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あなたがオイシックス・ラ・大地の社長ならどのような経営戦略を取るか?

昨年、EC業界トップのAmazonとスーパー事業を運営するライフが生鮮食品のオンライン販売(Prime Now向け)で協業すると発表されたり、生産者から消費者が商品を直接購入できるC2Cマーケットプレイスを運用するスタートアップ企業「ポケットマルシェ」や「ビビッドガーデン(食べチョク)」が資金調達したり、食品物流のIT化が進んできています。

また、以前のnote「SaaSサブスクリプションビジネスモデルの事業計画KPIシミュレーション」にも書いた通り、サブスクリプションのビジネスモデルが注目を集めています。

今回は、国内の食品通販業界トップクラスでサブスクリプションモデルを展開しているオイシックス・ラ・大地について、もしもあなたが高島 宏平社長だったら、どのような経営戦略を取るか、一緒に考えてみましょう。

オイシックス・ラ・大地の基本企業情報

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2000年に高島宏平 社長がオイシックスを設立し、2013年マザーズ上場後、「大地を守る会」と「らでぃっしゅぼーや」を買収して現在のオイシックス・ラ・大地の商号へ変更されています。

従業員数は2019年3月末時点で670名(連結)となっており、農産物や加工食品などのサブスクリプション型EC事業を運営しています。

オイシックス・ラ・大地のビジネスモデル

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オイシックス・ラ・大地のビジネスモデルを見てみましょう。

従来、農水産物の流通は、生産者から農協などを通して卸売市場に出荷され、卸売業者へ渡ります。生鮮食品はスーパーなどの食品小売業者へ渡り、加工食品は食品製造メーカーや食品卸売業者を経て食品小売業者へ流通します。そして、一般消費者が食品小売業者を介して購入します。

一方、オイシックス・ラ・大地の場合、卸売などの仲介業者を挟まず、生産者から直接買い取り、実店舗を持たずにECを介して消費者が購入できるので、非常にシンプルで効率的なサプライチェーンに見えます。

また、サブスクリプションモデル(定期購入モデル)を採用することで、消費者との継続的なタッチポイントを増やしたり、商品の売上予測を立てやすかったり、より効率的な経営スタイルを実現しています。

企業買収を主軸に様々な方向性を展開

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沿革を見ると、大地を守る会(生鮮食品EC)、らでぃっしゅぼーや(生鮮食品EC)をはじめ、ウェルネス(花とグルメのギフトEC)、とくし丸(シニア向け移動スーパー)、ふらりーと(シェフとユーザーのマッチングサイト)、CRAZY KITCHEN(オーダーメイドケイタリング)、Three Limes(ビーガン食ミールキット宅配)など食に関する企業買収に積極的であることが分かります。

また、百貨店やスーパーなど実店舗の食品売場における販売、香港・中国・アメリカといった海外展開、他社の宅配ECサイト運営支援など、様々な方向へ展開しています。

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売上推移は、右肩上がりに成長していますが、「大地を守る会」と「らでぃっしゅぼーや」を子会社化したことで、売上が急成長しているのが分かります。

生鮮食品ECの競合企業を買収した現在、次の成長戦略が求められているとも言えるでしょう。

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営業利益も買収によって急成長していますが、最大5%まであった営業利益率は2〜4%弱にやや減少しており、らでぃっしゅぼーやの赤字配送ユーザーの見直しなど、買収後の経営効率化を進めています。

当期純利益はずっと黒字化しており、収支バランスを意識した経営が取られています。

オイシックス・大地を守る会・らでぃっしゅぼーやの有料会員数とARPU推移

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セグメント別の定期購入会員数の推移は、オイシックスが20.6万人、大地を守る会が4万人、らでぃっしゅぼーやが6.3万人で、オイシックスが3分の2を占めています。また、会員数の伸び率も大地を守る会とらでぃっしゅぼーやは減少していますが、オイシックスは前年比20%以上も伸びていて、主力ブランドになっています。

