見出し画像

物を増やす、どろぼうさん

「父ちゃん、どろぼうさんみたいだね。」
息子が2、3歳の頃、近所を一緒に散歩していて、
突然言われた。
「ん?」
カーブミラーに映る自分を見て気がついた。
全身、真っ黒。
確かに子供と日中歩くのには黒すぎる。

この格好で、ゆっくり住宅街を散歩してると、
空き巣か、何にかと間違えられるだろう。

結婚して地方に引っ越してくる前は、
都内でフリーターをして、
彼女(現嫁さん)と、狭くて古い部屋で同棲してた。
その頃はモノトーンの服をよく着ていた。
その名残で、子供が生まれた後も着ていた。

今思えば、結婚前は服をほとんど持っていなかった。
なくなった彼女の叔父さんの形見の、黒い革ジャンと、
彼女からもらった服ばかり着ていた。
帽子は嫁さんのを借りていた。
自然と黒い服ばかりを着るようになっていた。

同棲とは言っても、折半のはずの家賃も、
途中から殆ど、
嫁さんに払ってもらうような状態だった。

車は当然持てなかったので、
友達に安く譲ってもらった、
単気筒の古いオフロードバイクで、
良く二人乗りでツーリングに行った。
高速道路の2人乗りは、当時まだ禁止されていたから、
いつも一般道でゆっくり。

たまにお風呂でゆったりしたい時は
坂を下って、神田川を渡ってすぐの、
昔ながらの銭湯に、2人でよく行った。
脚を伸ばして、ゆっくり温って、
コーヒー牛乳を1本づつ飲んだ。

その頃の僕には、銭湯はちょっとした贅沢だった。

帰りはいつもちょっと遠回りして
公園でブランコに乗った。寒いのに。
でも、気持ちよかった。
寝るのは、2人で狭いシングルベット。
窓側は寒すぎるので、いつもジャンケンで決めていた。

本当に何もなかったけど、毎日が楽しかった。
2人ともいつも笑っていた。
携帯電話もなかったし、
デジカメも持っていなかったので、
当時の写真は少ない。
でも、全ての写真で、2人とも笑顔。

結婚して、子供が生まれてからも、
また別の楽しさがあった。

徐々に物も増えていった。
僕の服にカラフルになり、
着るものに困らなくなった。

子供が小学校の中学年になった頃から、
荷物が増えてきた気がする。

高学年になってからは、溢れてる状態。

物があっても、
休まらない。
落ち着かない。
集中できない。
家族の笑顔が減った気がする。

物を増やす事によって、息苦しくなり、
結果、家族の笑顔を奪ってしまったのかもしれない。

物を増やす、どろぼうさんだ!

本当に大切なモノは、
きっと目には見えないんだと思う。

部屋の中の、何も無い余白に、
その見えない物があるのかもしれない。

もう一度取り戻したい。戻りたい。

余分なモノは、遠ざけよう。

服もまた、モノトーンにする。
要素を減らしスッキリする。

モノトーンだけでは、
なかなか生活しづらいかもしれない。
でもこれは、シンプルな生活をするための、
通過儀礼として、有効だと思う。

スッキリできたら、無理をせず、
精査しながら、必要な物を手に入れればいい。

だから今は、
真っ黒な、どろぼうさんでいい。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?