とある妊婦の脳みそ【5】地味にツライ!妊婦とマイナートラブル
いま妻が妊娠中という方。または、今は独身でも既婚でも、いつの日かその可能性がある方。
ひとりでもそんな誰かの目にとまり、その夫婦円満にほんのちょっとばかし貢献すればいいなと思い、この地味なトピックを書こうと思う、うん。
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妊婦経験のある人には常識でも、実際に自分が妊婦になるまではまったく知らなかったことのひとつ。
それは、頻発するマイナートラブルの存在である。
マイナートラブルとは、妊娠することによって起きるさまざまな不快症状のことをいうそうだ。例えばつわりや頭痛、不眠、貧血、頻尿、腰痛、便秘、足がつる、動悸息切れなどなど、症状はさまざま。もちろん、すべてが全員に起きるわけではなく、症状の有無やその程度には個人差がある。
そしてマイナートラブルは、……地味だ。
なぜなら、“大きくなるお腹”は目で見て共有しやすいが、マイナートラブルのほとんどは「パッと見ではわからない」症状ばかりだからだ。
そしてその地味さがゆえに、「こんなにいろいろつらいのに、アナタは全然わかってくれない……!」となる妊婦さんも多い(笑)。
というわけで、今回は地味すぎる数々のマイナートラブル体験について、あえてスポットを当ててあげたい。
淡々と時間軸で体験を振り返っているので、単調でつまらないかもしれないが(その淡々とした地味さこそがマイナートラブルらしさでもあるのだけれど)、よかったらのんびりとお付き合いを。
いま妻が妊娠中という方、いつの日かその可能性がある方はとくに、知っておくときっといつか、家庭平和の一助となるに違いない(?)。
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(※いつものように、ここからは私の個人的な体験となります。人によって本当に千差万別なので、あくまで一例としてご笑覧ください)
まずは妊娠初期。
自宅安静となり、つわりともたたかっていたころ、私が同時に苦しめられていたのが脳貧血や息苦しさだった。
寝たきりや食欲不振で体力が落ち、血圧が低かったことも関係していたのかもしれない。食事をとるためにと上体を起こすだけでも、気持ちが悪くなることが多々あった。
「今日は大丈夫かも」と椅子に座った姿勢で何かを食べると、消化のために血液が胃のほうへいくのか、食べ終えるころには頭からサーッと血の気がひいて気持ちが悪くなり、息が吸えない感覚というか、苦しくなる。
「あ、座るのダメだ。なんか空気、薄くない……? 横になる……」
とつぶやきながら、ソファまで向かう力すらなくダイニングの床にぐだり、と寝転がって深呼吸を繰り返す自分は、今思うと夫にはなかなか謎だったろう。
他にも、膀胱が圧迫されはじめるのか、頻尿になって毎夜必ず起きてしまうようになったり、それまではあまり縁がなかった便秘体質になったり、肌ががさがさになったり。妊娠前にはなかったトラブルが続々とあらわれた。
自分のからだが妊娠前の「通常運転」の状態から「妊娠中」というモードにカチッと切り替えられ、体内システムが勝手に組み替えられていっている、そんな感じ。
何事も、一大プロジェクトにトラブルはつきものということか。
自分の意志とは無関係に変わりゆくからだに、人体の不思議を感じていた。
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中期になると、安静指示も解除され、つわりもおさまったおかげで、なんとか人間らしさを少しずつ取り戻した。
初期や後期と比べ、いわゆる“安定期”といわれるのがこの時期。
確かに他の期間と比較すると動きやすい時期ではあったが、安定期でもやっぱり人によってマイナートラブルはある。
私が一番驚いたのは、ある日、夜寝ようとして布団に入るときに何気なく足に触ったら、足の小指の爪がペロン、と1枚丸々はがれたことだ。
「……!?!?!?」
しかも痛みはまったくない。
(逆に怖い!)