一方、ARPU(会員1人あたりの月購入単価)は、大地を守る会が約2万円、らでぃっしゅぼーやが約1.7万円であるのに対し、オイシックスは1.1万円程度です。これはオイシックスが大地を守る会よりも購入頻度と1回あたりの購入単価が低いことに起因しています(購入頻度:大地を守る会は約月2.5回、オイシックスは約2回、1回あたりの購入単価:大地を守る会は約7700円、オイシックスは5900円)。

大地を守る会のターゲットセグメントは、比較的高齢で品質をより重視する層であるのに対して、オイシックスは比較的若い層をターゲットとしていることが、このようなKPI指標の違いに表れていると考えられます。

主力事業へ成長するオイシックス

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セグメント別の売上シェアを見ると、オイシックスが46%とオイシックス・ラ・大地全体の約半分を占めていることが分かります。

限界利益(のれん償却費の影響を控除した事業利益)のシェアもオイシックスが40%以上を占めています。

時短ミールキットが主力商品

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共働き世帯が増えている時代背景もあり、時短ミールキットコースの会員数が非常に伸びていて、’19年は11.1万人(オイシックス・ラ・大地の会員数全体に占める割合:約36%)にまで増えています。

ミールキットであれば、食材の付加価値を高められるだけでなく、冷凍によって保存期間を伸ばせたり、生鮮食品だと難しいサイズ規格の統一やコンパクトにまとめられたりして、物流面でのメリットも小さくないでしょう。

競合他社もミールキット商品開発に参入してきていますが、オイシックスもNTTドコモと協業し、NTTドコモが持つ顧客基盤を活かして販路を拡大しようしています。

食品通販の競合企業との売上比較

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食品系通販サービスを運営している競合各社のサービス売上を見てみましょう。

ミールキット宅配サービスを運営するヨシケイ開発が売上800億円で業界1位になっていて、それに続きオイシックス・ラ・大地が640億円で2位につけています。

ヨシケイ開発はミールキットのメニュー作成や商品開発を主軸として、全国にフランチャイズ(65社)展開しており、約50万世帯の会員がいる老舗企業です。

一方、大手スーパーのイオン、イトーヨーカドーとセブン・ミール(合算では約748億円で2位になる)や、巨大グローバルEC企業のAmazon(アマゾン)も迫ってきているので、オイシックス・ラ・大地としては安心はできない状況です。

ユニーク商品で高価格帯を強みとするオイシックス・ラ・大地

オイシックスとネットスーパー(イオン)のサイトに掲載されている一部の食材同士の単価を比較しました。

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オイシックスの商品単価はネットスーパーと比較して、平均2〜3倍程度高いようです(最小:1.3倍、最大:7.9倍)。

生鮮食品は商品の差別化が難しく、家電製品などと比べるとサイズがかさばるわりに粗利も低くなる傾向がありますが、オイシックスは「とろーり食感のトロなす」や「甘いみつトマト」など、聞くと一度は食べてみたくなるようなユニークな商品を見出すのが上手く、サブスクリプション型のビジネスモデルも相まって、高価格帯の商品でも売れる仕組みを作っているのが強みと考えられます。

実店舗型スーパーの規模はまだまだ巨大

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全国展開している総合型大手スーパーのイオンやセブン&アイHDのスーパー事業の売上は、それぞれ3.2兆円、1.9兆円で他社を圧倒する大きさです。また、各地域に基盤を持つスーパー各社の売上も数千億規模の企業が多い状況です。

スーパー各社の売上規模と比較すると、オイシックス・ラ・大地の規模はまだまだ小さいです。近年、一般的なスーパーでは置いていないような珍しい商品が多く、関東を中心として人気が高まってきているローソン傘下の高級スーパー「成城石井」も、売上は867億円で他社と比べると決して大きい規模とは言えないでしょう。

