て、妊娠8ヵ月後半の健診で子宮頸管が短く早産の危険性がある(切迫早産)と言われ、再びの自宅安静指示が出てしまう。
(ええーーーーっ! そんなぁぁ!!)
動かなければ動けと言われ、動けば動くなと言われる、この難しさよ。
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ちなみに子宮頸管というのは、赤ちゃんが産まれるときに通る、子宮と膣を結ぶ部分のことだ。
本来は出産が近づくまで、赤ちゃんが出てこないようにと閉じている子宮頸管が、徐々に開いて短くなり、開ききってしまうと、赤ちゃんが未発達のまま早産となってしまうという。
その危険性がある状態を切迫早産というのだが、切迫早産による安静で入院生活を送っていたり、自宅安静生活を送っている妊婦さんも、実はたくっさん、いる。
このあたりは『とある妊婦の脳みそ【2】大勢いるのに知られてない『安静妊婦』というポジション』で書いたとおり。
外に出られないから、見かけない。
病院や自宅から出られないから、身近な人以外にはその存在が知られていないだけなのだ。
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というわけで、私もお腹の張り止め薬を処方されるとともに、再び自宅安静の日々がはじまった。
だが私の場合、このときは初期の絶対安静に比べれば軽度の指示。
外出は基本的にNG、横になっているのが望ましいが、家事は15分や20分の小分けにして休み休みながらならばOK、入浴も短時間であればOK、というようなものだった。
ただ実際は、家事をしているとすぐにお腹が張り、横になって休まなければならないので、なかなか思うようには動けないのだけれど。
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いやはやしかし、太りすぎるなと言われて動いていたら、今度はひたすら動くなと言われ、無事早産の危機をのりこえて臨月を迎えれば一転して今度はまた運動しなさい! むしろ散歩じゃなくてジャンプね!などと言われる。
ああ、難しい。
「えーい、いったいどうしろと!?」と、叫びたくもなるのだが、これは個人の体質次第で、同じような行動をしていてもまったく問題ない人もいれば、さらに重度のリスクを負う人もいるので、状況に応じてそれを受け入れるしかない……らしい。
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妊娠期間中、何度も繰り返し思い知らされたことは、「本当に、ひとりのからだではないのだなぁ」ということだ。
初期に出血してしまったときも、PCに向かって夜遅くまで作業をしていたときだった。
独身時代は当たり前のようにやっていた「自分個人の感覚では無理をしているわけではなく普通のこと」が、本当に、取り返しのつかないことにつながってしまう危険があると初めて知り、背筋が凍った。
今回の安静もしかり。
初期の経緯があったから、体調回復後に単発で仕事を受けるにしてもあくまでほんの少しだけ、しかも負荷の少ないものだけを、と厳選して受注し、「無理をしているつもりは自分の意識としてはまったくなかった」のに、結局安静へとつながってしまった。
もちろん仕事だけではなくて、当たり前のようにやっている家事や、外出、散歩など複数の要因があっただろう。
ただどれをとっても、自分では「何も問題ない、無理はしているつもりはさらさらない」ことばかり。
それなのに、からだには影響が出てしまう。
自分以外の命を危険にさらしてしまう。
本当に、ひとりのからだではないのだな。普段とは同じ感覚ではいられないのだな、と思う。
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「軽度の自宅安静なんて入院でもあるまいし、PCで文章書くくらいむしろ格好の環境なんじゃないか?」
そう思う方もいるだろう。
実際私も、自分がこの状況になるまではそう思っていた。
おそらくnoteに向かうような方の大勢がきっとそうであるように、タイピングなんて、無意識的に、息を吸って吐く、くらいの感覚でできていると思っていたからだ。