と思い検索してみると、妊娠中は胎児へ栄養が優先的に送られるため、栄養不足になって爪が割れやすくなったりときには剥がれたりすることもあるらしい。
確かに、思えばようやくつわりから解放されてしばらくたった頃だったので、つわり時の栄養状態を思えば頷けた。
診断を受けたわけではないのであくまで推測だけれど、足の、小指の、爪、とはわかりやすく末端の末端。そんなからだの端っこまで栄養が行き届かなかったのかもしれない。
とりあえずバイキンが入らないように絆創膏でカバーして毎日を過ごしていたら、ゆっくりゆっくり、4、5ヵ月ほどで新しい爪が再生した。
ああ、ホッとした。。。
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そして中期の終わりから後期にかけて。
このころになってくると、お腹が大きくなるにつれて、またさまざまなマイナートラブルに悩まされるようになる。
まずは、腰痛。
お腹が大きくなることで重心が前に移動すると、骨盤や腰椎が前方に傾くため、からだは倒れないようにバランスをとろうとして、常に背中や腰の筋肉が張った状態になるのだとか。
自然とそんなふうに変化してゆくのだから、からだはやっぱり、うまいことできている。
ただ、そうは言っても、痛いものは痛い。
「腰いたい……」とうめきながら、地面に四つん這いになり、腰痛に効果的と聞いたマタニティヨガの猫のポーズなどをしてしのいでいた。
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そして、一時期毎晩苦しめられた、足のつり。
これも、お腹が大きくなってくることで血管が圧迫されて血行不良を起こすことや、骨盤のゆるみなどが関係して、足がつりやすくなるのだという。
私の場合は中期の終わり頃、毎日のように夜中、足がつるという時期があった。徐々に気温もさがってきたころだったのに、まだ夏の延長でシャワーのみですませていたことも一因だったのかもしれない(その後毎日湯船で入浴するようになってから、そういえば足をつっていない)。
わかった。足がつることはわかった。受け入れよう。
けれど妊娠中、足がつって何がつらいって、その対処である。常時であれば足をつっても、すぐに足の親指に手をかけて引っ張り、解消できるのだが……。
真夜中、ふとした拍子に無意識に伸びをして、足が「ピキッ」となる。(ああ、またやっちゃった!)と思い、激痛に悶絶しながら、足の親指に手を伸ばそうとするのだが、なにせお腹が大きく圧迫すると苦しいので、どうにも届かないのである。
「うぐっ、うぐぐっ」ともだえながら、足に手を伸ばして触ることはできても、なかなか思うようには引っ張れない。なんとなく親指に触って、気休め程度になんとなく引っ張って(?)、耐え忍ぶ。
まるいお腹を抱えながら、必死でころころのたうち回るその絵は、客観的にみたらそうとう面白いに違いない。
激痛にもがきながら、一方でどこか冷静な脳内では「ああこの図、笑えるわぁ……」とぼんやり思いつつ、すやすやと気持ちよさそうに眠る夫を横目に、自分の足と格闘する夜が続いた。
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そして後期に入ってから長らく続いたのが、胃の圧迫による苦しさ。
ちょっと食べるとすぐ、お腹が苦しいのだ。
だってほら、想像してみてほしい。
自分の胴体の長さは変わっていないのに、子宮が大きくなり、その中ではなんと人間がひとり、毎日すくすくと成長しているのだ。当然、いろいろな内蔵が圧迫される。
ただでさえ身長の低い私は、いくら胴長短足だといえども、それは比率の問題であって、そもそものスペースは狭そうだ。
そこへ、人ひとり。さらに食事で食べものや飲みものが入ってくると、お腹はパッツパツ、中の体積はきっちきち。限られたスペースに押し込まれる通勤満員電車のイメージが脳裏をよぎるくらいには、苦しい。
私は以前書いたように食べることが好きなので、目の前に美味しそうなものがあると後で胃が苦しくなるということも忘れ、口と脳が求めるままに食べてしまったりもする。
だがちょっとでも食べ過ぎると、その後が大変なことに。
「ふぅー、ふぅ……」と深呼吸を試みながら、「く、くるしい……」と10分前の自分を責める(笑)。なかなか学ばない。
おいしいものをどんどん食べたがる私の口と、苦しい胃と。何度も身をもって失敗を繰り返しながら、自分のからだとうまくつきあえるようになるまで、なんとまぁけっこうな時間がかかった。
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長くなってしまったけれど、だいたいこんな感じだろうか。
いや、本当は便秘や頻尿や痔なんて、トイレまわりでもいろいろ悩みはつきないし、中期以降は血液検査で貧血を指摘されて鉄剤も飲んでいたし、まだまだ書けることはたくさんある。
だが、そのあたりはわかりやすいと言えばわかりやすい症状なので、今回は個人的に「わかりにくいが、地味につらい」マイナートラブル体験について書いてみた。
くどいくらい繰り返しているけれど、本当に、自分の意志とは無関係に、日々からだが変わってゆく。人の命を育てるための大変動なわけで、そりゃあ負担もかかれば、いろいろなトラブルも起きる。
だが、私自身も以前は何もわかっていなかったように、体験してみないとなかなか実感できないものだ。それはしょうがない。
けれどわからないなりにも、理解しようとする姿勢(ポーズじゃなく、本気でね!)を見せてくれるだけでも、当事者は救われるものだ。
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というわけで世のダンナさま、将来ダンナさまになる皆さま。
想像力をフル稼働して接してみると、きっと奥さまから感動されることでしょう。Good luck!
自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。