より一般家庭に受け入れられるようにするためには、高単価商品のみの取り扱いだけではスケールする上で限界がありそうです。

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オイシックス・ラ・大地の営業利益率は、スーパー各社と比較すると平均的な値ですが、営業利益ベースだと、大手スーパー各社とはまだ差が大きいことが分かります。

成長途上の飲食料品EC市場

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実店舗型スーパーの規模が大きいのは、食料品小売のEC化がまだ発展途上ということですが、実際、食料品のEC化率は2018年時点で2.6%しかありません。食料品のEC化率は年7〜10%程度成長していますが、物販系のBtoC-EC市場におけるEC化率6.2%と比較しても半分以下です。

食品小売市場のチャネル別シェアを見ても、スーパーだけで50%、コンビニと合わせると67%を占めることが分かります。

特に生鮮食品は、消費者が実物を見て鮮度などを確かめた上で、購入したいという心理がまだ強いのだろうと推察されます。

リーズナブルで多種多様な商品ラインナップを揃える食品通販がメイン

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次に食品通販の中でチャネル別市場規模を見ていくと、オイシックス・ラ・大地が得意とする自然派食品宅配のシェアは2%で、食品通販の中でもニッチな市場であることが分かります。

一方、Amazon、楽天市場、ロハコなどが属するショッピングサイトや生協は、リーズナブルな価格の飲料や加工食品なども多く、マス市場の多種多様なニーズに応えられる商品ラインナップを揃えることで、高いシェアと成長率を維持できていると考えられます。

消費者が食品ECを使うメリットの一つとして、時間と場所を選ばずにインターネットのみで商品を購入でき、実店舗に足を運ぶ煩わしさから解放される点が挙げられますが、ほしい商品が一つでも欠けてしまうと実店舗まで行かなければならず、ECのメリットが十分に享受されません。様々な消費者ニーズに応えられるような商品を揃えることで、ECを利用してもらうメリットを感じてもらいやすくなります。

また、Amazonも品揃えが事業の根幹と考え、調達力の強化は継続して取り組むべき課題としていることからも、大きな市場を狙うのであれば、商品ライナップの重要性は高いと言えるのではないでしょうか。

増加する加工食品へのニーズ

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国内消費に占める生鮮食品と加工食品の割合を比較すると、生鮮食品は昭和55年には39.3%あった割合が平成23年には24.3%にまで減少しており(15.0ポイント減少)、一方の加工食品は75.7%にまで増加しています。

加工食品の割合が増えている要因として、ミールキットが人気である背景と同じように、共働き世帯や単身世帯が増えており、まとめ買いしやすかったり、手軽に食べられるものが望まれていることが挙げられそうです。

競合大手各社の食品ECの取り組み動向

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競合大手各社の食品ECの取り組み動向を見ていきます。

Amazonは日本ではライフコーポレーション、フランスではMONOPRIX(モノプリ)、イギリスではMORRISONS(モリソンズ)など、既存の大手スーパーと協業することで商品ラインナップを強化し、自社の物流や認知度の強みを活かして参入しています。

イオンはネットスーパーを展開していますが、イギリスのネットスーパー大手Ocado(オカド)と業務提携し、物流を強化する計画を打ち出しています。そして、全国展開スーパーとしての豊富な商品ラインナップと顧客基盤を活用することで攻勢をかけようとしています。

ウォルマート傘下の西友も楽天のネットスーパーと統合し、西友の商品数と楽天の顧客基盤、楽天ポイントを活かそうとしています。

セブン&アイHDは店舗出荷型のイトーヨーカドーネットスーパーなどを展開していますが、以前アスクルと提携して運営していたセンター出荷型の「IYフレッシュ」はサービスを終了していたり、ローソンの「ローソンフレッシュ」やサミットの「サミットネットスーパー」といった他のセンター出荷型ECサービスも終了しています。

このことから、通常の生鮮食品など単なる低粗利率の商品を一般的な物流の通販サービス上にのせただけでは事業を継続・成長させることが難しいという食品ECサービスの課題が浮上してきます。

また、大手各社の取り扱い商品数は1万点以上を有しており、オイシックス・ラ・大地全体での取り扱い商品数5,000〜6,000品(オイシックスサイト:約1900品、らでぃっしゅぼーやサイト:約1600品(非食品含む)から推計)をはるかに超える商品数となっています。

オイシックス・ラ・大地の経営課題は何か?