でも本当は、こうやって脳内でいろいろと考えたり、それを固定された姿勢で文章としてつむいでゆくだけで、無自覚ながらいろいろな負荷がかかっているらしいのだ。
「9ヵ月に入ったらそろそろ仕事も一区切りをつけて、ゆっくりと妊婦体験をまとめておこうかな〜!」。
8ヵ月の頃はそんなふうに考えてやる気満々!だったのだが、安静指示が出てしまうとまた無意識に負荷をかけてしまうのが怖くなり、PCを開こうとは思えずに、ひたすら寝てばかりいた。
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横になりながらも、(本当は店頭であーだこーだ見て揃えるはずだった)ベビーグッズをスマホ片手にネット通販ですべて揃え、なんとか気力を保ちながら1ヶ月の安静を経て、ようやく臨月に入るころ。
おかげで健診でも経過順調と言われ、今しかない、と思い立った。
奇しくもそのタイミングで、夫は10日間の長期出張。
臨月間近、いつ何が起きるかもわからないので心細すぎるが、逆にいえば家事が減り、時間にはさらに余裕ができる。ここで誰ともしゃべらず、本当に何もしない日々が続くなんて、とうとう脳みそ溶解の危機だ。
そして臨月に入れば、もういつ産まれてもおかしくない。だが妊婦の脳内記録は、こうやってまだお腹に赤ちゃんがいて、リアルタイムで胎動を感じたり、内臓の圧迫を感じて苦しかったり、腰痛を感じている今、この状態のときに書きたい。
きっと産まれてしまったら、妊婦の経験は遠くの思い出になってしまって、今以上の精度では絶対に書けないだろう。というよりむしろ、日々の子育てに奮闘してそんな気力と体力がないだろう。
そんな思いに背中を押されるようにして、妊娠初期からの記憶をふりしぼり、一気に書いたのがこの『とある妊婦の脳みそ』である。
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実際書き始めてからも、まぁ筆の進まないこと。
妊娠前なら、控えめに見積もっても1日あたりに書ける量が今の3、4倍はあったろうと思う。
それが、安静による体力低下や、同じ姿勢を続けることでの背中や腰へ痛みが出てくることもあり、当時まともにPCに迎えるのは30分くらい。
自分でもびっくりするほど、疲れやすい。
1時間もPCに向かって集中しているとぐったりしてくるので、赤ちゃんに何かあっては大変と、また横になって休む。そんなことを繰り返しながら書いていた。
(※最終編集をしている今は、すでに臨月の「どんどん運動しなさい!」期間なので、当時からは体力もだいぶ回復しました、腰は痛いけど!)
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そんなわけで、『とある妊婦の脳みそ』、閉幕です。
まだ産まれないでね、まだもうちょっとだけは妊婦でいさせてね、とお腹の子にお願いしつつ、焦りながら、頭に思い浮かんだことをつらつらと綴っていた、とりとめのなさすぎる文章にここまでお付き合いいただいた方。
もしいらっしゃったら、本当にありがとうございました。
妊婦って、おもしろい。生物ってすごい。
大変さもありますが、以前は想像もできていなかった、未知なる新しい世界に出会えた、という素直な感動がたくさんありました。
出産のほうが壮絶、子育てのほうが大変なのに何をのんきなことを。おっしゃるとおり、確かにそうだろうと自分でもツッコミをいれたくなります。
でもまぁ、だからこそ、妊娠生活中に体験したことや考えたこと、思い知ったこと、感動したことを書くなら、出産前にしたかった。
きっと出産、産後は、また未知なる世界との出会いの連続で、今の気持ちなんてものははどんどん薄まってしまう気がするから。だから今のうちに、「真空パックで保存して」おくのです。
なんとか間に合って、よかった(笑)。赤ちゃん、ありがとう(だからもうそろそろ出てきておくれ〜)。
男性も女性も、老いも若きも。
できれば以前の自分のような、毎日忙しく働いて妊婦と縁遠い毎日を忙しく過ごしている方にこそ、「へー、ほー、ふーん( ´_ゝ`)」と、未知なる世界の存在がちょっとでも届いていたらうれしいです。
(おわり)
自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。