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あなたが求人情報メディアのリブセンス社長ならどのような経営戦略を取るか?

日本国内における人材不足が問題視されてきている中で、もしもあなたが、求人情報メディア事業を運営するリブセンス社長の村上太一氏ならどのような経営戦略を取りますか?

今回は村上太一氏が大学生時代に設立し、2012年に史上最年少で東証1部に上場したリブセンスの経営環境などを見ながら、みなさんも考えてみてください。

求人情報メディア事業をメインとしたリブセンス

リブセンスは村上太一氏が2006年に設立した会社で、現在の従業員数は440名となり、インターネットメディア事業を運営しています。

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リブセンスのセグメント別の売上比率を見ると、メディアの中でも求人情報メディアが全体の85%を占めており、主力事業であることが分かります。他には、不動産情報メディア事業が4%、EC事業が8%になっています。

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求人情報メディアのビジネスモデルを変えたリブセンスの成功報酬型課金

リブセンスが注目を集めるようになった理由として、従来の求人情報メディアのビジネスモデルを変えたことが挙げられます。従来型の求人情報メディアは、求人企業からもらった求人情報をWEBサイトに掲載することで、採用マッチングの可否によらず、一定の求人掲載課金を求人企業からもらうビジネスモデルでした。

一方、リブセンスは求人掲載課金はもらわずに、採用マッチングが成立した時にのみ、求人企業から成功報酬をもらう仕組みを取り入れました。そうすることで、求人・採用のために多くの予算をかけれないような中小・零細企業なども求人しやすくなるメリットがあります。

また、マッチング成立時に求職者に対しても祝い金が出ることも話題となり、一般ユーザー(求職者側)にもサービスが拡まりました。

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上場による知名度UPで売上急上昇するも、勢いはやや停滞気味?!

リブセンスの売上推移を見ると、2011年のマザーズ上場、2012年の東証一部上場やテレビCMを機に急上昇していることが分かります。ただ、その後はファッションECサイトを運営するwajaを子会社化していますが、売上増加への寄与は限定的で、やや勢いが薄れてきているようです。

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セグメント別の売上推移を見ても、不動産情報メディアやEC事業ではなく、求人情報メディアが急拡大してきたことが分かります。

また、最近の求人情報メディア事業の成長が伸び悩んでいるのは、SEOといったWEB集客施策で競合との優位性がなくなってきたことが挙げられます。

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次に求人メディアサイト別の売上推移では、アルバイト求人メディアのジョブセンス(現マッハバイト)と正社員転職求人メディアのジョブセンスリンク(転職ナビ)が大きく伸びています。また、2015年頃から転職クチコミサイトの転職会議の売上も伸びてきています。

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高利益率から低利益率体質へ

リブセンスの営業利益率は、急成長時の2012年には49.9%と非常に高かったですが、そこから急激に減少し、2015年には0.1%になっています。2016年には9.6%まで回復していますが、以前のような高い営業利益率には及んでいません。

当期純利益も同じように近年は、低空飛行状態になっています。

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低利益率の原因は増加する販管費(人件費)

リブセンスの販管費率・原価率の推移を見ると、販管費率の占める割合が大きくなり、営業利益率が減少していることが分かります。後ほど出てきますが、販管費率の中でも人件費の割合が特に大きく営業利益率を圧迫した状態になっています。

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人材メディアの競合各社の売上

人材メディア系の競合各社の売上は、リクルート(人材メディア)がダントツの1位で4053億円、その後にパーソルホールディングス(リクルーティング事業)が1032億円、ディップ(332億円)とエン・ジャパン(317億円)が続きます。

リブセンスは競合と比較すると、まだまだ売上は高くなく、伸び代がありそうです。

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高利益率を誇る”じげん”

営業利益もリクルート(人材メディア事業)が946億円で2位以下を大きく引き離しています。その後にディップとパーソルホールディングスが続き、それぞれ91.2億円、84.9億円となっています。

リブセンスの競合各社の営業利益率は、じげんが33.0%と、リブセンスの最高潮時の49.9%よりは低いものの、かなり高い利益率になっています。競合と比較しても、リブセンスの営業利益率は高くはない状態です。

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営業利益と広宣販促費との相関関係

人材メディア各企業の営業利益と広宣販促費の相関関係を調べると、非常に相関関係が強いことが分かります。つまり、広宣販促費に投資した分だけ営業利益として回収しやすい状況と言えそうです。

これは求人数に対して求職者側が人材不足のため、人材メディア企業は広宣販促費をかけて、どれだけ求職者を集められるかが、メディアとしての価値を向上させる上で重要になってきているためではないでしょうか。

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リブセンスとじげんの販管費の内訳比率を比較すると、リブセンスの人件費率は、じげんの2倍以上の48.1%で、逆にリブセンスの広宣販促費は、じげんの約半分で26.1%しかないことが分かります。同程度の販管費をかけているにも関わらず、リブセンスがじげんよりも営業利益が低くなっている要因として考えられそうです。

求職者が多い時は、営業人材を増やして求人企業を開拓していくことが売上や利益に繋がりやすかったかもしれませんが、求人数過多の現状では広宣販促費をかけて、いかに求職者を集客できるかが売上・利益増加に直結しているのだと考えられます。

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増加していく有効求人倍率

雇用形態別の有効求人倍率の推移は、リーマンショックで大きく減少していますが、そこから右肩上がりに増加し、全体の有効求人倍率は2016年に1.36倍となっており、リーマンショック以前の水準を上回っています。