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オイシックス・ラ・大地の経営課題を考えるために、これまでの状況を整理してみましょう。

オイシックス・ラ・大地は、「大地を守る会」や「らでぃっしゅぼーや」をはじめ、食に関する企業をM&Aしていくことで成長を加速させてきました。また、厳選したユニークな商品を見出し、市場に投入することで差別化が難しく、低単価になりがちな生鮮食品でも高価格帯セグメントを獲得してきました。最近は、半調理品の時短ミールキットが人気で成長著しい分野になっていますが、大地を守る会やらでぃっしゅぼーやのM&Aほどの成長インパクトを出すのは難しそうです。

食品小売の競合に目を向けると、実店舗の売上がまだ主力で規模も大きいです。大手各社は食品通販ビジネスにおいても、飲料や加工品などせいせんしょくひリーズナブル価格で消費者の多種多様なニーズに応える豊富な商品数で攻勢をかけてきています。

食料品小売市場の動向として、EC化は進んできており、食品EC市場の成長余地は大きいです。共働き世帯や単身世帯が増えるにつれ、惣菜や加工食品など手軽に食べられる食品の成長率が高い状況です。

以上のような経営環境におけるオイシックス・ラ・大地の経営課題として、「どのようにしてマス市場のニーズに応える付加価値商品を拡充させていくか」が挙げらるのではないでしょうか。

オイシックス・ラ・大地の経営戦略の方向性

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オイシックス・ラ・大地の経営課題を解決する経営戦略の方向性として、①非生鮮食品の拡充、②大手スーパー・コンビニ傘下に入る、を挙げたいと思います。

1. 非生鮮食品の拡充
非生鮮食品を拡充する上で、大手食品メーカーとの提携・協業するのが良いと思います。

オイシックス・ラ・大地が得意とする商品企画・開発と大手食品メーカーの生産供給力を活かして、非生鮮食品(加工、冷凍、ミールキット、健康サプリ、ダイエット食品など)のコラボ商品を拡充させていくことで、マス市場の消費者ニーズにも応えられるようにします。

共働き世帯、単身世帯、シニア世帯、栄養バランス別の商品など、大手食品メーカーと組むことで世帯形態に応じた商品開発の幅も広げられるかもしれません。

また、消費者がメリットを感じやすい加工プロセスを経て、高付加価値商品を増やすことで「価格が高い」という感覚が生じにくいようにできたり、生鮮食品の物流面課題(鮮度管理、低粗利、サイズ規格など)も軽減できるのではないでしょうか。

自然派食品宅配や高価格帯のブラントイメージとの乖離が起こりうるので、ブランドを分けた展開(例えば、dミールキットのみに展開)をした方が良さそうです。

2. 大手スーパー・コンビニ傘下に入る
もう一つの方向性としては、ローソンやセブン&アイHDなどの大手スーパー・コンビニの傘下に入り、豊富な商品供給力や経営資源を味方につけることで、大規模なマス市場向けの商品ラインナップを拡充させていく戦略も考えられるかもしれません。そして、国内トップの食品ECビジネスに磨き上げていくという方向性もあり得るのではないでしょうか。

特にローソンはオイシックス・ラ・大地の大株主で、2017年に資本業務提携も締結していたりするので相性は良さそうです。また、コンビニチェーンの豊富な販売網や珍しい商品を取り扱う高級スーパー成城石井とのシナジー効果も期待できます。

最後に

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

読者の皆さんも、もしも自分がオイシックス・ラ・大地の代表取締役 高島宏平さんだったら、どのような経営戦略を取るか考えてみたり、仲間同士でディスカッションしてみると面白いかもしれません。

企業分析って面白いですね!


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