ちなみに、パートタイムの有効求人倍率は2016年に1.70倍で、正社員は0.86倍になっています。

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職業別有効求人数トップ10

職業別の有効求人数では、介護・看護系、商品販売、飲食系調理の職業が多く、特に介護・看護系に特化した求人メディアサイトもよく見かけるようになっています。

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求人広告の媒体別掲載件数の推移

求人サイトと紙媒体(有料求人情報誌、フリーペーパー、折込求人誌の合計)を比較すると、2015年頃から求人サイトの掲載件数が紙媒体を抜き、その後も増加傾向になっています。

今後も求職者が求人を探す時に、インターネットを利用するケースが多くなることは想像しやすいため、この傾向は続くと考えられます。

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慢性的な労働人材不足

人口問題研究所がリリースしている「日本の将来推計人口」によると、生産年齢人口(15〜64歳)は2015年の7728万人から2065年には4529万人まで減少すると予測されています。

現状でも人材不足が問題視されていますが、①生産性の改善、②女性や高齢者の労働参加率を増加、③外国人就業者の増加といった対策を講じないと、今後ますます人材不足問題が深刻化してきそうです。

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リブセンスの本質的な経営課題は何か?

リブセンスの本質的な経営課題を考える前に、これまでの状況をまとめてみましょう。

リブセンスは、従来の求人情報の”掲載課金モデル”から採用マッチングが成立した時のみに課金される”成功報酬型課金モデル”を導入していき、アルバイトや転職の求人メディアとして急成長を遂げました。ただ、競合企業も同じ成功報酬型課金モデルを取り入れたり、近年はアルバイトや正社員の求人メディアだけでは成長がやや鈍化しています。また、人件費の増加により、利益が圧迫されている状態になっています。

求人メディアの競合は、市場における人材ニーズの高まりを背景に、広宣販促費を多く投入している企業が営業利益を伸ばしています。

市場に目を向けると、有効求人倍率はリーマンショック前以上に増加してきており、人口減少が進む日本では慢性的に人材不足の状況が続くと考えられます。そのため企業からの求人ニーズは益々高まっていくと予測されます。特に介護・看護、商品販売、調理系の求人数が中でも多く、職業特化型の求人メディアも出てきています。

以上の経営環境から、リブセンスの経営課題は以下の2つが挙げられます。

1. メイン事業である求人メディア(アルバイトおよび転職)の利益率の改善
2. 新規求人メディア事業の創出

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リブセンスの経営戦略の方向性

リブセンスの経営課題を解決する経営戦略としては以下の2つが考えられます。

1. 広宣販促費への投資増加
働き手の人材ニーズが高まっている中では、営業人材を増やして求人企業を獲得していくよりも、広宣販促費をかけて求職者を集客する方が売上・利益UPに繋がりやすいと考えられます。そのため、広宣販促費への投資を今以上に増加させ、主力の求人メディア事業における利益改善を図る方向性が挙げられるのではないでしょうか。

2. 新規ターゲット特化型の求人メディアの創出
アルバイトや正社員ではなく、プロフェッショナルなスキルを活かしたフリーランスとしての働き方がIT業界を中心にして注目されており、日本国内のフリーランス人口も年々増えているので、中長期的にはフリーランスに特化した求人メディア事業を立ち上げるのも良いかもしれません。

または、ディップやじげんが既に取り組んでいるような求人数の多い看護系などの職業特化型の求人メディアも候補として挙げられます。

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フリーランス専門の成功報酬型求人メディアでSESビジネスモデルを変える!

ランサーズの調査によると、日本のフリーランス人口は2015年版では913万人だったのが、2017年版では1122万人と、2年間で200万人以上も増えています。総人口に対する割合も8.9%になっています。アメリカにおける総人口に対するフリーランス人口の割合は16.9%なので、日本のフリーランス市場もまだ伸びていくと推測されます。

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これまでもフリーランス人材のマッチングプラットフォームといったサービスはSES(システム・エンジニアリング・サービス)と呼ばれ、多くのフリーランス人材が活用しています。

SESのビジネスモデルは、求人企業に求職者であるフリーランスを紹介し、マッチングした後も契約が続く限り、紹介企業に一定のマージン金額が継続的に課金されていくのが一般的です。そのため、求人企業側としては、マージン分の費用をずっと払い続けなければならず、一方のフリーランス側としては、本来もらえるはずの全報酬から一部を紹介企業へ継続的に差し引かれた状態になります。

このSESモデルにリブセンスの成功報酬型課金のビジネスモデルを取り入れて、マッチングが成立したタイミングのみにリブセンスへ課金することになれば、求人企業側とフリーランス側の両者にとって、契約が継続した場合でも余計なマージンが発生することがないため、より使いやすいプラットフォームになるのではないでしょうか。

また、マッチング成立時にフリーランスへお祝い金を出す仕組みを取り入れることで、フリーランス人材の効果的な集客プロモーションにもなるかもしれません。

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まとめ

いかがでしたでしょうか?

読者の皆さんも自分がリブセンスの村上太一氏だったとしたら、同じ経営戦略を取りたいと考えられるでしょうか?それとも全く異なった経営戦略を取るでしょうか?

他の企業の経営戦略に関するnoteも書いてますので、ご興味ありましたら、ご覧ください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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